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2009年04月23日(木)
「あなたがダイエットに失敗した理由を、原稿用紙10枚に書きなさい」

『怪しい商品ぜんぶ買って試した Vol.2』(鉄人社)より。

(通販の「怪しい商品」を買ったり、街の「怪しい店」に入ってみるという体験レポートを集めた本から。「悪徳ダイエット商法のからくり全部教えます」という項の一部です。都内の悪徳ダイエット飲料販売会社で電話オペレーターとして働いていたという香崎めぐみさん(仮名・25才)の話)

【改めて言いますけど、ダイエット飲料の広告は全部ウソなんです。下剤を入れるのは《宿便が取れてる》ってキーワードを出すためだし、《アジア美容コンテストで最優秀賞!》なんてのは、コンテストそのものがありません。タレントの愛用者インタビューも、お金を払って出てもらってるだけです。
 成功体験談なんかも、全てサクラか会社のスタッフですね。写真は別人かコンピュータ修整か、本人が口や服の中にモノ詰め込んで太ってるように見せてるだけ。こんなインチキな会社があるなんて、怒りすら覚えましたね。

(中略)

 そういえば、会社から指示されてる目標があるんです。実行目標を略して《実目》っていいます。それは《自然消滅80%》ってフレーズ。とにかく、返金課にたどり着かせないように広告には返金窓口番号は載せませんし、軽いクレームはフロントで切ります。
 でも、猛烈にシツコイ客っているんですよね。今でも覚えてるのは、私がフロントのころ文句つけてきた38才の独身女です。第一声から「金返せ! 下痢するだけで痩せねぇよ!」って怒鳴り散らして。こちらも必死に説得するんですけど、全然ダメ。そのうち「こんなインチキ商売しやがって、お前らロクな死に方しないぞ」なんて言い出すし、もう1日中わめくんです。ひたすらリダイヤルし続けているんでしょうね。
 これが1週間続いたら、さすがに気がおかしくなります。こういう強烈な客だけが返金課にたどり着くわけです。逆に、会社にとっても、ココからが勝負どころなんですね。返金課の電話回線って実は1本しかありませんから、ほとんどの客にとって常に通話中です。何度かけても通じない。コレで嫌になって、接触して来なくなる客が非常に多いんですよ。自然消滅の第一段階です。
 コレでもねばる客は相当お怒りですよ。もう、繋がった途端にスゴイ剣幕、殺すぞ! みたいな。そしたら、今度は《たらい回し作戦》です。返金課には5人いたんですが、担当が違うと言っては次の子に回すんです。その件でしたらお客様相談係です、ソレは総務室です、返金相談課です、カスタマーセンターです、ダイエット・サポート係です、経理です、申請課です…って。
 もちろん、相手はキレまくりですよ。「アンタが返金しなさいよ!」って。でも、どんなに怒鳴られても『担当が違いますので、これから言う番号へお願いします」って淡々と繰り返すんです。

 問題は、それでもあきらめないツワモノですけど、これは返金手続きに応じます。お客様がダイエット効果を実感できないならば、30缶1万3800円の代金を全額お返ししますって。
 でも、この返金手続きが半パじゃなくウザイ。まず、客の元へ『返金手続き書』が郵送されるんですが、ダイエット飲料を飲み始めてからのウエイト記録、1日の便通回数を記録する表、ナゼか血糖値の管理表まで詳細に記入しなければならない。一部でも記入漏れがあれば無効です。あと、ダイエット前と現在を、同じ角度から同じズームで撮影した日付入り写真が求められます。そんなの、事前に説明されてなければ、絶対にムリでしょ。
 ただ、極めつけは『反省文』ですね。なぜ、ダイエットに失敗したかを、原稿用紙10枚に書かなきゃいけない。もう、あきらめさるを得ませんよね。私がいた期間中、返金はただの一度もありませんでした。】

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 「国民生活センターなどの調べによれば、平成20年度の消費生活相談件数は約137万件。うち《危害情報》のトップはダイエット関連で、近ごろは特にダイエット飲料に対する報告が激増している」そうです。
 昼間にラジオを聴いていると、通販番組での「ダイエット飲料」の紹介がけっこう頻繁に流れてきます。僕にとっても「ダイエット」は切実な問題なので「買ってみようかな……」という衝動に駆られることもあるのですが、当たり前のことながら、世の中には「飲むだけで健康的に痩せる」なんていう都合のいい飲み物は存在しません。
 「宿便がとれる」っていうのも、結局、腸にこびりついている便が一時的に外に出るだけで、「体重計に乗ったときの数字」は便の分だけ減るかもしれませんが、身体そのものには何の変化もないわけです。
 僕が知っている範囲では、「甲状腺ホルモン」が含まれているダイエット食品があったのですが、これは確かに痩せます、でも人工的に「甲状腺機能亢進症」になるのですから、たまったものじゃありません。

 もちろん、日本で流通しているすべての「ダイエット商品」が、このような「単なる下剤ジュース」かどうかはわかりませんが、このレポートを読んでいると、「飲むだけで痩せるなんて甘い話には、ウラがあるのが当たり前なんだな」ということを実感させられます。
 そして、「効果がなければ全額返金します!」という言葉を、そう簡単に信用してはならないということも。
 ちなみに、このレポートのあと、弁護士さんの「典型的な詐欺商法ですね」というコメントが紹介されており、訴えれば取り返せるのではないかと思われますが、正直、1万3800円というのは、「惜しいけど、訴訟を起こすことのめんどくささを考えると、泣き寝入りしてしまうことを選ぶ人が大部分な金額」ではないでしょうか。これが何十万、何百万だったら別の話になるのでしょうけど。
 
 それにしても、「返金制度があるから安心!」と宣伝しておきながら、この「返金しないための執念」の凄さといったら!
 血糖値なんてインスリンを使っている人でもなければ測る機会はほとんどないでしょうし、「日付入り写真」にしても、「角度がちょっと違う」なんてクレームはいくらでもつけられそう。
 「原稿用紙10枚の反省文」に至っては、「そんなめんどくさいことやるくらいなら、1万3800円のほうを諦める」人ばかりのはず。もともと「ラクして痩せたい人」ばかりなのだし。

 でも、こんなインチキな商売、やっていて良心が痛まないのか?」とか、ちょっと考えてしまいますよね。
 この女性は「時給1500円の電話オペレーター」という求人広告をみて、この会社に入ったらしいのですが、「2ヶ月目で月給30万オーバー」「最盛期には月収50万円以上」という高給と「何も知らない女性客を騙すのが快感になってきた」ということで、そんなに「罪の意識」はなかったそうです。
 人間って、「騙す側」にまわってしまうと、「普通の人」でも「これも生活のため」「騙されるほうがバカなんだ」と、けっこう簡単に良心を一時停止できるものみたい。

 香崎さんによると、この会社、消費者センターへのクレームの多さから
行政指導を受け、結局、半年で潰れてしまったそうなのですが、経営陣は同じような別会社を作っては潰し、を繰り返しているのではないか、ということでした。
 この会社は、わかっているだけでも13万人にこの「商品」を販売し、倒産するまでの売上が18億円近くだったそうです。

 「摂取カロリーと栄養のバランスをコントロールすること」と「適度な運動」で、「ダイエットできる」ことは、おそらく誰もが知っています。それが、「唯一無二の確実なダイエット法」であることも。
 にもかかわらず、「ラクして痩せたい」「どこかに画期的なダイエット法があるのではないか」という幻想は、なかなか消えてくれないもののようです。