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2009年02月16日(月)
「教室で本を読むこと」の危険性

『書店はタイムマシーン〜桜庭一樹読書日記』(桜庭一樹著・東京創元社)より。

(直木賞作家・桜庭一樹さんが読んだ本を中心に書かれている日記を書籍化した本です。巻末の特別座談会から。参加者は、桜庭さんと担当編集者のK島さん、F嬢さん、K浜さんです)

【K島:またちょっと話を戻すんですけど、米澤穂信さんが書いていたことで、一般論なのか個人的経験なのかわからなかったんですけど、「教室で本を読んでいると、非常に変わった人だと思われて浮くから、教室では読まない」という主人公が出てきまして。たしか『さよなら妖精』だったような。最近はそうなのかなと思って。

K浜:それは昔からそうじゃない?

桜庭一樹:暗いやつだと思われるかも。私は休み時間には絶対に本を読みませんでした。女の子だから、友達とトイレに行って鏡の前で髪をいじりながらおしゃべりしたり、だらだらしたり。授業中に読むのは……”クール&ストレンジ”だからOK。不良だぜ、授業聞いてねえ! みたいな。

F嬢:休み時間に本を読んでると、それだけで”話しかけるなバリア”になるますよね。だから変わった人だと思われちゃうかも。

K島:でも、たしかに授業中に読む本って面白いんですよねー。

桜庭:”クール&ストレンジ”ですよ”クール&ストレンジ”。

(中略)

桜庭:本を読むって行為が、世の中ではマイノリティのすることなんだなって、直木賞をいただいたあとインタビューを受けながらすごく感じました。ふだんはまわりがみんな本読みばっかりだから意識しないんだけど、テレビに取材されると、「すごく本を読む人らしいです」と、ちょっと変態みたいな扱いで。

K島:ある意味”物語の申し子”みたいな存在にしたてたいのかも。

桜庭:わかりやすい特徴を、ということだと、”読書家”になるんだと思う。空手のことも訊かれますけど、「やってみて」と言われても断っているので、読書家の部分を推したがるのかなと。いつだったか取材でブックカフェに行ったとき、「桜庭さんここに本棚がありますよ」と言われて、「そうですね」とだけ返事したんだけど、そのあとまた「ここに本棚がありますよ」。三回言われて、さすがにああ「本が大好きな人なんで、本を見ると飛びついちゃいます」ってところを撮りたいんだなと察せられて。だから根負けして、かぶりついて本をにらんだ。

F嬢:ふふふ。

桜庭:それを撮ったあと、「ここ本が買えるんですよ」ってやっぱり三回くらい言われたので、これは「なんか買え」ってことかーと思って。根負けして「じゃあこれ」って差し出したら「さっそくお買い上げ」みたいな感じに撮られました。ほかに特徴ないから、そういうふうにセッティングされてるんだし、そこに乗らないのは悪いかなと思って……。とにかく本読む人は変わってると思われてるんですよ。

K島:他業界の人にとっては単純に本を読む女性が珍しいと思うんですよ。で、出版界の中で考えると、これほど翻訳文学を読んでいる人は珍しい。しかも、この年代の女性となると、ほとんど唯一の存在ではないか、という話が出たことがあります。】

〜〜〜〜〜〜〜

 これを読んで僕は自分の高校時代のことを思い出してしまいました。
 僕は「休み時間に教室で本を読む人」であり、その理由の半分は「時間がもったいないから」で、残りの半分は、「授業の間の10分とかの短い時間に、軽い世間話なんてくだらないことに付き合って気を遣うのがイヤだったから」(あるいは、「誰も話しかけてくれない自分を確認するのがつらかったから)なんですよね。
 まさに”話しかけるなバリア”として休み時間に本を読んでいたんだよなあ。
 それはそれで、「お前何読んでるの?」とか訪ねられたりして、けっこう面倒なこともあったのですが。
 小心者なので、授業中の”クール&ストレンジ”は、ほとんどなかったけれど。

 桜庭さんの日記を読んでいると、「世の中には、(まともに仕事をしながら)こんなに本を読んでいる人がいるのか!」と驚かされるのですが、この桜庭さんの「取材体験」を読むと、僕が日頃イメージしているよりもはるかに「本をたくさん読む人」というのは、世間では「希少種」として認識されているのだということがよくわかります。
「ここに本棚がありますよ」「ここ本が買えるんですよ」なんて、もし僕が取材される側だったら、「そんなの見りゃわかるよ!」と怒ってしまいそうなんですが、そういう「ものすごく本を読む人というイメージ」もまた、作家としての商売道具として桜庭さんは受け入れている、ということなんでしょうね。
「読書」というのは、「趣味」としてはもっともありふれたものだと思うのですが、世間一般の認識としては「本を読むって行為は、マイノリティのすること」なのかもしれません。あるいは、「人前で本なんて読むものじゃない」とか。

 それにしても、本棚見つけるたびに近づいていったり、本が買えるところでは必ず買ったりする人は、「本好き」というより「変態」だと僕も思いますけどね。