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2005年05月25日(水)
「スパム・コミュニケーション社会」の裏側で

毎日新聞の記事より。

【埼玉県富士見市の認知症(痴呆)の老姉妹が全財産を失った訪問リフォーム問題で、姉妹から3社で計1800万円もの契約を取っていた元営業マン(47)が、偽名で勧誘や契約をしていたことが分かった。特定商取引法は訪問販売業者に氏名などを明らかにするよう定めているが、この男性は「(訪問リフォーム)業界ではよくあること」と釈明。3社中2社は実態のない幽霊会社だと認め、工事費は「自分たちの生活が成り立つように」決めていたことも明かした。高齢者を狙う悪質業者の実態が、また明らかになった。
 男性は、姉妹と契約を結んだ16社のうち、最多の約2500万円分を受注したシロアリ駆除業者の元社員。8カ月の在職中、他の社員と共に姉妹と1663万円の契約を結び、退職後も別の2社名義で計166万円の契約を取った。この間、契約書に記した姓も押印も偽名だった。
 これについて男性は「自分の名前は字面が良くないので、尊敬している先輩の姓を借りた。24年ほどこの仕事をしているが、業界では名字だけ変えるのはよくあることではないか」と話した。
 また、退職後に契約した2社については「登記しておらず、(契約書に記した所在地は)知人の住所を無断で使った」と幽霊会社であることを認めた。契約書には施工担当者として別に2人の名前があるが、「会社は1人でやっていた」と言い、どんな工事をしたのかは「詳しくは覚えていない」と話した。
 一方、工費の算出根拠については「相場も原価も知らない。同じような過去の工事額を覚えておいたので、記憶を頼りに決めた」と説明。「高すぎる」という専門家の指摘に対しては「目いっぱいいっぱい取ったから、安くはないと思う。自分たちの生活が成り立つように仕事をする」と居直った。
 ただ、姉妹が認知症であることや、16社が工事を繰り返していたことは、いずれも「知らなかった」と釈明。「反省しており全額返済したい」と述べ、富士見市役所にもその旨を伝えたという。
 また、男性がシロアリ駆除会社を退職後、同業者が姉妹宅に集まったことについては「契約書や顧客リストは持ち出していない。持っていたら売らずに自分だけで使う」と関連を否定した。一方で「リストは、ほかに辞めた人が持っているんじゃないですか。名前は言えないが、3人は辞めている」と流出の可能性に含みを持たせた。】

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 僕はこの事件のニュースを聞いて、本当に「住みにくい世の中」だよなあ、と感じました。実際は、そういう「住みにくさ」は、どの時代に生きる人にとっても共通であったとしても。
 何度かここでも書いたのですが、最近は、固定電話はネット用で、電話は家にいても留守電、なんていう家は多いでしょうし、玄関のチャイムが鳴っても、インターホンやカメラで確認してからでないとドアを開けないのが普通なのではないでしょうか。

 女優・黒木瞳さんの「伝説」に、実家はすごい田舎で地域内の結びつきが強くて、家に鍵をかけたことなどなく、急に雨が降ったら近所の人が代わりに洗濯物を取り込んでくれる、なんていう話があったのですが、そういうのはなんだか、おとぎ話の世界のような気もしてくるのです。

 先日、友人が家にいたら、玄関のチャイムを鳴らす音がして、ちょうど宅急便の人が来る予定になっていたので、彼女は確認のため、インターホンで「どちらさまですか」と話かけたそうです。
 すると、見知らぬおばさんが「○○という研究所の者ですが、お部屋の水質検査をさせていただきたいのですが」と言って、部屋に入れてくれるように頼んできたそうです。「今は人を上げられる状態ではないので…」と断ろうとするといきなり「大家さんから、2週間くらい前に連絡があったと思いますが」とか何とか言い始めて、なかなか帰ってくれなくて本当に困ったのだとか(もちろん、そんな連絡など聞いていない)。「水質検査なら、水道の水をコップに入れて渡せばいいんでしょ」と言っても、「それじゃだめ、とにかく上がらせてくれ」という一点張り。
 結局、インターホンを切って無視することにしたそうなのですが、もう、とにかく気持ち悪かったと言っていました。

 ほんとにもう、僕は最近、家の電話が鳴るのや玄関のチャイムが鳴るのが怖くてたまりません(携帯電話は、今のところはマシ)。それこそ、電話が鳴るとオレオレ詐欺(今は「振り込め詐欺」でしたね)かマンションの売り込みのような気がするし、玄関に来るのは悪質な訪問販売員か宗教の勧誘なのではないかと思ってしまうのです。通販も便利ではあるんだけど、受け取るために玄関を開けなければならないと思うと、日中は家にいないこともあり、二の足を踏んでしまうくらいです。
 被害妄想、なんでしょうけどねえ……
 携帯電話やメールのような、よりプライベートなコミュニケーションツールの普及というのは、ある意味、「比較的プライベートじゃないコミュニケーションツール」に対する恐怖感を増幅しているのかもしれません。
 いきなり固定電話にかかってくる話や突然家を訪ねてくる人は、ほとんど「スパム」なんだし。

 この「認知症の姉妹に対する悪質な訪問リフォーム」の話を聞いて、僕は暗澹たる気分になりました。昔から、訪問販売を生業とする人たち(いわゆる「押し売り」も含めて)は、買ってくれた家に目立たないように印をつけて、仲間同士に「この家では商売ができる!」とサインと送りあっている、という話を聞いたことがあります。彼らの立場になってみれば、それこそ冷たい対応をされて追い返されるのが当然なのでしょうから、彼らなりの「助け合いの精神」で、「優しい人」「騙されやすい人」を仲間に知らせていrのです。
 でも、そうやって標的にされる家は、たまらないですよね……

 僕はそういう怪しげな訪問者に対してひたすら自分の家に篭って嵐が過ぎ去るのを待ちますが(考えてみれば、勝手に訪問してくる人に対して、なんでそんなに息をひそめていなければならないのか、自分でも疑問だけど)、たぶん、そういう人は増えていく一方で、悪質な業者としては、「取れるところから、骨までしゃぶりつくす」しか、生き残っていく方策がなくなってきているのでしょう。
 そして、「現代社会のディスコミュニケーション」に慣れていない高齢者が、どんどん餌食にされていっているのです。そういう傾向は、たぶん、これから酷くなることはあっても、改善していくことはないと思います。
 【「自分たちの生活が成り立つように仕事をする」と居直った。】というコメントに対して僕が感じるのは、憤りというより、「これが現代のスタンダードなんだ」というやるせなさなんですよね。「完膚無きまで、徹底的にやる」というのが、世の中の「流儀」になりつつあって、「相手が高齢者だから」とか「認知症だから」というのは、むしろ「利用できてありがたい」という要素でしかないのです。これを報じているマスコミだって、悲惨な事故の被害者たちに遠慮なくマイクを向けて、「国民の知る権利」だと居直っているのだし。
 確かに、自分が飢え死にしてはしょうがないし、2人で漂流している板が沈みそうなら、1人を海に突き落としても罪にはならないよ。
 でも、そういうことに対して「契約だから」と、罪の意識すら感じられなくなりつつあるというのが、僕は悲しい。

 絶対スパムに引っかからないためには、メールボックスを開かないしかないんだよね、結局のところ。そうすることで、自分の世界がどんどん狭くなっていく一方なのだとしても。