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2005年11月30日(水)
古本屋さんの「本当の規模」とは?

「古本道場」(角田光代・岡崎武志著・ポプラ社)より。

【五十嵐書店を出たところで、若き店長のおとうさんにばったりと会う。このおとうさん、ものすごく陽気な人で、近くにある倉庫を見せてくれると言う。古本屋の倉庫! はじめての体験である。
 地下の倉庫に案内されて、言葉を失った。広いフロアの四隅には可動式の棚があるのだが、フロアのほぼ全域、天井近くまでうずたかく本が積まれているのだ。知識の壁どころか、知識の巨岩である。
 何がどこにあるのか把握しているのでしょうか、と訊いてみると、してる、との答え。コンピュータより彼の頭のなかは精巧なのだそうだ。
 実際、本と本のあいだのけもの道をずんずん進み、「掛け軸見てみる?」と掛け軸を広げてくれたり、またジャングルを進むように道なき道に分け入って入り「これは拓本」と、文学碑の拓本を見せてくれたりする。海外の大学に送る本も、大量に梱包されている。
 古本屋さんの規模というのは、お店ではなくて、倉庫なのだとおとうさんに教わった。たとえばひどくちいさな店が、巨大倉庫を持っていることもある。お店をぐるりと見て、目当ての本がここにはない、とあきらめるのは早計で、だから店主と言葉を交わしたほうがいい、らしい。三楽書房における河上さんみたいに。
 「河上さんの夢って、こういう倉庫みたいな部屋をつくること?」と河上さんに訊いてみると、「いやあ、ああなりたくてなるというよりはああなっちゃうんだよね」と言った。河上さんの部屋は、すでに本で埋もれ、来客はひとりづつ細いけもの道を歩かなければならないらしい。】

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 この「五十嵐書店」というのは、早稲田の古本屋街にあるのだそうです。残念ながら、僕は東京の地理には疎いので、具体的な場所はイメージできないんですけど。
 それにしても、この【古本屋さんの規模というのは、お店ではなくて、倉庫なのだ】というのは、ものすごく奥が深い言葉なのかもしれません。僕たちは「古本屋」というものの規模を、単純に店の大きさや目に見える書籍の数で判断しがちなのですが、実際は、「目に見えないところのストック」こそ大事なのですよね。とくに今の時代は、店舗は小さくても、ネット販売などでたくさんの本を売っている店なんていうのも、たくさんあるのでしょうし。
 そして、これって、人間に関しても言えることなのではないでしょうか?
 僕たちは、「周りにアピールしている知識」で、その人を判断してしまいがちですが、実際のその人の実力とか知識というのは、必ずしもひけらかされているものだけではないのです。見た目はおとなしくて慎ましいけれど、実はすごい「実力」を秘めている人は、少なくないはずなんですよね。ちいさくみえる店の地下の「巨大倉庫」のように。
 まあ、裏を返せば、「巨大倉庫」なんかなくても、見せ方しだいで「立派な店」だと周りに思わせることだって可能、ということでもあるのですが。