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2005年06月27日(月)
あるミステリ作家の、隠れた「最大のヒット作」

「本棚探偵の冒険」(喜国雅彦著・双葉文庫)の一部です。

【ドライブがてらの我孫子さんの京都案内も耳に入らない。フィンランドから取り寄せた建材で建てられたという北欧建築の我孫子邸、通称『かまいたち御殿』の上品な美しさも目に入らない。

注:氏の脚本によるゲームソフト『かまいたちの夜』は氏の最大のヒット作である。】

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 京都在住のミステリ作家・我孫子武丸さんの家に、喜国さんがわざわざ「本棚の整理に」行ったときの話の一部です。喜国さんは「まったく誰も整理していないまっさらな本棚に本を並べていく快感」のために、わざわざ東京から京都まで新幹線で行かれたということですから、全くもって、好事家というのは凄いというか、常識を超越しているものだなあ、と感心してしまいます。僕も本は好きですけど、本を整理するのはちょっと…という感じだものなあ。
 ところで、この「注」の【ゲームソフト『かまいたちの夜』は氏の最大のヒット作】というところで、僕の目は留まったのです我孫子さんの略歴はこんな感じで、確かに、ミステリ好きには馴染み深い名前なのでしょうが、一般的な知名度からすれば、それほどメジャーではない、というところでしょうか。そして、僕が我孫子さんの名前を知ったのも、「かまいたちの夜」というゲームソフトのシナリオの原作者として、だったのです。
 我孫子さんは、この本のなかで「日本一シューティングゲームがうまいミステリ作家」なんて書かれていますし、生粋のゲーム好きが高じて、「かまいたちの夜」を作ったチュンソフトとの交流ができた(確か、ゲームに同梱されていたアンケート葉書がきっかけだったとか)、というエピソードがあるのですけど、「趣味」とか「副業」のはずだったゲームのシナリオが、「代表作」と呼ばれてしまうことには(この表現は、喜国さんのちょっとした皮肉のような気もするし)、どういう思いがあるのでしょうか。
 それにしてもまあ、本業である小説よりも、ゲーム作家としての仕事のほうが、「御殿」が建てられるほどお金になることもある、ということですよね。今の世の中、ちょっと本が売れたくらいでは「御殿」は建ちそうにないのに。
 実際は、そういう「一儲け」を狙って失敗した有名作家は少なくないし、我孫子さんとしては「かまいたちの夜」が「代表作」と呼ばれることには、あなり抵抗はないのかもしれませんが。
 そして、実際に遊んだ人間としては、遊びやすさが重要なゲームのシナリオとしてはともかく、小説家としては、「代表作」と呼ばれるほどのものかな、という気もしなくもないです。でも、世間的には「かまいたちの夜」の我孫子武丸に、なってしまっているのですよねえ。
 ところで、この「代表作」で思い出したのですが、「ファイナルファンタジー8」(スクウェア)という大ヒットゲームにフェイ・ウォンさんの"Eyes on Me"(1999年)という歌が挿入歌として使われています。ちなみに、ファイナルファンタジー8の売り上げ本数は、シリーズ最高の360万本ですから、実は、"Eyes on Me"は、1999年最高のヒット曲、と言えなくもないわけです。まあ、結構難しいゲームだったので、実際に曲が流れるシーンまでたどり着いた人は、そんなにいなかったとしても。
 こうして考えると、ゲームというのは、僕などがイメージしている以上に大きな「産業」になってきているのだなあ、とあらためて思います。そして、ゲームというメディアに影響を受けている人は、けっして少数派ではないのですよね。
 まあ、「作家的な評価」とか「アーティスト的な評価」としては、いまのところ、そういう「実績」というのは、黙殺されているのかもしれませんけど。