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2006年12月10日(日)
西原理恵子さんが「お父さんにいちばん感謝していること」

『西原理恵子の人生一年生2号』(小学館)より。

(「【土佐女】サイバラ初ガタリ」と題した、西原理恵子さんへの重松清さんのインタビュー記事の一部です)

【重松清:お父さんにいちばん感謝していることって、なんですか?

西原理恵子(以下「サイバラ」);高校を退学になったとき、学校を訴えさせてくれたんですよ。弁護士を用意してくれて。「おまえがどうしても納得いかないんなら、こういう方法もあるから」って。

重松:飲酒による退学処分でしたっけ。

サイバラ:そう。その前に1回停学になってるんですけど、いままでの判例だと、その次は無期停学のはずなのに、一気に飛んで退学になっちゃったんですね。その夜は、友達とスナックで飲んでて、私は先に帰ったんだけど、残った友達が教師につかまって、警察に連れていかれたんです。それが夜の9時か10時頃だったのに、夜中の2時ぐらいまで教師が4、5人で女の子たちを小突いて、トイレにも行かせないで、私の名前を言わせちゃったんですよ。教師のなかには酔ってたのもいたんで、それは親も怒りますよね。で、もう退学だ、って。裁判の調書でも嘘と悪口ばっかり。裁判は絶対に勝つと思ったけど。

重松:でも、負けちゃった……。

サイバラ:裁判はお金と力があるほうが勝つんですよ。そのとき、「ああそうか、世間ってこんなだったんだ」って。17くらいのときですからね。ても、大人と本気で喧嘩をさせてくれた父親には感謝してます。

重松:いい体験だった、と。

サイバラ:でしたねー。喧嘩腰でもちゃんとやっていかなきゃいけないんだ、っていうのを学びましたから。

重松:退学処分や裁判に対する、両親の反応の違いってありました?

サイバラ:母親は「みっともない」って言いましたね。世間体が悪い、恥ずかしい、って。やっぱ、それはすごく傷つきましたね、うん。
 でも、父親はそうじゃない。絶対にそんなこと言わない。そこが男の人に対する理想になっちゃってる。最後に底が割れてても、絶対に嘘は言わないとか。もし自分がまわりに攻撃されたら、そうやって観も蓋もなくがんばってくれるというのが、やっぱりあれが理想になってる。】

〜〜〜〜〜〜〜

 西原さんは3歳のときに実父を亡くされているので、ここに出てくる「お父さん」は、お母さんが再婚した相手である義理のお父さんです。西原さんによると、「継父だからといって苛められた記憶はまったくなくて、むしろ溺愛されたことしか覚えていない」そうなのですが。
 ここで西原さんが語られている「お父さんにいちばん感謝していること」を読んで、僕はかなり驚いてしまったのです。だって、普通、女性が「父親に感謝していること」というのは「育ててくれてありがとう」とか「一緒に遊んでくれた思い出」とかじゃないかと思いますよね。でも、それが「学校を訴えさせてくれたこと」だなんて。
 正直、学生時代「停学」とは縁がなかった僕は、これを読んで、「いや、そうは言っても高校生がスナックで飲酒、しかも再犯だったら、退学になってもしょうがないんじゃないの?」とも思ったのです。そんなの「無期停学」でも「退学」でも似たようなものじゃないか、とか。
 ところが、この「事件」の詳細について、この本のなかの別項で、西原さんは次のように語っておられます(ロフトプラスワンでのトークイベント「西原理恵子の居酒屋煮え煮え」より)

【高校の頃、スナックで酒を飲んでて、私は先に帰っちゃったんですけど、残った3人が卒業生に通報され、学校の先生が5人ぐらいスナックに駆けつけてきたんですよ。なかには酒を飲んでいる先生もいたし。その3人の友達は、先に帰った私の名前を「言わなきゃダメだ」ってことで、先生にそのまま警察に連れて行かれていきなり取調室。だいたい取調室を貸すってのが警察もバカですよね。そこで夜中の2時くらいまで監禁したらしいんですよ。その子たちも殴られて、私の名前を言うまでトイレにも行かさなかったんですって。お酒飲んでたのに…もらしちゃいそうになって、最後、ようやく言ったの。
 で、次の日、退学してくれって。その前に私はディスコと煙草で一週間停学になっていたから、「無期停学やな」ぐらいに思っとったら、「辞めてくれ。強制退学。とにかく自主退学届けを出してくれってことになって。「納得いきません」って言ったら、「とにかくダメや」の一点張り。何でかなと思ってよう考えたら、補導担当の教師がかなりの不手際やってるからフタしたいんだろうなーって。どこにでもある話ですよね。】

 これが「どこにでもある話」だとしたら、本当に怖いよなあ、と思います。おまけに西原さんによると、高校との裁判のなかで、

【私は覚せい剤を常用している生徒になっていたんです。それから補導歴が30何回とかね。私、1回も補導されたことないんですよ。でも、私が「それは違います、嘘です」って言っても教師たちは「こうです」って言う。もう言い合いですよねー。】

というようなやりとりがなされたのだとか。いやまあ、これはあくまでも西原さん側の見解であって、どちらが本当に正しいのか、ここで断言することはできませんし、僕が裁判官だったら、学校の先生たちと素行に問題がありそうな生徒のどちらを信じるのか?と問われたら、学校側を信じてしまいそうな気もするんですけどね。こうして「有名漫画家・西原理恵子の経験談」と聞くと「なんてひどい学校なんだ!」と憤ってしまうのですが。

 ただ、この「裁判」が、西原理恵子という人間に与えた「影響」というのが非常に大きかったのはまぎれもない事実なようです。今の西原さんの作品にみられるある種の「妥協のなさ」「権力への反発心」や「弱者への優しい視線」というのは、彼女自身が高校時代、実際に「大人の社会のしくみ」と闘って、そして踏みにじられ、敗れてしまった経験に基づいているものなのでしょう。
 まあ、父親としては、娘に「お父さんにいちばん感謝していることは、学校を訴えさせてくれたこと」と言われるのは、あまり嬉しいことではないのかもしれませんけど。