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■ 挽
「仕方ないことでは泣けばいいんだよ」 「なんですか、それ」 「さぁ」 小さな紙切れが床に落ちた。どちらも拾わなかったので、それをじっと見つめたまま。部屋の中で二人の人間が突っ立っている。 「いい命日だね」 不思議と穏やかな声だった。豆腐みたいな声だった。 隠し部屋の戸を閉めて振り返ると、お茶を持った千歳が座っていた。黙って何か言うでもないので、なんとなくベッドに腰掛ける。千歳は台所に立った。 いい命日はこんな午後なのだ。カーテンではなく、薄緑のブラインドがかかった窓からは黄色い日差しが射している。 「どうぞ」 出されたのはお茶だ。 「でもさ」 元の位置に座りながら千歳は口を開いた。 「珍しいじゃない」 「何がですか」 曖昧に言っているのはわかる。そっちの方が珍しかった。腹が立つくらい率直な人に曖昧にしゃべられると、逆に腹が立つものだ。千歳にできるのは曖昧にしゃべることであって、言葉を選ぶことではなかったらしい。コップに少し口をつけると、本題をしゃべった。 「泣くの、初めてみた」
2003年05月10日(土)
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