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風紋 もくじ / この前 / この後
海を見た。本物の海を。目の前にあったのは確かに海だった。川でも湖でもなく、海だった。だって、こんなに広いし、こんなにすごいし、海の匂いがするし。 話をした。話を聞いていただいた。話を聞かせていただいた。 今まで、あまり他の人に話すことがなかった話(そして、これからもあまり他の人には話さないだろうと思われる話)をした。そういう話を1つか2つ(あるいはもっと多く)抱えているのはそう珍しいことではないと思う。私だけがそうだとは思わない。ただ、どこかで誰かに話してみたい気持ちがあった。それもそう珍しいことではないと思う。でも、今まで話せずにいた。それもそう珍しいことではないと思う。 “そう珍しいことではない”とわかっていながら、でも私は話したかった。そして話した。一生誰にも話せないような気がしていたのに、いざ話し始めると、自分でも意外なほどにするすると話し始めていた。そしてそれを聞いて下さる方がいて下さった。 申し訳なくて申し訳なくて、でも、ありがたくてありがたくてならなかった。 帰りは、涙がこぼれるのを必死でこらえているような気持ちで電車に揺られていた。この場所から帰る時は、なぜいつもこんな気持ちになるのだろうと思っていた。それと同時に、今日は左肩のあたりから身体ががたがたと崩れ落ちるような感覚を覚えていた。けれど、哀しくはなかった。 その後、自分がどこをどのように歩いているのかわからないような感覚を抱えながら帰ってきた。地に足が着いていないような感覚。足が地面から数mm離れているような感覚。茫然自失。 家に戻ってからも茫然としていた。夕食を食べ終わって食器の片付けを始めてから、自分が夕食のメインのおかず(お魚)を食べていなかったことに気がついた。片付けが終わってから、お魚だけ食べていた。食べにくかった。 けれど、哀しくはなかった。哀しくはない。 話せたから、だと思う。話したことによって、何がどうなるのか、わからないが…。 火星とお月様を見ながら帰ってきた。どちらもそれぞれに美しく輝いていた。憧れた。 期せずして、希望が2つ実現した日になった。 不意に、“風はお好きですか?”と問い掛けたい気分になっている。妙な気分。でも不快ではない。
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