池ポエム
ハンス



 プレブス

 足りなくなっていたオイルを充填した。
 昨日の晩、オイル切れの警告がついたのだ。前に一度、不精なのが災いして切らしたまま走らせ、あげくエンジンを悪くしてしまっている。自分のならいいのだ。直すの自分だし。問題はこれがほぼ四人の共有の乗り物だってことで。
 「お、ちゃんと整備してんだ。珍しいな」
 エンジンから真っ黒な煙が吹いた時に、真っ先に後頭部を強打してくれた人物がにこやかに現れた。
 「また誰かに頭はたかれちゃたまんないからね。大事な脳が調子悪くなっちゃうよ」
 「大丈夫。社長は少し叩いた方がまともになる」
 「おい」
 彼女はきれいに拭き終わったシートをなでた。どちらかというと、これに一番愛情を懸けているのは彼女だった。もっと大型のバイクはあるのに、一番小さいこいつは別枠で気に入っているようだ。
 「明日、行くんだっけ」
 「そうそう」
 「目一杯ふかすなよ。チビなんだから」
 前カゴに入れっぱなしになっていたスティックシュガーをつまみ出しながら言った。
 「これ、何」
 「あぁ。こないだパン屋でもらってさぁ。出すの忘れてた」
 半分黒ずんでいる。
 「変なもん入れていくなよ……仕事なんだから」
 薄暗い電球の光でも、とってもいやそうな顔をしているのがわかった。
 裸電球には蛾がたかっている。
 「あの辺、風強いから、気ぃつけて」
 明日行く村は強風の中にある。よほどの用事がなければ部外者が訪れることはない村。この白いスクーターは、部外者ではない。
 「飛ばされないようにするよ」
 「あぁ、人一倍気をつけてよ。社長も乗り物も両方小さめなんだから」
 気づかないうちに、前に貼りつけたステッカーを指でなぞっていた。鈍い光の下で、DSの文字が輝いていた。

2003年06月03日(火)
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