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| 2004年01月07日(水) ■ |
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| Vol.420 変わらない場所 |
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おはようございます。りょうちんです。
すこぶるカラダが丈夫にできている俺は、歯も頑丈にできているようだ。口内炎ができることはあるけれど、りんごをかじったって歯茎から血なんか出ないし、歯磨きの時にえずくこともない。親知らずが生えてきたために奥歯が痛んだ高校生の頃を最後に、もう十年以上も歯医者さんとは無縁の生活をしている。 そんな俺が、母の付き添いで久しぶりに歯医者さんに行くことになった。母がお世話になっている歯医者さんは、俺もちびっこだった頃にずっと通っていたところ。小学生だったあの頃は、学校の歯科検診でチェックされた部分の治療が終わるまで、毎週のようにこの歯医者まで弟と通っていた。 入口のドアを開けて中に入ると、待合室はあの頃と何も変わっていなかった。クリーム色の壁紙も、木製の靴箱も、窓際に置かれたシロチクの鉢植えも。まるで時が止まっていたような錯覚に、少しだけ陥った。その瞬間、忘れていた懐かしい記憶が一気に俺の胸の中によみがえってきた。治療の順番を待つ間のやり場のない不安とか、椅子に座った時に感じた薬品のにおいとか、歯を削る機械の甲高い音とか、置くと勝手に水が注がれる鉄製のコップとか、薄い水色の白衣を着た先生のやさしい声とか、スピーカーから聴こえる心地良いBGMとか、大きな鏡の前で弟と並んで教えてもらったブラッシングの練習とか。あの頃はここが嫌いで、来るのがイヤでたまらなかったのに。知らないうちにそれが、懐かしい思い出へ変わっていた。 母の歯の治療が終わるのに、それほど時間はかからなかった。扉越しに見えた先生はすっかり白髪頭になっていて、やっぱりここでもちゃんと時は流れていたんだと確信した。しかし、お金を払おうとカウンターの前に立った時、俺自身も変わっていたんだということに気がついた。あの頃、背伸びをしなければ見えなかったカウンターの台が、今は普通に見下ろせている。あの頃よりも身長が伸びた俺の、目線の高さが変わったのだ。ここは何ひとつ変わらない場所なのに、やっぱり人は変わっていくものなんだなぁと思うと、何だかとても不思議な気持ちになった。
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