蛍桜

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Raining4

君は目を腫らすほど、帰りたくない、と泣いた。僕は君の涙には弱かったね。君には家に帰れば心配している親はいるし、ちゃんとした寝床があるのに、なぜ帰りたくないのか僕には分からなかったよ。仕方なく、にかこつけて僕は君を家に招きいれた。制服のままじゃシワになるから、と僕の服を貸した。サイズの大きい僕の服を着た君はいつもよりもかわいく見えた。
「帰りたくないの」
「分かったから」
僕の目線が責めているように思えたのか、君は何度も繰り返した。僕は理由も聞かずに、分かった、とだけ繰り返した。ただ下心があっただけだったけどね。
僕も学生だから、1人暮らしをしているわけじゃない。オンナを連れ込んで、親が何も言わないわけじゃない。親は部屋をノックしては何度も僕を呼び出し、君を追い出そうとした。そのたび君は部屋の隅でおびえていたね。何度目かの呼び出しのあと、君は帰る、と呟いた。
僕は待って、と言える権利もなく、もう電車の終電さえない時間に君を自転車で家まで送った。片道一時間。行きはたくさん雑談をして、君はずっと笑っていた。海にいたときよりも寒さが厳しくなっているはずなのに、君は弱音は吐かずに一時間の道のりを僕の後ろで過ごしていたね。行きの一時間は、とても早かった。だから、今度は僕の番だったね。
「帰りたくない」
君はちょっとだけ笑って、僕の頬にキスを落とした。
行きよりも帰りは長かったけど、それでも、考え事ばかりしていて、あっという間だった気がするよ。
寒かったね。息はもう白く染まっていたね。
僕が帰るまで君は起きていてくれて、電話をした。甘い甘い声だった。
2006年08月03日(木)

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