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2009年10月18日(日)
「勝間さん、自分と違う人がいることはわかります?」

『AERA』2009年10月12日号(朝日新聞出版)の対談記事「勝間和代×香山リカ〜『ふつうの幸せ』に答えはあるか」より。構成は小林明子さん。

【勝間和代:香山さん、家事は好きですか?

香山リカ:好きじゃないです、全然。

勝間:私、好きなんです。洗濯物がパリッとなったり、お皿がピカピカになったりするプロセスが大好き。自分の行動で物が変化するって、楽しくないですか。だから私、ご飯を食べて「ああ、おいしい」と思うだけで毎日が幸せです。今日も昼間、子どもの友達とお母さんがうちに遊びに来たんですが、デリバリーでとったサンドイッチがおいしくて、幸せでした。

香山:ご飯で幸せになれるんだったら、別に仕事で成功したり、資産を増やしたりしなくてもいいんじゃないですか。

勝間:おいしいご飯のためには、そこそこの経済力とスキルが必要です。いいレストランが判断でき、素材を吟味できたほうがいい。使いやすいお玉や粉ふるいを選んだり、レシピを5分短縮したりすれば、子どもと遊ぶ時間も捻出できます。

香山:私は、そんな血のにじむ努力をしなくてもコンビニ弁当で十分幸せです。カツマーと呼ばれる人たちは、勝間さんがご飯のためにこれだけ努力していると聞いたら、「このままではダメなんじゃないか」と思うんじゃないでしょうか。

(中略)

香山:私は浪費とか空費といった時間だけで成り立っているようなものなので、そこを減らすなんてできないです(笑い)。それをずっと続けるなんて苦しくないですか?

勝間:全然、苦しくないです。

香山:私にとって浪費や空費を制限することは欲望を抑えることだから、怠惰にしたい時間に英語を勉強すると、さぞかしすごい幸せが手に入ると、思い描くかもしれません。勝間さん、自分と違う人がいることはわかります?

勝間:わかります。私も昔、お酒もたくさん飲み、タバコも吸っていましたから。でも、やめたほうが幸せだと気づきました。

香山:空費70%の私のような人間はどう思います?

勝間:空費の時間を楽しめるならいいですよ。でも、時間を空費しておいて、うまくいかないと悩むのはよくないと思います。

(中略)

香山:『国家の罠』の著者、佐藤優さんと話したときに、弱者への思いやりを持つことは人として当たり前だと言われました。

勝間:道に迷っている外国人がいたら、声をかけますよね。

香山:そうですか? ある小学校では「知らない人に道を聞かれたら走って逃げましょう」と教えています。病院でも救急患者を優先したら苦情が来ます。このご時世、誰もが自分の身を守るのに精いっぱいではないでしょうか。「人として当たり前」なことすら、「教育」しなければいけないような気がするんですが、今、何を根拠に思いやりを教えればいいのでしょう。

勝間:すごくシンプルです。外国人に道を教えたら、外国で迷ったときに教えてもらえる。利他的な行動を取れば自分が得をすると学んだ人は、利他的な行動を取るようになる。伝播させるには、リワードと呼ばれる報酬が必要です。

香山:道を教える報酬は何ですか。

勝間:相手が「ありがとう」と言ってくれること。

香山:でも、当たり前の思いやりと、リワードがあるからやることとは矛盾しませんか。「思いやりは当たり前」と言える人は生活が安定していたり、自分に自信があったり、親から肯定されて育った人ではないでしょうか。

勝間:確かにある程度のリーダー層に限定されるので、格差で苦しんでいる人たちが自発的に行動に移せるようにするには、サポートし、カリキュラムを作る必要があります。利他的な行動をすると評価される人事考課や評価制度を作ればいいのです。

香山:でも、成果主義の評価項目に利他的な行動を加えたら、社員が必要以上に同僚の仕事を肩代わりするようになったというのは、本来的な思いやりとは違いませんか。やはり人間は本来、利他的行動はしないということですか。

勝間:行動はするけれど、反応や喜びがなければ続きません。

香山:喜びは「ありがとう」でもいいんですか。

勝間:それだけでも十分ですが、人間は食べていかなければならないのでお金にならなければ続きません。自分の生活を犠牲にしてまで、利他的な行動はできませんから。

香山:できませんか。

勝間:できないでしょうね。許可や報酬を与えるというのは、迷う時間をなくす意味もあるんです。何秒かでも利他と利己どちらかを迷うことが、会社や社会全体では莫大なロスになる。

香山:利己的行動より利他的行動を評価するほうがましだとは思いますよ。だけど、やっぱり評価しないとできないのかな。私はヒューマニズムというものに懐疑的でして。

勝間:私はそれはあると強く信じているんですよ。】

〜〜〜〜〜〜〜

 この『AERA』の対談記事を読みながら、「やっぱり、僕は『カツマー』には、なれないなあ……」と思いました。
 「ご飯が美味しければ幸せ」という話から、「おいしいご飯のためには、そこそこの経済力とスキルが必要です」なんて言われてしまうと、「いや、それはたしかにそのとおりなんでしょうけど……」と、ついていけなくなってしまうのです。
 僕が子供だったら、「自分と遊ぶ時間を『捻出』するために、そこまでいろんなものを突き詰めていく親の姿」を見て、そんなに「幸福」を実感できるものだろうか?
 むしろ、「無理して遊んでくれなくてもいいから、もっとゆっくりしてくれればいいのになあ」と感じるのではないかなあ。
 いや、勝間さんのお子さんは、僕みたいないいかげんな人間じゃないから、違うのかもしれませんけど。
 この勝間さんの話を読んでいると、勝間さんは「子供や社会のために」と言っているけれど、実際は、「いろんなものを効率化していくことそのものが楽しい人」のような気がするのです。
 そして、もちろん世の中は、勝間さんタイプの人ばかりじゃない。

 香山さんの「勝間さん、自分と違う人がいることはわかります?」と
いう問いかけに対する、勝間さんの答えは、とても印象的でした。
【わかります。私も昔、お酒もたくさん飲み、タバコも吸っていましたから。でも、やめたほうが幸せだと気づきました】
 勝間さんは、たぶん、「お酒やタバコで、ささやかな幸せに浸ることしかできない人間」の存在を理解できないのではないかなあ。
 「私ができたのだから、あなたもできるはず」というのは、ある種の「信頼」ではあるのだろうけど。
【空費の時間を楽しめるならいいですよ。でも、時間を空費しておいて、うまくいかないと悩むのはよくないと思います】
 という言葉には、まさに「時間を空費して、そのことに後悔しっぱなし」の僕にとっては、すごく耳に痛かった……

 この対談では、香山さんの「当たり前の思いやりと、リワードがあるからやることとは矛盾しませんか?」という問いに、勝間さんの答えが揺れていることが伝わってきます。
 僕も「利他的な行為が人事考課に反映されるようなシステムの下で行われる」のは、結局、「利他的に見えるような、利己的な行為」だと思います。
 「リワードがないと、利他的な行為は継続できない」と言っている一方で、「思いやり」や「ヒューマニズム」への信頼を語られていると、「で、結局はどっちなの?」と考えずにはいられません。
 勝間さんは、「世界を救おう」というよりは、「自分を信じている人たちを引き上げてあげよう」という人なんじゃないかと僕は思います。
 でも、「人生を効率化すること」に向かない人っていうのもいるし、そういう人は、香山さんのベストセラー『しがみつかない生き方』のオビにあったように「<勝間和代>を目指さない。」ことも大事な「自分を不幸にしないための戦略」なのではないかと。

 でもね、なんのかんの言っても、香山リカさんもあれだけたくさん本を書いて、精神科医としての仕事もこなしているわけだし、『しがみつかない生き方』と「単にグータラして、サボっているだけの生き方」っていうのも全然違うんですよね。

 正反対の主張をしているようにみえるけれど、勝間さんと香山さんの「距離」よりも、怠惰な僕と香山さんとの距離のほうが、実際は、よっぽど「遠い」のだよなあ。



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