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2007年12月03日(月)
「イギリスのユーモアの特徴は何だ?」

『誰だってズルしたい!』(東海林さだお著・文春文庫)より。

(巻末の東海林さだおさんと土屋賢二さんの特別対談「ユーモアはいじましい。」の一部です)

【東海林さだお:人を笑わせるような人はあんまり評価されない、(銀行などが)お金も貸してくれないというのは、日本のユーモアに対する評価ですね。イギリスなんかだと違う。

土屋賢二:イギリスは、特に政治家がみんなユーモアがあるんですよね。ユーモアのセンスが人間の最低条件みたいな大事なポイントになってますね。

東海林:日本では大事どころかマイナスポイントになる。ふざけた奴だとか誠実じゃないとか。

土屋:真面目さとか誠実さとユーモアのセンスは、相反するものじゃないんですけどね。たとえば、東海林さんが面白いことを書くからといって、誠実でも真面目でもないとは言えない。でも、誠実で真面目だとも言えない(笑)。

東海林:軽い奴だって評価はあるよ。

土屋:僕はそれも間違ってると思うんです。人間がどういうものを笑うかを考えると、テレビのコント見てても、病気とか失恋とか葬式とか、ものすごく大きい不幸があったり、耐えがたい出来事があったときを舞台にして笑ったりしますよね。ですから、深刻な部分を笑い飛ばそうとする人じゃないかと思う。

東海林:深刻な事態に負けない。

土屋:イギリスなんかでは、そういう能力が非常に尊重されているんですよ。第二次世界大戦中にヒトラーが英仏海峡を封鎖したときも、イギリスの新聞は見出しに「ヨーロッパ大陸が孤立した」と書いたんです。孤立したのはイギリスなんですけど(笑)。

東海林:へえ。

土屋:それ読んで、読者は笑わないだろうけど、そういう深刻な事態になっても屈しないよということを示してるんだろうと思う。

東海林:余裕があるよって。

土屋:そうそう。ユーモアのある人は、重大な事態に立ち至っても余裕がある人という評価になるわけですね。

東海林:日本なんか重大な事態のときにユーモアを発揮した政治家っていないでしょ?

土屋:ほとんどいないですね。僕はよく知らないですけど。

東海林:僕も知らないけど。

土屋:知らない同士で言うと、いないですね(笑)。

東海林:ゼロね。それ、恐いんです。

土屋:イギリスだと、ブレア首相みたいなおかしいこと言いそうもない顔した人でも、首相就任後の初めての選挙のとき「イギリスが抱えている問題は3つある。教育と教育と教育だ」と言ったりしますからね(笑)。

東海林:イギリスにそういうユーモアが生まれたのは、どういう土壌なんですか。

土屋:よくわからないです。ただ僕がイギリスで感じたのは、みんな、やっぱり強い人間を尊敬するみたいです。

東海林:チャーチルみたいな?

土屋:ええ。肉体的にだけじゃなくて、精神的にも強い人。どんな不幸な事態に立ち至っても挫けない人間。ですから、よく『007』で死ぬ間際にジョークを飛ばしたりしますよね。

東海林:はい。

土屋:で、いろんな人に「イギリスのユーモアの特徴は何だ?」と訊いたら「自分を笑う能力だ」って。日本だったら、政治家が悪口言われて名誉毀損で訴えたりするようなケースでも、イギリスでは言われた本人が笑ったりする。そう振る舞うぐらいの余裕のある人間じゃないと、軽蔑されてしまうんです。】

〜〜〜〜〜〜〜

 僕はこれを読みながら、「そういえば、ドリフのコントって、けっこう『深刻な事態』をネタにしたものが多かったよなあ」なんて考えていました。定番の「お葬式ネタ」なんて、かなり「不謹慎」ではありますよね。
 しかしながら、そういうシチュエーションだからこそ、「笑い」というのは生まれやすいという面もあるのでしょう。

 僕は正直なところ「イギリス人のユーモアのセンス」というのは今ひとつ理解できないところがありますし(『Mr. ビーン』とか、どこが面白いのかよくわからないです)、【第二次世界大戦中にヒトラーが英仏海峡を封鎖したときも、イギリスの新聞は見出しに「ヨーロッパ大陸が孤立した」と書いたんです。孤立したのはイギリスなんですけど】という話に対しても、これって一種の「大本営発表」みたいなもので、結果的にイギリスが戦争に勝ったから「笑い話」になっているだけなのではないかなあ、という気もするのです。
 まあ、書かれている内容は嘘ではないので、少なくとも多くのイギリス人は「実情」を知りながらも苦笑していたのでしょう。そして、そういう「余裕」こそが、イギリスを勝利に導いた面はあるのかもしれません。もちろん、そこには「最低限の精神的な余裕が持てるくらいの物質的な余裕」がまだまだあった、のだとしても。

 しかしながら、ここで「イギリス人のユーモアの特徴」として挙げられている「自分を笑う能力」というのは、実はとてもすばらしい「生きていく知恵」なのではないかと思うのです。お互いに悪口を言い合い、言葉尻をとらえあって、「揚げ足取りの応酬」になっている日本の国会などを見ていると、「そんなつまらないことはもういいから、ちゃんと仕事してくれよ」と言いたくなるんですよね。ああいうときに、「言われた本人が笑ってしまう」くらいの余裕があれば、悪口を言う側だって、逆に考え込んでしまうはずです。この相手の悪口を言っても、相手は受け流してしまうし、かえって自分の印象が悪くなるだけなのではないか、と。悪口を言われたら真っ赤になって言い返すほうが、「人間的」ではあるんでしょうけど、そんな人間は「タフ」だと認めてもらえないのです。

 【「イギリスが抱えている問題は3つある。教育と教育と教育だ」】とブレア首相が言ったという話を聞くと、イギリス人のユーモアに対する矜持はすばらしいけれど、個々のユーモアに関しては、そんなに日本とレベルが違うってわけではないような気もしますが。