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2008年08月20日(水)
どうして日本人には「亡命」する人がいないのか?

『相手に「伝わる」話し方』(池上彰著・講談社現代新書)より。

【ニュースにはむずかしい言葉が数多く登場します。テレビを見ている人は、むずかしい言葉、意味のわからない言葉が出てくるたびに、そこから先へは理解が進まなくなります。その言葉がキーワードだったら、視聴者にはニュースに伝わらなくなります。
 逆に言えば、キーワードをわかりやすく説明することができれば、見ている人は、「ああ、そういうことなんだ」と腑に落ちることでしょう。
 むずかしい言葉の多くは、漢字の熟語です。幸いなことに、私たちが使っている漢字は、ひとつひとつの文字が意味を持っています。その漢字の意味をおさらいするだけで、むずかしい用語の説明ができ、ニュースのポイントも理解できることが多いのです。

 たとえば、「亡命」という言葉です。
 2002年5月、中国の瀋陽で発生した、北朝鮮からの越境者による「亡命」事件。自分の国にいては生きていけないと考えた住民5人が、国境を越えて中国へ入り、瀋陽にある日本の総領事館に逃げ込みました。このとき「亡命」という言葉がしばしば登場しました。
 ところが、「亡命」というのは、不思議な言葉です。「命を亡くす」と書きます。そもそも命が助かりたいから亡命するはずなのに、なぜこういう字を書くのでしょうか。
 私は、この言葉を説明するだけでも、この事件の本質を説明できるのではないか、と考えました。
 調べてみると、この場合の「命」とは、「戸籍」を意味することがわかりました。たとえば赤ちゃんが生まれて名前をつけることを「命名」といいます。「戸籍に名前を登録する」という意味です。「命」は戸籍なので、「亡命」は「戸籍を失う」ということになります。「亡命」は命を失うのではななく、戸籍を失う、つまり自分の国を捨てて逃げることです。
 こうして考えていきますと、日本人がどこかの国に亡命した、というニュースを聞くことはないことにも気づきます。自分の国を捨てたければ、さっさとどこかの国に移住すればいいからです。わざわざ亡命しなくても、自由に海外旅行ができ、日本から出ていくことができるのです。
 ということは、亡命するのは、自由に海外に出ることができない国の国民、または自由に海外に出られない立場の人が国外脱出を試みることであるとわかります。北朝鮮は国民の自由な海外旅行や海外移住を認めていませんから、どうしても国外に出たい人は、亡命するしかないのです。
「亡命」希望者が出る国は、「海外に行きたい」と思っている国民を無理やり抑えつけている国であることがわかります。】

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 この「助かりたいから他の国に行くはずなのに、どうして『亡命』なんだろう?」という疑問、僕も子どもの頃に抱いていた記憶があります。結局、僕は池上さんみたいにちゃんと調べて確かめることもないまま、こんな年齢になってしまったのですけど。
 たしかに、「命」の意味が、僕たちがイメージしている「生命」ではなくて、「戸籍」であるということを知れば、「亡命」という言葉も納得できますよね。

 どうして日本人には「亡命」する人がいないのか(正確には、「よど号事件」の犯人グループのような「亡命者」もいたのですが)、と僕はかねがね思っていたのですけど、ここに書かれているように、日本人であれば、「日本がイヤなら海外に『移住』すればいいんじゃない?」ということなんですね。
 そういえば、以前、「日本人のパスポート」というのは裏社会ですごく重宝される、という話を聞いたことがあります。その理由は、「日本のパスポートほど、世界のほとんどの国に入ることができるものは稀有」だから。
 北朝鮮は難しいでしょうが、それ以外の国で、「日本人入国拒否」という国は思いつきません。

 そう考えると、僕たちが日頃考えている以上に、「日本」は「世界に敵が少ない国」なのかもしれませんね。「日本に亡命してくる人」がいないというのは、「敵がいない」というより「蚊帳の外」なのかな、という気もしますけど。