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2009年12月10日(木)
松本人志いわく、「笑いの源泉は怒りだ」。

『笑う脳』(茂木健一郎著・アスキー新書)より。

【お笑い芸人さんも、大成している人は、どうも攻撃性が高いひとが多いのではないだろうか。彼らはその攻撃性を笑いで、たくみに解毒しているのだ。攻撃性が高ければ高いほど、強烈な解毒剤が必要になってくるのは、理にかなっている。
 その意味で、怒りと笑いは表裏一体といえる。
 以前、松本人志さんと話をしたときも、彼は「笑いの源泉は怒りだ」と語っていた。とにかく腹が立って、腹が立って、仕方ないと。90パーセントくらいは、怒りで成り立っているというのだ。
「僕はね、スゴイというか不思議なのは、世の中に怒っているんですよね。怒っていることを発してひとを笑わせてるっていうのは何なんやろって、自分でも不思議なんですよね」
 そう語る松本さんが、お兄さんから聞いて思い出したという自分の幼いときのエピソードを教えてくれた。
「雨が三日間くらい降り続いたときにね、空に向かって、ずっと怒鳴ってたんらしいんですよ」
 松本さんはダウンタウンではボケを演じている。ところが、本当はボケているように見えて、ツッコミを入れているのは松本さんの方なのではないだろうか。それも相方の浜田雅功さんにではなく、世の中に対するツッコミだ。松本さんが世の中を怒り、ツッコミを入れる。すると観客がどっと笑い出す。
 こんな状況に松本さん自身は「腹立つときもあるんですよ。本当に怒ってるのに、みんなは笑っているって」と苦笑いをする。
 たしかに松本さんは怒っているのかもしれない。冗談ではなく、言っていることが真を突いている場合もある。ところが、真を突いていれば突いているだけ、聞いているこちら側は「おもしろい」と笑ってしまう。
 そんな松本さんを見ていると、ふとギリシャ神話に出てくるミダス王を連想してしまう。ミダス王はディオニューソスに頼み、自分が触れるものすべてを黄金にする力を授かった。そして祝祭を催し、召使いに贅沢な食事を準備させる。ところがミダス王が手を伸ばすとたちまち食べ物は硬くなり、飲み物も黄金の氷へと変わってしまう。全部黄金になってしまい、結局、王は飢餓に苦しめられたという伝説だ。
 すべての怒りを言葉にすることで黄金の笑いに変えてしまう、松本さんはミダス王のようだ。しかし、そこに孤高の哀愁もつきまとう。松本さんの怒りのほどは誰にも知られることなく、まわりはただただ笑いの渦に包まれる。怒りが高まれば高まるほど、笑いは最高潮に達してしまう。
 僕は常々感じているのは、本物のひとほど、孤独であるということだ。その点で、松本さんは孤独である。脳の仕組からいっても、それをやらないと生きていけないようなことほど、本物に近づく。そしてその「やらないと生きていけない」ことは他人と共有することができないのだ。
 松本さんの場合もそうだ。彼は職業としてお笑いをやっているのではなく、生きている、そのすべてのエネルギーを笑いに注ぎ込んでいる。
 松本さんは語る。自分が育ってきた環境が「笑いにしていかないと、生き残っていけなかった地域やったんすよ。おもしろくなければダメ。ある種、サッカーで言うたらブラジルみたいなところで育ちましたから」と。
 いまでは、松本さんが育った地域も大阪も、「上品に」なってきてしまっているという。だからこれから先、大阪のお笑いは不安だと。
「空を見上げて怒鳴っていたではないですけど、下から上を目指してアピールするものが笑いになっている気がするんですよね」】

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 松本人志いわく、「笑いの源泉は怒りだ」。
 そう言われてみれば、テレビのなかの松本さんは、たしかにいつもちょっと苛立っていて、何かに怒っているように見えます。でも、芸人だし、どこまでが松本さんの「本当の姿」なのかは、正直、僕にはよくわかりません。
 芸能人の中には、裏表がはっきりしている人も多いし、「悪役ほど実際はいいひと」とか言われていますしね。

 しかしながら、ここで紹介されている、「松本さんの幼いときのエピソード」を読むと、松本さんが生まれつき抱えている「怒り」の激しさというか、「怒らずにはいられない人なのだ」ということがわかります。
 だって、ひとりの子どもが、「雨が降り続いていることを、空に対してずっと怒鳴っている」というのは、誰かのウケを狙ってやっていることだとは思えない。
 実際にそんな子どもを目の当たりにしたら、いったいどう感じるだろうか、笑うだろうか?というようなことを考えてしまいます。

 世の中には、「しょっちゅう何かに対して怒っている人」というのはけっして少なくありません。でも、それを「芸」に昇華し、お金を稼ぐ手段にすることに成功した松本さんは、やっぱりすごいとは思うんですよ。
 「怒り」が松本人志の笑いの「源泉」であるのだとしても、松本さんはちゃんとそれを加工して、多くの人が笑えるようにしているのだから。
 しょっちゅう怒っているオッサンは競馬場やパチンコ屋にはたくさんいるけれど、彼らは誰かを不快にすることはできても、笑わせることはできません(「嘲笑される」ことはあるとしても)。

 ただ、「自分が本当に世の中に対して怒っているのに、周囲はそれを聞いて大笑いするばかり」という状況は、ほんとうに幸せなのかな、という気もします。もちろん、芸人としては、笑ってもらわないことにはどうしようもないのでしょうけど。
 観客にウケることは、「自分を理解してもらうこと」とはまた別の話で、自分が愉しみながら、他人を笑わせるというのは、ものすごく難しいことのように思われます。
 そういう意味では、茂木先生が書かれているように、芸人というのは、売れれば売れるほど、そして、笑わせれば笑わせるほど、「孤独」になっていかざるをえないのかもしれませんね。



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