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2006年12月20日(水)
なぜ、日本映画に「リメイク作品」が増えたのか?

「日経エンタテインメント!2007.1月号」(日経BP社)の「ヒットメーカー対談・樋口真嗣監督『日本沈没』×細田守監督『時をかける少女』」より。

(今年(2006年)の日本映画界を代表する「リメイク作品」の2人の監督による対談記事の一部です)

【細田守監督:樋口さんも僕もどちらもリメイク作品ですよね。リメイクといえば、もう1本'06年の話題作に『ドラえもん のび太の恐竜2006』がありますよね。70年代、80年代の作品と今復活させることの意味を、どう考えましたか。リメイクって、見てもらう前の印象は決してよくないじゃないですか。何で今さら?と言われたりとか。

樋口真嗣監督:そうなんですよ、リメイクって何だかラクしてるっぽい感じを与えるし、変えると「どうして?」となるから敵を作りやすい。さらに難しいのが、その元になった作品を自分が好きであればあるほどつらくなっていくこと。

細田:『時をかける少女』を作るにあたっては、今の若い観客が予備知識なしで新しい作品をして出会ってもらえるように考えました。なので、あえてノスタルジックにならないように意識しています。

樋口:俺も、『日本沈没』を作るにあたって1つだけ条件をお願いしたことは、「変えてもいいですか」でした。元の映画がものすごく好きなので、ゼロから作りあげた前のものには絶対に勝てない。だとしたら、今の時代にどう着地させられるかを考えたんです。また、これは現実的な話なんですが、公開直前に大地震があっても自粛しないで済む話にしなきゃいけない、というのもあって。だから、怖いというよりも悲しい感じにできないかと思ったんです。生活の基盤、住む場所がどんどんなくなっていく怖さがじわじわっと感じられるようにしたいと。
 今回僕は、旧作を知らない人の意見の方が新鮮だったんですよ。知っている人は、知っていることが邪魔になって、映画に入り込めないような印象を受けたんです。だけど、話題性は絶対に必要だからリメイクの有利さも捨てがたい。

細田:『時をかける少女』も『日本沈没』も世代的にオールターゲットなところがありますよね。

樋口:そうですね。映画って金と暇があるやつしか行かないわけでしょう。今の30代、40代は金があるけど暇がない、それより若いと金がない。だから、もうじき定年退職を迎える世代の人たちがこれからの映画を支えてくれるんだと思います。同時にそこは、昔の『日本沈没』を見た記憶が残っている年代で。その年代の人たちが見に来てくれたのはすごくうれしかったです。『時をかける少女』は最初から変える前提でしたか?

細田:過去に7度も繰り返し映像化されている原作はほかにないですよね。もはや古典と言ってもいいほどです。だからこそ僕ら作り手の、この現代という時代をどうとらえるかという解釈が非常に重要になってくると考えました。】

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 樋口監督の『日本沈没』は興行収入約52億円の大ヒットとなり、細田監督の『時をかける少女』も非常に高い評価を得ている作品です。僕は両作品とも未見なので、内容については語れないのですが、そういえば、この料作品は、どちらもリメイクであるのと同時に、小松左京、筒井康隆という日本のSFの最盛期を支えた巨匠の作品が原作であるという類似点も持っているのですよね。ちなみに、両作品は、2006年の7月15日、ちょうど同じ日に公開されているという共通点もあります。『時をかける少女』は、今回アニメ作品としてリメイクされていますから、見た目の印象には、あまり共通点はなさそうなのですが。
 両監督がここで語っておられるように、「リメイク作品」というものに対して、多くの観客はあまり良い印象を抱いていないのではないでしょうか。原作に思い入れがある人は、「なんでわざわざリメイクするんだ、金のために名作を汚すな!」なんて憤ったりもするでしょうし、元の作品を知らない人に「古臭い」というイメージを持たれたりもするはずです。「元の作品の知名度と内容を利用して、ラクに商売しやがって!」などとも、思われがち。
 もちろん、そんなことは製作側である両監督は百も承知で、この「リメイク」という仕事をされていたようです。樋口監督は「話題性は絶対に必要だから、リメイクの有利さも捨てがたい」という、現実的な面での「リメイク作品のメリット」も正直に語っておられますし。「お金じゃなくて、好きな作品だから自分の手でリメイクしたかった」といくらアピールしてみても、やっぱり「お金にならないリメイク」をやるのは、映画を1本製作するのにかかるコストを考えたら、ちょっと無理ですしね。
 あのピーター・ジャクソン監督が、愛する『キングコング』をリメイクできたのは、『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズでの彼の成功とネームバリューあればこそ、でしたから。
 この対談のなかで、僕がとても印象に残ったのは、樋口監督が「リメイク作品をつくる理由」のひとつとして、「これからの映画産業を支えていくはずの『もうすぐ定年退職を迎える世代の人々』へのアピール」を挙げていたことでした。確かに、平日の夜の映画館には、けっこう御高齢の観客が多いな、という印象を僕も持っていたのです。僕は「映画は若者向けのものが中心」だと思い込んでいたのですが、製作側にとっては、これからの映画産業にとっての「生命線」は、「若者」ではなく、「もうじき定年退職を迎える世代(あるいは、もう少し上の世代)」に移ってきているようなのです。今の30歳以下くらいになってくると、レンタルビデオやDVDで映画を観ることが当たり前になってしまっていて、「映画を映画館で観ること」にこだわりが無い人も多いでしょうし。逆に、映画館で上映されている作品にも「これは興行収入はいまひとつでも、DVDの売り上げに期待しているんだろうな」というような「ちょっとお金をかけたテレビドラマ」みたいなものが増えてきているような気もするのですけど。
 ただ、若い世代にもアピールしていかないと、長い目でみれば「映画人口」は減っていくばかりなのもたしかではあるのですよね……