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2006年11月21日(火)
水中写真家・中村征夫さんの「いい写真、自分らしい写真をとるテクニック」

「週刊アスキー・2006.11/21号」の対談記事「進藤晶子の『え、それってどういうこと?』」より。

(水中写真家・中村征夫さんと進藤さんとの対談の一部です)

【進藤晶子:そうそう、最近は必ずみんなカメラを持っていますよね。携帯にもついてますし。そこで、いい写真、自分らしい写真をとるテクニック、心構えを教えていただけますか?

中村征夫:よく、感性やセンスを磨きなさいとか写真の先生は言うけど、具体的にはなにをすればいいか、わかりませんよね。僕はね、まず自分の本当に好きな、愛するカメラを手にすることが第一だと思うんです。このコ、かわいくてしょうがないっていうようなカメラを手に入れて、それをかわいいかわいいって、いつも持ち歩く。そして今日は曇ってるから、悲しみ、さびしさというテーマを探してみようかなと思って周りを見てみたら、いろいろなものが見えてくるはずです。ふだんは気づかないものが。たとえば、恋人たちがベンチで会話もしないで、ちょっとそっぽ向いた瞬間にパチッと撮れば。

進藤:おぉ〜、なるほど!

中村:それが悲しいテーマの写真になる。逆に今日は晴れたから幸せなテーマでいこうと思えば、ちょっと花が二輪くっついてたら、パチッと撮ればいい。そうやっていろんなものが見えてくることが、センスにもつながると思うんですね。常に好きなカメラを持ち歩いて、なにかないかなーって見ていれば、なにかが飛び込んでくるものなんですよ。

進藤:なるほど!

中村:それを、撮っちゃえばいい。その瞬間がすごいものなら、ボケボケでもニュース写真になります。

進藤:そうですか?

中村:そうですよ! だってロバート・キャパにだって”ちょっとピンボケ”って写真集があるんだよ(笑)。

進藤:そりゃ、キャパだから(笑)。

中村:でも、それが世界に一枚しかない写真だったら、ダイヘンな瞬間だったらどうするんですか。

進藤:そうですね。中村さんはそういう瞬間に立ち会ったことは?

中村:いままでに? ない(笑)。

進藤:(笑)

中村:いや、でも今日の帰り道にあるかもしれない。チャンスっていうのは偶然でもなんでもなく、自分で引き寄せるものなんだと思うんだよ。そういうスゴイ瞬間を撮れるシャッターチャンスっていうのは、自分でなんとなく予感があるものだと思うから。だって、カメラをまず持ち歩いていること、そしてただ、そこに居合わせること自体がチャンスw自分で引き寄せたことになるんだから。

進藤:まずそれがスクープを手に入れる条件のひとつ。

中村:それから、カメラをそのときに手に持っていること。カバンやケースに入れていたら、間に合わない。

進藤:なるほど、それがステップ2。

中村:なにかないかなと思って、構えているところにフッと現われるから、撮れるんだよね。

進藤:スイッチ入れている間に、通り過ぎちゃうかもしれませんものね。

中村:だからこそいちばんいいカメラは”写ルンです”とか、レンズ付カメラ。巻き上げておけばその場で写せる、あんないいカメラはないよ。

進藤:うーむ、そういう心構えがセンス、感性につながるんですね!

中村:そういうこと(笑)!】

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 水中写真家、中村征夫さんが語る「いい写真、自分らしい写真をとるテクニック」。この話を読んでいると、「感性やセンスを磨く」なんて理屈を並べるよりも、まず、常にシャッターチャンスを狙ってカメラを構えることこそが大事なのだ」と中村さんは考えておられようです。そして、「道具への愛情」というのも重要なのだな、と。確かに、写真家はカメラを大事にするし、野球選手はバットやグローブを大事にする人が多いのですよね。逆に、自分の道具に愛情を持てないような仕事というのは、「自分に向いていない」のかもしれません。
 拡大解釈なのですが、僕はこれを読みながら、「どうして夫婦仲がうまくいかなくなるのか?」という質問に対して、失ってしまった愛情を修復するよりも、スタートの時点で「本当に好きな、愛するパートナーを選ぶことが第一」なのかな、とか考えてしまったのですけど。
 それにしても、現代ほど多くの人が日常的に「カメラ」を持ち歩いている時代はないと思います。あの「携帯電話のカメラ機能」も含めると、日本人の大多数が、「潜在的カメラマン」なんですよね。でも、そんなにカメラが身近なものであるにもかかわらず、「いい写真」というのはなかなか撮れないものです。自分で写真を撮ったあと、あらためて見直すと「手ブレしてるな…」とか「面白味がない、平板な構図だな…」とかガッカリしてしまうのですが、この中村さんの話によると、「何を撮るのかというテーマも決めずに、漠然と『いい写真』を撮ろうとしても難しい」ということがよくわかりました。
 それにしても、「良い写真」を撮るのって、技術だけじゃなくって、ある種の「積極性」が必要だよなあ、といつも思います。この人を撮ってもいいのかなあ、とか、ここで写真とったら田舎モノみたいだなあ(というか、本当に田舎モノなんですが)、とか考え込んでいるうちにシャッターチャンスを逃してしまうことが、けっこう多いんですよね。