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2007年01月20日(土)
『ニコリ』社長が語る「正しいパズルの解き方」

「週刊アスキー・2007.1/9・16合併号」の対談記事「進藤晶子の『え、それってどういうこと?』」より。

(「株式会社ニコリ」社長・鍛冶真起さんと進藤さんとの対談の一部です)

【進藤:ふうむ。いま、日本にはパズルの本はどのくらいあるんですか。

鍛冶:この間、某社の記者さんに教えてもらったんですが、いまパズル雑誌は75誌あるそうです。雑誌のジャンルのなかでは、第3位なんだとか。ちなみに自動車雑誌は135誌、女性誌は105誌あるとか。

進藤:そういうジャンル分けで、3位がパズルというのはすごい!

鍛冶:それまでは、せいぜい20誌くらいだと思っていたんです。だって、いちいちほかの雑誌を調べたりしてないですから。でも、そんななかでも僕たちの雑誌は、全国に約1万8000軒ある書店のうち、1200軒にしか置いていないんです。倉庫からの直接委託販売で、取次ぎを通していませんし。だから、宣伝してもしょうがないし、26年間宣伝費ゼロなんですよ。

進藤:よけいなお金は使わずに。

鍛冶:使わないです! 僕はただ、飲むだけ(笑)。あとは読者がクチコミで広めてくれる。いままでずっと、そうやってきたんです。

進藤:でもいま、どうしてそんなにパズルが流行っているんでしょう。自分の脳をもっとブラッシュアップしようという意識が高まってますし、テレビをつければクイズ番組も多いですしね。鍛冶さんは、なぜだと思いますか?

鍛冶:いや、そっちは興味ないんで。

進藤:アハハ、そうなんですか?

鍛冶:脳をトレーニングしようってことがきっかけで、子どもたちじゃなくて大人がハマッたりすることもあるみたいですけどね。数独そのものは、脳トレにはならないのに。

進藤:そうですか? なりません?

鍛冶:ならない、ならない。無目的、無意味な、単なる遊びですから。

進藤:頭の体操になりそうだけど。

鍛冶:逆にストレスがたまりますね。

進藤:できないとね(笑)。

鍛冶:しかも脳トレのためにやらなきゃとか、そういう目的意識があるものはいらない。解いて、捨てる。子育ての合間にとか、寝る前にちょっとだけ、それで飽きたらすぐやめる。それでいいんです、そういうのを僕らはめざしているんです。

進藤:ストレスになったら、すぐやめる。それが正しいパズルの解き方。

鍛冶:それが、遊びの極意なんです。教育のことに使うとか、脳のトレーニングのためにとか、そういう意識でつくるパズルはダメ。そういうことに興味をもちはじめちゃったら、きっといっぺんにニコリはつぶれますよ。遊んで、驚いて、チクショーって喜怒哀楽を出す。それで終わりでいいんです。ヒマつぶしの最強アイテムですよ。しかも、超アナログじゃないですか。電気もいらないし、いつでもどこでも、すぐ始められて、すぐやめられる。

進藤:いちばん身近なエンターテインメントなんですね。

鍛冶:オッ、いいですね、そのフレーズ、今度使わせてください(笑)。】

〜〜〜〜〜〜〜

 このインタビューを読んでいて、鍛冶社長、そして『パズル通信ニコリ』という雑誌の商売っ気のなさに、かなり驚かされてしまいました。「パズルは脳のトレーニングに役立ちます!」とか言っておけば、この「脳トレ」流行りの御時世ですから、かなり宣伝になりそうなものなのですが。
 でも、ここまで爽やかに「ヒマつぶし」だと断言されると、かえって小気味良いですし、「じゃあ、ちょっとやってみようかな」と思う人もかえって多いのかもしれません。『ニコリ』は1980年創刊だそうなのですが、27年間も堅実に売れてきた理由には、そういう「一貫した『遊び』へのスタンス」もあるのでしょう。

 ちなみに、『ニコリ』の返本率は「10パーセントくらいで、ほとんどない」そうで、非常に固定ファンが多い雑誌であることがうかがえます。そんなにバカ売れすることはないけれど、急に売れなくなることもない。雑誌と読者の親密さがうかがえる話です。それにしても、「26年間宣伝費ゼロ」っていうのは本当にすごい。『ニコリ』は新聞や他の雑誌など200弱もの媒体にパズルを提供しているそうなので、それが宣伝になっている面はありそうですけど。

 鍛冶さんは、まさに「遊びの達人」という感じなのですが、「人はなぜパズルにハマるのか?」というのは、あらためて考えてみると、なかなか難しい質問です。ただ、ひとつだけ言えるのは、「面白くないことは、長続きしない」ということなんですよね。ニンテンドーDSの『脳トレ』にしても、「脳を鍛えるため」とか言いながらみんな始めるのですが、結局それが長続きする人というのは、「脳を鍛えるため」に嫌々ながらやっている人ではなくて、トレーニングそのものを愉しむことができている人なのですから。

 たぶん、ときには「純粋に遊ぶ」ことが、ストレスに耐えて生きていくには必要なのではないかな、と僕も思うのです。ただ、「ストレスになったら、すぐやめる」となると、僕には『ニコリ』に載っているようなパズルは1問も解けそうにありませんが。