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2006年02月10日(金)
「ネットバトラー」は、すでに、負けている!

「ハンバーガーを待つ3分間の値段〜ゲームクリエーターの発想術〜」(齋藤由多加著・幻冬舎)より。

(『”たたき台”の底力』という項より)

【大手のゲーム会社を新作の契約を交わすときなどには、手始めにどちらか一社がまず草案を作ります。私の会社のような零細企業などの場合、法務担当者なんていませんから、たいてい大手企業側の法務部がサンプルを作り、それをもとにどこを直せ、いや譲れない、と押し問答の交渉が始まります。
 両者とも零細企業の場合は、どちらにも担当者がいないものだから、面倒さにまかせてついつい契約書は後回し、となってしまいがちです。それくらい面倒な仕事です。
 なのになぜか、大企業はこのたたき台づくりという面倒な仕事を進んでやってくれるのでありがたい、と思っていたのですが、その理由が最近になってやっとわかりました。彼らは、交渉の焦点がこの草案の修正にあることを知っているからです。
 受け取った側の私たちが「ここを直してください」「ここはちょっと合意できない」などと、徹底的に修正を入れたところで、ベースとなっているのは所詮相手の作った条項です。
 「○×社の契約書には徹底的に赤字を入れてやったのさ」と得意気に話している私は、まるで仏様の手の上であがいている孫悟空のようなものです。】

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 齋藤さんは、あの問題作『シーマン』などのゲームを作った方なのですが、この文章を読んで、僕もあらためて、「自分が、いかにいい気になって他人の掌の上で踊っているのか」を思い知らされました。僕はこういう交渉事をやる機会はほとんどないのですが、「それがそのままでは合意できないような条件であっても、先に出してしまったほうが、圧倒的に『主導権』を握れる」ということは、日常生活にもたくさんあるのです。例えば、誰かを夕食のメニューを決めるときでさえ、真っ先に手を挙げて「ここの店はどう?」と店名を挙げる人のほうが、「えーっ、その店イヤ!」ってばかり言っている人よりも、はるかに希望する店に行ける可能性は高いですよね。
 まあ、めんどくさいとか、否定されたら悲しいっていうためらいが、どうしてもついてまわるのですけど。
 メディアの誤報や偏向報道に対して、「それは間違っている!」と声をいくらあげてみても、それはあくまでも、「相手の書いた記事」という限られた枠の上で戦っているだけなのですよね。その状況で、どんなに頑張って「自分の主張の正しさ」を訴えてみても、その最高の結果でさえ、「相手が間違っている」ということの証明でしかないのです。
 ネット上でも、よく「○○の言っていることはおかしい!」などという意見の相違がキッカケで、バトルが勃発したりするのですが、どんなにすばらしい理論で相手を打ち負かそうとしても、所詮それって、「相手の掌のうちで踊らされている」だけなのかもしれません。そして、その打ち負かそうとしている意見が「くだらないもの」であればあるほど、叩いている人も「くだらないことで争っている人」になってしまうのです。
 本当に自分の正しさを証明しようとするならば、「誰かの土俵の上で勝負する」のでは意味が無くて、「自分の土俵を創る」しかありません。
 つまり、誰かを叩いたり、煽ったりしている時点で、すでに、「負けている」ってことなのですよね。