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■ 女神の棲む家<3>
少し身体の調子が良くなってくると、チドリはたびたび脱走を試みるようになった。 実際は歩くのもやっとの状態で、そんな身体で遠くまで行けるはずもなく いつも、家の前の小道で行き倒れているチドリを僕が発見するのがオチだった。
無理に身体を動かしたせいで熱が出てきたチドリをベッドに横たえながら、僕は彼女に尋ねた。
「なんでこんな無茶するんだよ。」
「ここにいるのが厭だからに決まってんだろ」
「何が、どこが、どうしてイヤなんだよ、言ってみてよ。 僕は君の面倒を見ることは負担に思ってないって言ってるだろう?」
まるで、僕が見当違いな発言でもしたかのように、チドリは大袈裟にイヤな顔をした。
「居心地が、お前の態度が、私の目に付くもの全部が厭だ。 お前の意思なんざ関係ないだろうが。私がここにいるのが嫌だって言ってるんだ。」
チドリは、熱のせいか火照って潤んだ瞳で僕をにらむ。
「……このベッドは、お前のか。」
「……君が来るまでは、確かに僕のベッドとして使っていたね。」
「男が寝起きしていたのと同じところでなんか気色悪くて寝れるか! やっぱり厭だ。出ていく。」
「……そんなこと言って、他に行くアテもないんだろ? ずっとここに居ろって言ってるわけじゃないんだ。せめて自由に身体が動かせるようになるまでじっとしててくれよ。」
チドリはよくこんなふうに、自分のことを顧みない我侭を言い張っては僕を困らせた。 本来は、僕に困る理由なんてものないはずなんだけれど。 自分から進んで苦労性になってしまうのはお人好しの運命か。
「男からのお下がりのベッドなんて使ってられないな。」
「じゃあ、君専用のベッドを作れば良いんだろう?」
「………お前、本気で言ってるのか?」
「3階の屋根裏部屋が空いてるんだ。ちょっと狭くて、暗いけど。 そこに君のベッドを置こう。それで良いだろう?」
チドリの返事も聞かず、僕は階段を凄い勢いで駆け下りて、日曜大工の準備をはじめた。
「―――で、ここが天窓になってて夜は星が見える。 少し薄暗いけど、そこは勘弁してくれよな。ここが君の新しい部屋だ。」
あの会話から二日後、僕は彼女の肩を支えながら今まで物置となっていた3階の屋根裏部屋に彼女を連れていった。 念入りに掃除をしたけれど、ずっと人の出入りのなかった屋根裏部屋はどこか埃っぽかった。 人間が5人いれば窮屈に感じるような狭い部屋なのだが、手作りのベッドがポツンとひとつ置いてあるだけの空間は実際の面積よりも広く感じる。
「……本当に、ベッド作ったんだな。」
「家のすぐ傍に生えてた大木を使ってね。 おかげで家の窓から見る風景が寂しくなった。」
「ふん……。」
彼女ははじめ、“何があっても絶対に喜んでやるもんか。”と固く心に誓っていたようで、僕がどんなことを言っても反応せず、不機嫌な顔で黙り込むだけだった。 僕は、突っ立ってないで色々触ってみたら、と促した。 といっても、元物置の屋根裏部屋には僕が作ったベッドの他には何も置いてなかったんだけれど。
まずはじめに、彼女は静かに呟いた。
「この部屋の薄暗さは居心地が良いな。」
それから、小さな部屋をぐるりと一周してからストンとベッドに座り
「窓際にベッドがあるのは趣味が良い。」
と言った。出窓であったこともどうやらお気に召したらしい。
まどろむようにゆっくりとベッドに倒れこんで、そのままとけていくような柔らかい声で、ついに僕の作ったベッドを褒めた。
「寝心地が良いな……。」
目を閉じて、深く深呼吸をして、ベッドの柱に頬擦りをして。
切ったばかりの木の さわった感じも かおりも 音も ……すべて懐かしい。
と言った。
最終的には、僕が彼女のために作った特注品の手作りベッド含め 僕が彼女の個室として与えた屋根裏部屋の空間まるまるそのものを、とてもとても気に入ってくれた。 ベッドの上でほんの数分まどろんだ後、彼女は先程までとはうってかわってハイテンションになった。 彼女は溢れんばかりの笑顔を振り撒いてはしゃいだ。 ベッドの上で子供のようにくるくる回ったりした。 チドリは本当に嬉しそうだった。僕も、とても嬉しかった。 それは、僕が今までに経験したことのない喜びだった。
自分の行動が、人に喜びを与える。 笑顔が溢れる。 人と人との間に、やわらかな風が吹き込む。
今まで一人で生きていた僕が、初めて手にしたひとつの幸せの形だった。 この日から、人に笑顔を与えてやることが僕の最大の生きがいとなる。
僕が一番喜ばせてあげたかったのは、やはり何といってもチドリだった。 僕はどんな些細な機会も逃さずに、ありとあらゆる手段を使って彼女を喜ばせようとした。 だけど、彼女はたいてい素直に喜んではくれなかった。 もちろん、意地もあっただろう。でも、どうもそれだけではないようだった。 心底辛そうな表情で「お前のやさしさが痛いんだ。」と言われた時には、僕も泣きそうだった。 母親っていうのは、自分の子供が熱を出したり苦しんでいたりすると、自分にもその辛さが伝わってきて、同じ痛みを共有するなんてことがあるらしい。 僕も似たようなものだった。 一緒にすごし、身の回りの世話を焼いているうちに、いつしか彼女の痛みが僕にまで伝わるようになっていた。 彼女の痛みは外傷ではなく精神的なものからくる痛みで、 それはなぜか、僕にやさしくされたり、僕がとても楽しそうにしているときに、酷く痛むものらしかった。 以前にその痛みの原理についてチドリに詳しく聞かされたこともあったが、いまだによくわからない。
僕のやさしさは、彼女を傷付けてしまう。
それがわかっても、僕は彼女にやさしさを与えるのをやめなかった。 もちろん、何度も迷い、惑い、悩んだけれど。 それでもぼくは、彼女にやさしさを いたわりを 思いやりを 慈しみを とめどなく与えつづけた。 彼女の身体がそれを拒んでも 僕には、彼女の心はいつも誰かのやさしさを求めているように見えたから。
それに
彼女が心から喜んで笑ってくれた時の笑顔は
何よりも何よりも
美しかった。
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お、終わった………汗 なんだかもう、数年前から変わらない由良節(?)が炸裂しておりますな。 結局、どんだけ年とっても書きたいのはくさいセリフの羅列なんだね。 成長してないなぁ……。
ウチの母上はやっぱり子供のやる気を無くすようなことしか言ってくれません。 まぁ、愚痴ってた私が悪いんだけどさ… でも悩んでる娘に対して 「じゃあ、あんたの書く話がつまらないってだけのことでしょ。」 て。 そんな、キッパリ………。泣
かなり凹みましたー でも、書きますよ。えぇ、この話は書ききりますよ。意地でも。 書いてる最中に弱音吐いてすいませんでしたー この回は自分でも自信もって出すことはできないかも… 書きたい話だったハズなのになぁー……
あ、テスト終わったよ。 サモンまたソルナルED見たよ。笑 お礼のお手紙書かなきゃー! ……また明日?汗
2003年12月05日(金)
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