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2006年03月20日(月)
「告発ブログ」の危うさ

毎日新聞の記事より。

【インターネットのブログ(個人の日記風簡易型サイト)に書かれた小説のモデルにされ、名誉を傷つけられたとして、京都市内のタクシー会社が元運転手の男性(58)に慰謝料など1100万円の賠償などを求めた訴訟で、京都地裁の中村哲裁判官は16日、「社会的評価や信用を低下させた」などとして男性に100万円の支払いを命じた。ネット問題に詳しい岡村久道弁護士(大阪弁護士会)は「ブログでの名誉棄損を認定した判決は聞いたことがない。今後は同様の問題が増えると予想され、警鐘になる」と話している。
 判決によると、男性は04年4〜5月、24回にわたり同社をモデルとした小説をブログに掲載し、「社内で運転手が飲酒し、管理職も放置」「幹部が会社の金を横領」などと表現。会社や幹部は仮名だったが、自己紹介で会社や自分を実名表記した。同社は小説掲載を理由に解雇したが、男性が解雇無効を求めて提訴。男性が05年2〜3月に全回分を再掲載したため、会社側が反訴していた。
 判決は「男性が主張するだけの事実は認められない」としたうえで、「同社を知る業界の者が読めば、同社がモデルで、事実と思うことが想定される」と指摘した。
 男性は判決後、「内容は事実。今後もブログで公表していく」と話した。これに対し、同社側の弁護士は「場合によっては名誉棄損での刑事告発も検討せざるを得ない」としている。
 岡村弁護士は「情報発信の敷居が低くなったのはいいが、不特定多数の人が見る影響力の大きさを考えねばならない。その危うさを象徴する判決」と話している。
 ブログは、運営事業者に登録して手軽に開設できる。総務省によると、05年9月末現在、国内では延べ約473万人の利用者がいるという。】

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 この記事の最後に、「ブログについての解説」が書いてあるところを見ると、少なくとも毎日新聞的には、「ブログというのは、まだまだ社会的に完全には認知されていない」という判断をしているのでしょうね。
 しかし、この件に関しては、内容が事実であるかどうかにかかわらず、「そりゃあ、会社としてはこの社員をクビにするだろうな…」と僕は思いますし、そもそも、なんでそんな会社で働くのか?と疑問にもなってしまいます。まあ、そいうのって、医療者サイトに対する「そんなにキツイなら、仕事辞めれば?」っていうリアクションと似たようなもので、仕事を辞めたら辞めたで、そう簡単に次の働き口なんて見つかるものじゃない、というのが現実なのでしょうけど。ブログが多少話題になったところで、たいした収入になるわけでもないしね。
 この「告発」の内容が真実であれば、そんな告発者は会社にとっては不都合極まりない存在でしょうし、内容が虚偽であれば、そんなネガティブな噂を世間に垂れ流すような社員に給料を出せというのは、理不尽な話ではあるでしょう。
 世間には、「暴露モノ」のブログというのはたくさんあって、それぞれ仮名にされていたり、「実在の人物とは関係ありません」と但し書きがついたりしているのですが、それでも、こんなふうに話題になってしまって、書いた本人のほうがビックリ、なんていう事態は、けっして少なくないのかもしれません。この場合は、明らかな「告発本」らしいので、会社と争うというのはしょうがない面もありそうですが、「書いてあること」に対して、自分が意図しているように常に相手が受けとってくれるかというのも、「相手しだい」ではあるのですよね。
 先日、火葬場で働いている女性のブログを書籍化したものを書店で見かけたのですけど、内容的には、第三者である僕からすれば、御遺体に対して失礼な内容は無かったように思われまし。でも、御遺族にとっては、そういうふうに「ネタにされる」ということそのものを不快に感じる人だって、少なくはないと思うのです。僕の身内だったら、やっぱり「なんだかなあ…」って感じるだろうし。それはもう、「日記」の宿命なのかもしれませんが、家の日記帳とは違って、ブログというのは、「その悪口を相手が絶対に読んでいないとは限らない」し、「悪口のつもりではなくても、書かれている人が傷つく可能性は、十分に考えられる」のですよね。さらに紙の日記と違って、「自分の悪口が、世間にばら撒かれている」というのは非常に腹立たしいことのはずです。1日1万アクセスのサイトでさえ、日本の人口の1万人に1人くらいしか見ていないとしても。
 さらに、「内容が事実」であるからといっても、世間に公開するのが不適切なことだってあるのです。
 そういう意味では、「ブログ」というツールができる前までは、「マスメディアを利用しての告発」や「訴訟」という方法しかなかったわけで、それをやる人々には、ある種の「覚悟」が必要とされていました。
 でも、今は、ネットという方法ができたたため、「なんとなく『告発』してしまった人たち」というのは、けっして少なくないと思うのです。いやもちろん、社会的に大きな意義のある「告発」だって少なくはないのですが、ネット上にたくさんある「告発サイト」の多くは、単なる「誹謗中傷」だったり、「告発する側の思い込み」だったりするようです。「覚悟」が必要な時代には、公表する時点で誰かが「それはやめておいたほうがいいよ」とストップしてくれたような内容でも、今は、自分の力で世界中に「告発」できてしまうような時代になってしまっているのです。それはむしろ、告発者にとって、自分を貶める危険が高いにもかかわらず。
 ブログが一般的になればなるほど、どんどんブログが書きにくくなっていくというのは、なんだかとても皮肉な話ではあるのですけど。