蛍桜

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Raining5
「別れたの」
君がそう言った時はビックリした。それでも、うれしかったよ。それは僕のためなんだ、って少し自惚れてた。君がどれほどの重荷を抱えていたのか、君がどれほどの決断を下していたのか、そのときの僕には分からなかったよ。いや、きっと、今でもまだ分かってない。
「なんで?」
別に、聞きたくもないし、聞く必要もなかったけれど、言葉が続かなくてそうたずねてしまった。君は少し間を置いてから、なんでも、と笑ったね。それ以上は何も聞けなくて、しばらく電話越しの沈黙が続いた。

それは、まだ桜がつぼみを膨らませているころだった。

春にはまだ遠かったけれど、僕たちは寒さから脱出して二人して笑っていた。何も考えずに、楽しいね、と口に出して言えた。

あのころだけは。

誰も知らない時間を過ごした。誰も知らない幸せな時間。でも、本当に誰も知らなかった。
「おまえはそれでいいのか?」
誰かが言った。
よくない。よくなかった。このままでいいはずがなかったのに、僕の心はぐらついていた。
そんな時だ。君の声を、ぬくもりを、感じられなくなったのは。

2006年08月04日(金)

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