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2009年02月19日(木)
「ホンダのために働くと考えること自体、すでにホンダウェイじゃない」

『カンブリア宮殿 村上龍×経済人 社長の金言』(村上龍・テレビ東京報道局:編、日経ビジネス人文庫)より。

(番組中の村上龍さんと福井威夫さん(本田技研工業社長)のやりとりの一部です)

【村上龍:本田宗一郎の言葉に、「技術者は技術の前で平等である」というのがあるぐらいですからね。そういった社風、企業文化は、ホンダが半世紀以上培ってきたものだと思います。参考にしたいと思う方も多いと思うのですが、それを一朝一夕でマネするのは無理じゃないですか。

福井威夫:まあ無理だと思います。大部屋を見て、他社の方が大部屋にしてもダメなんですね。目指しているものが何かということをしっかり考えて、自分の状況に置き換えて、自分なりの方法でしていかないとダメだと思います。

村上:ただ大部屋にすればいいという問題じゃないですもんね。

福井:それは我々自身も同じです。創業者の考えた思想というものも大切なのですが、それをそのまま継承したのでは、この会社は潰れると思うんです。創業期のホンダと今のホンダでは、もうまるで違う。世の中の環境も違う。考え方はものすごく重要だけれど、そういうものに合わせていかないといけないといけないと我々は思っています。いろいろと伝継すべきことはありますが、その中で一番重要なことは何か、相当突き詰めて、二つとか三つとか四つにしていき、それ以外の部分では捨てていくものもあるんです。「もうこういう時代じゃないね、捨てていこう」という考え方も当然あります。

村上:ある精神を継承するというのはそういうことなのかもしれません。そのままお題目みたいに守っていればいいというものではないですもんね。
 福井さんがホンダに入ってきた人たちに向けて話したことを紹介したいと思います。
「入社してホンダウェイを学ぶのもいい。しかし君たちが何かもってくる。何かしなければ、明日のホンダはない。ホンダを変えることに自分たちの価値があるんだ。ホンダのために働くと考えること自体、すでにホンダウェイじゃない。人が何のために働くのかというと、会社のためじゃない、自分のために働くのだ。それは、いつの時代でも世界中、どこでも共通だ」
というものなのですが、すごい言葉だと思うんですよ。

福井:これは私の本音であり、創業者の本音なんですよ。本音で楽しまないと、本当の仕事はできない。それが会社のためにはなりますよ、最終的に。それから世の中のためにもなる。】

〜〜〜〜〜〜〜

 僕もこの「ホンダを変えることに自分たちの価値があるんだ」という言葉には、ちょっと感動してしまいました。

 まあ、これはキレイ事なんだろうけど、と思いつつ福井さんのキャリアを眺めていたら、福井さんは1969年に本田技研工業に入社後、エンジン開発や二輪レースに携わり、1987年にはホンダ・レーシングの社長に就任されています。レースに関わるというのは、夢がある仕事であるのと同時に、常に限界を超えようとするハードワークを要求される仕事ですから、この言葉には福井さんのホンダでの経験が強く反映されているのかもしれませんね。

 「ホンダウェイに従え」と言われるより、「何かしなければ、明日のホンダはない。ホンダを変えることに自分たちの価値があるんだ」と言われたほうが、なんとなく「自由で創造的」な感じがします。
 しかしながら、実際にそこで働く人にとっては、よほどのモチベーションがなければ、「会社の伝統に従え」と言われるほうがラクなのではないかな、とも思うんですよ。「新しいことをやる」というのは、やっぱり、大変なことだから。
 それが、ホンダのような大きな会社であれば、なおさらのことです。

 「人が何のために働くのかというと、会社のためじゃない、自分のために働くのだ」
 たしかにそうだよなあ、そうでなくてはならないよなあ、と僕も思います。
 そしてそれが、めぐりめぐって世の中のためにもなる。

 実際にそういう「やりがいのある仕事」に出会える人生というのはそんなに多くないのでは、と僕はつい考えてしまうのですが、それは、「本人のやる気の問題」なのかなあ、うーん……