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2008年04月18日(金)
弘兼憲史さんが、永田町の政治家たちへの取材時に守っていた「約束事」

『聞き上手になるには』(弘兼憲史著・フォー・ユー)より。

(「時間厳守で相手の信頼を勝ち取る」という項より)

【世の中には「待ち合わせに必ずや遅れてくる」という人間がいる。そういう人は、嫌われずとも、「あいつのことだから、どうせまた遅れてくる」というイメージが定着し、あてにされなくなる。
 ぼくもアシスタントには常々、「締め切り厳守」と言っている。「約束事を守る」という姿勢は、その人の信頼度に少なからず影響すると思うからだ。永田町の政治家たちに取材していた頃、このことを改めて感じた。

 取材を始めたばかりの頃、相手が相手だけに、ぼく個人がアポイントメントを取るのは難しいだろうと、政治記者を介して取材していた。ところが、記者に同行していくと、どうも胡散臭い顔をされる。なぜか。
 政治記者というのは、少しでも多くのことを聞き出したいせいか、「30分」とか「1時間」といった当初の約束時間が来ても、粘ろうとする性質があるようなのだ。誘拐犯からの電話を逆探知する際、電話を切られないよう、時間稼ぎをしようとするのに似ていなくもない。
 政治家のほうも、記者のそうした姿勢を経験的に知っているから、同行するぼくに対しても警戒心を抱いていたふしがある。そして政治記者自身は、そういうことにどうも無頓着、あるいは、あえて気づかないふうを装っているようだった。
 ところがぼくの場合は、
「約束の時間が来たら、話の途中であっても取材を切り上げる」
という姿勢を貫いていた。なぜなら、ぼく自身が取材を受ける場合、約束の時間になっても延々インタビューを受けるというのは嫌なものだからだ。その後の予定が気になって、話に集中できなくなるということもある。
 そういう「時間厳守」の態度が評価されたらしく、徐々に、ぼく個人に対して「取材OK」が出るようになった。だから、後半の取材はぼく一人で行くことが多くなった。
 やはり、相手に気持ちよく話をしてもらうには、「約束事を守る」ということが大事なんだなと思った。そしてそういう積み重ねが、相手の信頼を得ていき、ときには「他言無用」「ここだけの話」といった、あまり人に知られたくないこと、非公開情報などを引き出すことにもつながっていくのだろう。】

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 「ヘタなことを言ったら、どう書かれるかわからない、自分の政治家生命にもかかわってくる」という政治記者相手と、「話した内容がマンガのストーリーの一部として使われる可能性はあるけれど、あくまでも『参考資料』にすぎないし、自分の名前が出ることもない」というマンガ家相手とでは、政治家だって話すときの気楽さが違うのではないかとは思うのです。
 それでも、「約束事を守る」というのが、人間関係において、けっこう重要なことであるというのは間違いないですよね。

 ここで弘兼さんが例に挙げられている「政治記者の取材姿勢」の話なのですが、確かに「その場限りの取材」であれば、少しでも粘って多くの話を聞きたい、本音を引き出したい、というのはよくわかるのです。
 でも、ある程度の期間にわたって良好な関係を築き、より大きな情報を得ようと考えるのであれば、たしかに「時間厳守を貫く」ほうがプラスなのではないかな、という気がします。
 取材される側からすれば、「アイツの取材を受けると、その後の予定に響いてしまう可能性があるな」というような相手の取材は、やはり、あまり気乗りしないものでしょうし、「30分なら時間をとれるんだけど……」という場合も、弘兼さんのような「ちゃんと時間を計算できる人」の取材のほうを積極的に引き受けたくなりますよね。
 こういうのって、弘兼さんも「取材を受ける側の人」だからわかるのでしょう。
 
 世の中には、「もっと自分のことを喋りたくてしょうがない人」も少なくなくて、時間通りに切り上げようとすると不快に感じたりもする人もいるのかもしれませんし、話が盛り上がっているときに「じゃあ、時間なので」って帰ってしまうのは勿体無い場合もありそうなのですが、それでも、そういう「姿勢」を明らかにしておくというのは、他人に信頼されるためのひとつのテクニックなのではないかな、と思います。

 実際は、「約束の時間をオーバーしても、相手が退屈していても、長々と話を引き伸ばすことが親しみの表現なのだ」なんて考えている人、けっこう多いのです。
 だからこそ、この戦略が有効なのでしょうけど。