初日 最新 目次 MAIL HOME


活字中毒R。
じっぽ
MAIL
HOME

My追加

2009年10月11日(日)
「つぶやきシロー」という生きかた


『Twitter』で僕もつぶやいています。
http://twitter.com/fujipon2


『のはなしに』(伊集院光著・宝島社)より。

【せんだみつおさんの名言に「売れてないやつに落ち目はない」というのがある。そう思う。名前を出して悪いが猿岩石を気の毒がる若手芸人にどれだけの栄光が待っているというのだろうか(※単行本発売時に2009年、猿岩石の有吉氏再ブレイク中)。
 僕は登ってもいない山のデータだけを見て帰り道の疲労を心配し、登るのをやめたり、中腹に住みやすい場所を見つけて住みついたりしてしまう性格だが、登った人を褒め称えることに異論はない。頂上から登れない僕を馬鹿にした人や、息も絶え絶えのくせに自慢する人は嫌いだが。「確かに辛かったけれど、いい景色だったなあ」という言葉を聞くと羨ましい限りだ。
 例え話がえらく抽象的になってしまったので最初の話に戻るが、同じ事務所の後輩芸人につぶやきシロー氏がいる。彼は今「あの人は今」の常連化している。「一時死亡説が流れた程見なくなった」というのが彼を紹介するときの定番だ。
 彼の面白いところは、テレビに出まくっていたときから常々「今の状態は異常だ」といい続けていたこと。悪くいえばネガティブ、よく言えば冷静な彼らしいところだ。普通、理由はどうあれ山の上まで来てしまえば「おーいきれいだぞ、お前らも早く登って来いよ! まあ、お前らに体力があればの話だけどね−!」くらいのことはいいたくなりそうなものだが「僕はこの業界の端っこのほうで、100人のうち3人がわかるかわからないかのネタをぶつぶついっているタイプなんです」が彼の口癖だった。「僕は高尾山の二合目くらいにいるのが好きなんです、それなのに知らないうちに富士山の頂上に連れてこられちゃって、怖くて仕方ない」でな感じだ。
 現に彼は今渋谷で数カ月に一回単独ライブを開催して「ぶつぶつ」いっている。そしてこれがめちゃくちゃに面白い。僕は彼の「人に連れられて富士山なんか登っちゃったけど、いいね高尾山は、僕はここが好きなのね」という立ち位置が正直うらやましい。】

〜〜〜〜〜〜〜

 たしかに、一度も売れたことがなければ単なる「売れていない人」で、「落ち目」も何もないですよね。自分が成功したこともないのに、他人をそうやって嘲笑ったり、哀れんだりするのは傲慢なのかもしれません。
 とはいえ、僕も何年か前に、地元のショッピングモールに営業にやってきて、ほとんど立ち止まる人もない中で「ナハナハ」とかやっているせんだみつおさんを見かけて、なんとなくつらい気分になって足早に立ち去ってしまったことがあるのですけど。

 僕が、「つぶやきシロー」を知ったのは『タモリのボキャブラ天国』という番組でした。爆笑問題やネプチューンのように、その後、売れっ子になった芸人たちも出演していたのですが、つぶやきシローは、その芸風が「ボキャブラ」のスタイルに合っていたこともあり、番組を代表する「キャブラー」のひとりとして活躍していたのです。

【「今月、金無いな〜」 「そうか、今月、だいぶつかったからな(大仏買ったからな)」】というネタは、僕にとっては、「ボキャブラ」のなかで最も記憶に残っているもののひとつです。
 その後、全くメディアに露出しなくなり、「死亡説」も流れていたのですが(僕も「死亡説」聞いたことあります)、伊集院さんによると、本人のスタンスはあの頃も今もほとんど変わらず、「100人のうち3人がわかるかわからないかのネタをぶつぶついっている」そうなのです。そういえば、つい最近、つぶやきシローがTwitterをはじめたという話を聞いたなあ。

 僕はこれを読みながら、つぶやきシローという人が羨ましいな、と感じました。人って、確固たる「自分のスタンス」を持っているつもりで、実際は、ちょっとしたことですぐに流されてしまうものだから。
 「売れなくてもいいから、自分の好きなことをやりたい」って言っている人は、本当にたくさんいます。「お金じゃなくて、やりがいなんだ」って言う人も。
 でも、成功して周囲から評価されたり、大金を稼ぐ経験をしてしまうと、やっぱり、多かれ少なかれ、「影響」を受けてしまうのが普通でしょう。
 売れているときには「天狗」になってしまったり、「ブレイク」が終わると、売れていた頃の自分や売れなくなってからの周囲の態度をひたすら批判したり。

 「成功しても変わらないスタンスで続けること」というのは、「成功すること」そのものよりも難しいような気がします。
 つぶやきシローは、あの頃僕が思っていたよりも、はるかに「強い人」だったんだなあ。「向上心がない!」って言う人も多いだろうけど、僕はこういう生き方に憧れてしまうのです。