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2008年04月22日(火)
「マンガ文庫」の歴史と現状

『ダ・ヴィンチ』2008年5月号(メディアファクトリー)の特集記事「☆☆☆三ツ星ワンコイン文庫」の中のコラム「マンガ文庫今昔物語」(文・中野晴行)より。

【A6版のマンガ文庫が登場したのは1976年。第1号は「小学館文庫」で、白土三平の『忍者武芸帳』や手塚治虫の『シュマリ』などが刊行された。折りしも、オイルショックなどによる紙不足で雑誌の減ページを余儀なくされ広告収入が激減した出版社が単行本に活路を求めていた時期。しかも、文庫ブームの真っ只中で、文庫というスタイルそのものに話題性があった。
 まもなく、講談社漫画文庫、秋田漫画文庫、集英社漫画文庫、ソノラマ漫画文庫などが創刊されて、第1次マンガ文庫ブームが起きた。

(中略)

 しかし、しだいにコンテンツが不足して、結局は名作路線から転換。自社の雑誌に連載した人気漫画の廉価版単行本という内容に変わっていき、5年のほどで大半が休刊した。
 しかし、少女マンガと少年マンガ、青年マンガが同じフォーマットで並んだことによって、萩尾望都たちによる少女マンガの新しい意欲が男性読者にも伝わるなど、マンガ文庫が残した功績は大きい。

 1992年、文藝春秋はハードカバー単行本でベストセラーになった手塚治虫の『アドルフに告ぐ』を文春文庫ビジュアル版として文庫化。全5巻で150万部を売ったことから再びマンガ文庫が注目されるようになった。
 角川文庫は『火の鳥』と、潮出版社は『ブッダ』を、秋田書店は『ブラック・ジャック』を文庫化。まもなく手塚以外の作家も文庫化して、第2次マンガ文庫ブームに火がついた。小学館文庫、講談社漫画文庫もリニューアルされ再登場した。
 当初、マンガ文庫は一版文庫と同じ棚に置かれたため、それまであまりマンガに縁のなかった読者や、マンガを卒業した読者が文庫でマンガを読み始め、これが市場を活性化させた。一方で、点数の多いマンガ文庫が棚を侵食したことが問題になり、やがてマンガ文庫の棚は一版文庫とは別にマンガコーナーに移されることとなった。これによって文庫化の大きなメリットが失われる結果となった。
 しかも、文庫に収める作品はまもなく枯渇して、第1次ブーム同様、単行本から短期間で文庫化されるものが増え、2000年頃からは売り上げも落ち込むようになった。
 話題性では単行本に及ばず、価格や手軽さという点ではコンビニ向けの単行本に負ける状態で、マンガ文庫の魅力を読者にどうアピールするか、各出版社とも頭を悩ませているところだ。】

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 僕は「第1次マンガ文庫ブーム」の時代は「生まれてはいたものの、ほとんど記憶にない」のですが、僕がよく知っている「第2次マンガ文庫ブーム」以前に、そんな時代があったということをこのコラムで知りました。
 それにしても、「第1次」でも、先鞭をつけた作品のなかに手塚治虫先生のマンガが含まれていたということには、「マンガの神様」の凄さをあらためて思い知らされたような気がします。

 「第2次マンガ文庫ブーム」のとき、僕は大学生で、まさにこのブームの「直撃世代」だったんですよね。当時『アドルフに告ぐ』は、「もう過去の人」だと言われていた巨匠・手塚治虫が復活した「大人向けの漫画」として評判となっていたのですが、単行本はやはりちょっと割高で手が出ず、この「文庫化」を機にまとめて読んだのを覚えています。
 あと、『火の鳥』にはものすごくハマって、卒業試験の合間に「1科目終わったら1冊読む」ことに決めていたのですが、その内容のあまりの深さに、試験前日だというのに物思いにふけってしまって勉強できなくなってしまったこともあったっけ。
 『ブラック・ジャック』は秋田書店から出ていた単行本をずいぶん昔に読んだのですが、結局、文庫も全部買ってしまったし。
 当時の「マンガ文庫」には、「比較的手軽に安価で名作をまとめて読める」というイメージがありましたし、「マンガを文庫で読む」というスタイルそのものにも、ちょっとした目新しさもあったんですよね。表紙も「万人向け」のデザインのものが多くて、単行本ではちょっと手を出しづらかった「少女マンガ」も比較的手にとりやすかったですし。

 しかしながら、このコラムにもあるように、僕もいつのまにか「マンガ文庫」を買わなくなってしまいました。
 「マンガを文庫化する」というのは、「肝心の絵が見づらくなる」という大きなデメリットはあるものの、「昔単行本で読んだものが、まとめて文庫で読める」というだけでも大きな魅力があったはずです。
 ブームに乗ってあまりに多くの作品が「文庫化」されることにより、コンテンツは不足し、「話題性では単行本に及ばず、価格や手軽さという点ではコンビニ向けの単行本に負ける」という状況では、現状の「マンガ文庫」は、非常に厳しい状態にあることは間違いなさそうですが……

 1976年、1992年という今までの「マンガ文庫ブーム」の歴史を考えてみると、そろそろ「第3次マンガブーム」が来てもいいんじゃないかな、とも思うのですけど、時代はむしろ「読み捨ててもいいコンビニ売りの単行本」と「豪華愛蔵本」に両極化しているんだよなあ……