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2008年08月22日(金)
『デトロイト・メタル・シティ(DMC)』の作者・若杉公徳さんを驚かせた「雑誌連載中に人気が下がった回」

『QJ(クイック・ジャパン)・vol.79』(太田出版)の『デトロイト・メタル・シティ(DMC)』特集の「『DMC』作者・若杉公徳インタビュー」より。取材・文は吉田大助さん。

【インタビュアー:クラウザー1世が初登場する65話、素晴らしかったです。根岸=クラウザー2世の「もう」は名言中の名言ですね。

若杉公徳:やらなくていいのに、やっちゃうんですよね。そこは今までやってきた責任感が働いちゃうんですよ。健気ですよね……。

インタビュアー:1世は最初から出す予定だったんですか?

若杉:いや、最初はまったく何も考えてないです。「名前に2世って付いてるけど、なんだろうな?」と読者に思わせるためだけにやってました。もし担当編集さんに「1世がいないのに2世は変じゃないか」と言われてたら、直してたかもしれないくらいです。

(中略)

インタビュアー:1世のキャラクターはどう作っていきましたか。

若杉:もともと『DMC』の一番最初の打ち合わせでは、クラウザーはメイクを落とすとおっさんっていう設定で、彼が主人公のギャグ漫画だったんですよ。でも、『ヤングアニマル』は若い人が読む雑誌なので、若い人を主人公にしたんですね。ギャップで笑いを取るためには、メイクを取ったら若くてかわいい男、という方がよりハマるかなとも思ったし。それで、1世を出すことになったので、ボツになったおっさんが出てきました。

(中略)

インタビュアー:『DMC』が驚異的なのは、一話完結スタイルのギャグを続けているところですね。時おり長編ストーリーも入り込んでくるけれど、ページのなかにギャグは欠かさないし、終わった後には必ず基本形に戻ってくる。連載を続ける大変さから考えても、ついストーリーだけになってしまいがちだと思うんですが。

若杉:一話読み切りは、やらないとイヤなんですよね。長編が終わったらまた読み切りを描いて、ちゃんとギャグを描いてオチをつけて、そういうバランスでやっていきたいんです。理由は単純で、これはギャグ漫画なので。6巻も最初の5話はショートネタが続いていて、ジャギ(和田)がビジュアル系バンドに入りかけたり、カミュ(西田)が秋葉原で活躍したり、それぞれのキャラのプライベートを描いているので読んでもらいたいですね。クラウザーの「48のポリ殺し」も、1巻で出したっきり(TRACK4)だったので、またやれて良かったです。ただ、6巻は根岸が1世に負ける回まで収録されているんですけど、雑誌ではその回で人気が下がったらしいんですよ。主人公が負けると下がるみたいで。読者はそこまで感情移入しているんだなあと思うと嬉しいですけど、勝たせるための負けですから! 連載では1世編はもうそろそろ終わるので、決着を楽しみにしてください。

(中略)

インタビュアー:毎回新しいネタを生み出す大変さはありながらも、描けば描くほどネタのデータベースが広がっていくというふうに考えれば、もしかして描きやすさも出てくる?

若杉:あ〜、そういう部分はあるかもしれないですね。でも、描けるからってあんまりダラダラ続けるのはどうかなと思うので。テンションが落ちたと言われないように、終わるときはスパッと終わらせたいと思ってます。

インタビュアー:ちなみに、ハロルド作石さんの音楽漫画『BECK』への競争心は?

若杉:好きだからこそ、『BECK』ではやれないことをやりたい、と思って描いてます。結構元ネタにしてる部分も多いんですけど(笑)。『BECK』を読んで音楽を始めた人って多いと思うんですけど、『DMC』読んで音楽を始めた人っていないだろうなぁと思うと、ちょっと寂しいです。

インタビュアー:きっとゼロではないですよ(笑)。

(中略)

インタビュアー:最後に、今後の『DMC』について、野望を聞かせてください。

若杉:ギャグ漫画なので、面白くて笑える、というところにだけは気をつけて続けていきたいです。それと、クラウザーさんをバカボンのパパくらい、いろんな人に知ってもらいたい。ギャグのキャラクターといえばクラウザーさん、って思われるように頑張ります。】

〜〜〜〜〜〜〜

 明日(2008年8月23日)からは、松山ケンイチさん主演の映画も公開される、『DMC』こと、『デトロイト・メタル・シティ』。マンガ好きの間ではけっこう早い時期から話題になっていたこの作品なのですが、この特集のなかで、担当編集者さんが「いまは5巻で累計300万部」と仰っています。
 もちろん大ヒット作品ではあるのですが、掲載されていたのが『ヤングアニマル』(白泉社)というそんなにメジャーではない雑誌であったこともあり、世間での認知度は、まだそんなに高くはなさそうです。
 それも、今回の映画化により、かなり変わってくるのでしょうけど。

 このインタビューには、若杉公徳さんの写真も掲載されているのですが、写真での若杉さんは、けっこう朴訥な好青年、という印象です。ああいうマンガを描くのだから、それこそ、「クラウザーさん」のような人なのではないかと期待してしまうのですが、「ギャグ漫画を描き続ける」というのは、マメさと論理的思考力が必要なのかもしれないな、と僕はこのインタビューを読んでいて感じました。
 そういえば、『こち亀』こと『こちら葛飾区亀有公園前派出所』も頑なに「一話完結型」を守っているギャグマンガですよね。なかには、『キン肉マン』のように、ギャグマンガだったはずが、いつのまにかストーリーマンガに「転向」して成功した例もあるのですが。
 読者からすると、「長編」のほうが気合が入っているように感じるけれど、描く側からすれば、毎回ちゃんと笑わせるところやオチをつけなければならない(そして、次の回はまた一からはじめなければならない)「一話完結」のほうが大変な仕事のようです。「ギャグマンガ(とそれを描くマンガ家)は、ストーリーマンガに比べて短命」だと言われていますし。
 
 僕がこのインタビューを読んでいていちばん興味深かったのは、若杉さんが「連載中に主人公・根岸が『負けた』回で人気が下がった」と仰っていたことでした。
 いや、『北斗の拳』のようなヒーローマンガや『キャプテン翼』のようなスポーツマンガ(……って例がいちいち昔のマンガですみません)では、「主人公を応援している」読者が多いというのはよくわかるんですよ。でも、『DMC』のようなギャグマンガでは、若杉さんも仰っておられるように「勝つための前フリとしての負け」であり、「負けるのもネタのうち」じゃないかと……

 ところが、読者はやっぱり、「主人公が負けるとイヤ」みたいなのです。
 みんな、クラウザーさんが好きだし、それがギャグの一部であっても「負けてほしくない」のだなあ。
 ずっと「主人公が圧倒的に勝ち続ける」マンガでは面白くないに決まっているのですが、やっぱり「主人公が負ける」と、なんだかもどかしい。
 もしかしたら、『DMC』をギャグマンガとして読んでいない人も、けっこういるのかもしれませんね。