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2009年05月07日(木)
「特撮ヒーローの常識」を超えた『宇宙刑事ギャバン』

『超合金の男〜村上克司伝』(小野塚謙太著・アスキー新書)より。

(名作玩具「超合金」を開発し、「スーパー戦隊」を作り出し、「ライディーン」「ゴットマーズ」「ゴールドライタン」などの変形・合体ロボのデザイン設計にも従事された、伝説のプロダクト・デザイナー・村上克司さんの伝記の一部です。『宇宙刑事ギャバン』の誕生秘話。「」内が村上克司さんの発言です)

【実はこの新番組企画には、危機的局面を突破すべく、過去最高の制作費が捻出されていた。それは「凶と出たら、二度と特撮の新ヒーローは生み出せないほど」(東映・鈴木武幸プロデューサー)の額だったという。
 女児向けアニメが放映されていた金曜夜7時半からのゴールデン枠を「己の進退をかけてとってきた」という吉川プロデューサーに、主演の大葉健二が「それなら自分は現場で命をかけます」と答えた話はファンの間で有名だ。
 他にも脚本の上原正三、演出の小林義明、特撮の矢島信男、アクションの金田浩、音楽の渡辺宙明など、才気あふれるメンバーが新企画の成功に向かって一丸となっていた。
 その旗印こそ、村上の描いた、解説不要のヒーローデザインに他ならなかった。
 ところがテスト撮影の段になり、撮影スタッフからスーツのメッキに対し、困惑の声があがる。周囲が映りこむのはまだしも、日光や照明を照りかえし、全身いたるところでハレーションが起きてしまうというものだ。それは従来の特撮シリーズではリテイク必至の、強烈なハレーションだった。<これではとても撮れない――>。
 しかし、村上は平然と言った。
「それがいいんじゃないか。もっと光らせてくれ」

 メタリックなスーツが起こす強烈なハレーション。それこそ、村上の意図する真の演出効果に他ならなかった。
「逆光でボディが影になり、胸のインジケータ―がバーッと点滅する。また、光を受けるとハレーションが起きて、全身がブアッと光る。メカニックな雰囲気を出すだけでなく、こうした光を利用した演出を可能にすることが狙いでした」
 電飾の効果や素材の質感、その照り返しまでも計算に入れたデザイン。それは、まさしく工業デザイナーならではの発想だった。出来上がった画面の強烈なインパクトは、スタッフを大いに唸らせた。
 ひとたび理解してしまえば、そこは天下の東映である。撮影に適したライティングや絞りをつかむのに時間はかからず、ときにはわざとハレーションを起こさせ、ときには派手なクロスフィルターを使用し、キャラクターの魅力を存分に引き出しはじめた。ハレーションを起こしたままの状態でアクションされ、場合によって全身をフッと霞ませて見せたりする演出などは、村上の思惑を超えるものだった。

(中略)

「撮影現場で起きたクリエイティブ上の議論は、枚挙にいとまがありません。そのセリフに関しては覚えていませんが、ギャバンは私なりのヒーローです。1話目はまだキャラクターの紹介に徹するからよいが、2話目からは各監督のカラーが出はじめる。そうすると当然、イメージの食い違いも出てきます」
 たとえば、アクション面での齟齬。スタッフはギャバンに、従来の仮面ライダーやスーパー戦隊と同じ、大振りなポージング、目まぐるしい殺陣をさせたがった。それに対し、村上は異を唱えた。村上はギャバンにおいては、昔の時代劇のような、静から動のような、瞬時に移るダイナミックな殺陣を考えていたのである。むろん現場も、「それではとても間が持たない」と簡単には譲らない。

 また、ギャバンをサポートするメカのひとつ、“電子星獣ドル”。この巨大な竜の変形メカは、低年齢向けであるスーパー戦隊ロボとの差別化を意識したもので、ギャバンの守護神的存在としてデザインしていた。ギャバンがその鼻先に立って飛ぶ名シーンがあるが、村上のイメージでは、ドルは自らの意志をもってギャバンを守り、敵と戦う、能動的で、神秘的な存在だった。
「あの演出では対象年齢が想定より下がってしまう。ただ、ドルはコンセプトがややマニアックで、玩具も売れることは売れたが絶対的なセールスパワーはなかった。今にしてみれば、あの方向性で丁度よかったといえるのかも知れません」
 もっとも、当時は村上もスタッフも懸命である。現場ではさまざまな声が飛び交った。“俺がギャバンだ!”なる言葉は、そんな中、ギャバンのヒーロー像はデザインした自分こそが一番わかっているんだ、という思いから出てきたものだったに違いない。

(中略)

「ギャバンをデザインする際、赤い目にするのには勇気がいりました。赤く鋭い目というのは、善悪でいえば“悪”なのです。黄色やグリーンなども考えましたが、悪者に対する激しい怒りを目に現すには、やはり赤しかない。一歩まちがえば野卑になるので悩みましたが、このプロテクターのデザインなら大丈夫だろうと決断しました。劇中の眼の強さは、『電子ギャバン』にも活かせたと思います」
 放送開始から1年後――。最高視聴率18.6%を記録した最終回で、『ギャバン』は次作『宇宙刑事シャリバン』へとバトンをつなぐ。それは続く『宇宙刑事シャイダー』を含めた<宇宙刑事3部作>さらにその後の<メタルヒーロー>シリーズへ連なる、長い歴史の始まりだった。

(中略)

『ギャバン』から3年後、村上の元にアメリカから1通の手紙が届く。差出人の名はポール・バーホーベン。自作の映画の主人公に、ギャバンのデザインを引用させてほしいというのだ。
「東映伝いに私の名前を聞いたようです。その頃、バーホーベンは日本ではほとんど無名に近い監督でしたが、『構わない。どうぞ』と返事をかえした。金銭のやりとりは一切発生させていません」
 ギャバンをイメージソースとしたハリウッド映画『ロボコップ』は、87年に公開され世界的に大ヒット。バーホーベン監督の出世作となる。
「日本のヒーロー像を理解する人間がハリウッドにも現れた。素晴らしいことだと思い許諾しました。ただ、ロボコップのデザインを見ると、マッシブな体型といかにもアメコミ的な口出しマスク。ああ、あちらではやはりこうなるんだなと思って、それは少し可笑しかったですよ(笑)」】

参考リンク:『宇宙刑事ギャバン』(OCNアニメ・特撮)

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 蒸着せよ、ギャバン!
 『宇宙刑事ギャバン』が放映されたのは1982年3月5日から翌年2月まで。
当時の僕は小学校高学年でしたから、「こんな子どもっぽいヒーローものなんて!」(子どもっていうのは、そういうふうに考えがちなものなのです)とか言いながら、毎週『ギャバン』を楽しみに観ていた記憶があります。
当時は、『ギャバン』とそれまでの特撮ヒーローとの差異なんて、あんまり意識したことはなかったのですが、ギャパンのメタリックな外観は、「メカ好き少年」だった僕にはとても魅力的なものでした。

 『ギャバン』は、フランスの有名な俳優、ジャン・ギャバンから名前をとられているですが、当時は「ベムトリガー」「ブリット」「ギンブリッド」「ギンジロウ」などが、名前の候補として挙がっていたそうです。「ギンジロウ」だったら、あんなに人気にはならなかったかもしれません。まあ、それだけ「メタリックな『光るヒーロー』である」ということをアピールしたかったのでしょうね。
 当時はなんとなく「ちょっと違うな」くらいの印象しかなかったのだけれども、こうして、当時の制作者たちの「戦略」を読んでみると、いままでの特撮ヒーローとの差別化のために、数々の努力と葛藤があったことがよくわかります。
「ハレーションを利用する」という発想は、実現されてみると「なんで誰も思いつかなかったのか?」というものですが、これを最初にやるのは、大きな冒険だったはずです。
 そして、見た目だけではなく、アクションの見せ方でも「いままでの特撮ヒーローとの差別化」がはかられていたんですね。あの動きはギャバンの「重さ」を表現しているのだと当時は思っていたけれど、実は「静と動のコントラスト」を見せるための表現だったのです。

 『ロボコップ』が『ギャバン』に影響を受けているという話は聞いたことがあるのですが、バーホーベン監督が、正式に村上さんに「引用願い」を出していたというのはこれで初めて知りました。
 まあ、ギャバンとロボコップは、「そっくりそのまま」とは言い難いのですが、それでも、ちゃんと許可を求めた監督と、無償で許可した村上さん。『ロボコップ』は大ヒットしましたから、少しくらい使用料もらっておけばよかったのに、という気もしますけど、こういうのがクリエイターの心意気というものなのでしょう。