蛍桜

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Raining7
君に捧げる時間が少なくなるにつれて、僕が外に出る時間も増えた。疎かにしていた友達関係も、休みがちだった学校も、いい気晴らしになった。
それでも授業中に窓の外に目をやると、太陽がてっぺんから落ちていて、それを見るたび、君を思い出した。

君と付き合えないもどかしさ。自分の価値が分からなくなっていた。そうなってくると、誰に対しても本音を言えなくなって、僕ははけ口を失った。

「なぁ、俺にどうしろっていうんだよ」
ただ一つのはけ口が君だった。君はいつも何も答えずに、窓の外を眺めていることが多くなった。そんな君が憎たらしくて、暴言なんていくらでもはけた。君はそれを吸収しているかのように、痩せていくだけだった。
いつもどおりに、暴言をはいて、むなしくなって、さあ、帰ろうと思って立ち上がると、君が珍しく僕のほうを見ていた。
「なんだよ」
苛立ちがこみ上げた。君は、顔を歪ました。それは僕が好きだった君に似ていた。今思えば、あれは、精一杯笑っていたんだね。顔の筋肉さえうまく使えないようになっていたのに、笑ってくれていたんだよね。気づけなくてごめん。分からなくて、ごめんね。君がどんな思いで僕の醜い言葉に浸っていたか、君がどんな思いで毎日を過ごしていたか、僕はまだ理解できなかったよ。
君はそのあと、また窓に向き直ると、僕に聞き取れない声で、何かを呟いていた。耳をすませて聞いてみると、それは、君の好きなあの曲で、悲しい別れの曲だった。上手だとはいえないほど、リズムは飛んでいて、声もかすれていた。君は僕が初めてこの病室を訪れたときから、ずっとその歌を口にしていたんだね。僕に別れを告げるのと同時に、自分に、言い聞かせていたんだね。もう、ベッドの上で座ることさえ出来ない身体なのに、窓の外を眺めて、ずっとずっと。夕陽のむこうの僕に届くように。

ねぇ、君の中の僕ってどれくらいだった?
僕の中の君は、そりゃあもうちっぽけなもので、いつも居るか居ないか分からなかった。でもね、僕は君ばかり見ていたから、どんなに周りにモノが溢れても、どんなに雑音が聞こえてきても、君しか見えなかった。あんなにちっぽけな君だったのに、他の何よりも大切だった。失いたくなかった。そんな気持ちに気づいたのは、君が居なくなってからだったけどね。
ねぇこれって、君の存在が大きかったってことなのかな。

自惚れだけど、もしも、もしもね。君の中の僕が、僕の中の君と同じように、とてつもなく大きい存在だったとしたら、あの日々は君にとってどれだけ苦しかったんだろうって思うんだ。僕は取り返しのつかないことをいくつしたんだろうって。数えるたび、自己嫌悪に陥って、それでもまだ全部君のせいにする自分が居るんだ。ねぇ、君は僕のことどう思ってた?僕は君のこと、好きだったのかなぁ。

君は僕になんか出会わなければよかったのに。
でも、僕は君に会えてよかった。

僕は今でも君に依存しているよ。


2006年08月06日(日)

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