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2004年03月22日(月)
「ハルウララは、走りたくて走っているんじゃない!」

毎日新聞の記事より。

【高知競馬でデビュー以来の105連敗中のハルウララ号(牝、8歳)は22日、中央競馬の武豊騎手が騎乗、第10レースに臨んだが11頭中10着に終わった。

 この日は天才騎手と超人気馬の「夢の顔合わせ」を見ようとファンが早朝から続々と詰めかけ、高知市長浜の高知競馬場には新記録の1万3000人が入場した。全国の地方競馬場や場外馬券売り場でも「武・ウララ」馬券を買い求める人の列ができ、オッズは一時、1.0倍となった。

 レースは雨を含んだ馬場で行われ、重馬場得意のハルウララの初勝利も期待されたが、スタートから後方のまま。武騎手のムチにも反応が悪く、直線でも伸びなかった。

 勝てないのに、懸命に走り続ける姿が人気を呼んだハルウララ号に「1度は勝利を」と、別の馬に乗るため高知競馬場に来る予定だった武騎手に高知県競馬組合が依頼して騎乗が実現した。一般の競馬ファンの関心も集めたが「夢の初勝利」は達成できなかった。】

ハルウララについての、作家・安倍譲二さんの話(SANSPO.COM)
【「開門前に3000人並んだというが、どんな人たちなのか知りたい。若者に貴重な月曜日をつぶしてほしくない。アザラシのタマちゃんと同じで、高知競馬の人しか知らなかったはずなのに、ハルウララ人気のあおり方は目に余る。8歳のハルウララが今後走れなくなり、繁殖牝馬として牧場にも行けなくなった時にどうなるか、現実をメディアは知らせていない。『負けても負けても走る』というが、ハルウララは走りたくて走っているんじゃない」】

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ハルウララについて、前回書いたものはコチラ

 天才・武豊とのコンビで悲願の初勝利を期待された、希代の連敗馬・ハルウララだったのですが、まさに、「何の見せ場もない惨敗」を喫してしまいました。「武豊が乗ってもダメなのか…」という嘆き節もありましたが、競馬をずっと観てきた人間からすれば、慣れない高知競馬場で、初騎乗の馬、しかも105連敗中で実力に疑問符、という状態では、いくら天才騎手でも、いたしかたないところだったのではないでしょうか。むしろ、「怪我なく回って来られて良かった」と一安心しているかも。元来、競馬は馬7、人3もしくは、馬8、人2の割合で結果が決まると言われており、騎手の実力だけではいかんともしがたいものですし。そもそも、高知競馬場でレースをやる限りは、地元の騎手のほうがコースにも慣れているし、馬の特徴も知っていますから、結果を出しやすいのでは?なんて気もするんですけどね。

 まあ、これでとりあえず、「祭り」のひとつのピークは終わりました。「武豊にエスコートされ、悲願の初勝利をあげるハルウララ」、という夢は、打ち砕かれたのです。世間的には、「もうこれで、ハルウララは勝てないだろうな」というのが、大部分の人の「結論」でしょう。

 競馬関係者、あるいは、古くからの競馬ファンの中には、「弱いくせに人気になる」ハルウララに対して、苦々しい思いをしている人も少なくないようで、僕も「このハルウララ人気のあおり方は目に余る」という気持ちを持っていました。みんなマスコミに踊らされているいるだけなんだろ?って。ハルウララが生まれた牧場の人などは、周りに「あの連敗馬を生産したのは、あなたの牧場なんだって?」いうことで、仲間内では肩身の狭い思いをしているらしいですし。

 でも、その一方で、今朝の記事によると、「1年間のトータルで赤字になったら、即廃止」という厳しい状況にある高知競馬にとっては、ハルウララは、まさに救世主のようです。今日の開催だけで、3億円の売り上げ、なんて予想も出ており、おかげで、当面の売り上げ目標はクリアできそうなのだとか。
 「みんな流行りモノにすぐ飛びついて」と言いたいところなのですが、ハルウララ人気のおかげで、少なくとも高知競馬が廃止されれば行き場がなくなるであろう馬たちの命が、少しでも延びたのは紛れもない事実です。「走りたくて走ってるんじゃない」のは、別にハルウララに限ったことでもないわけで、ナリタブライアンだって、「走ったら強かった」だけで、本当は走りたくなかったのかもしれないし。「競馬なんて動物愛護の精神に反する」というのなら、話はわかるのだけど、サラブレッドたちにとっては、「走るしかない」のが現実なのですし、あまりに走ることに特化しすぎたサラブレッドたちは、野生に戻って生きていけるほどの生命力はないのです。

 高知競馬自体も、正直なところ、「自分たちが生き延びるのに必死」な状態なのでしょう。「競馬の本質に反する」とか「マスコミに煽られて」なんて言われても、生きるか死ぬかの状態で、ハルウララという極楽に繋がっていそうな蜘蛛の糸が垂れてくれば、それにしがみつくのは当然のことです。少なくとも、その「生き延びようとする企業努力」を責められる資格がある人が、そんなに沢山いるとは思えません。

 ハルウララは、また惨敗してしまいました。「弱い馬」であるのは、まちがいない。
 でも、今日のレース、僕は「競馬はそんなに甘くない」と思いつつも、心のどこかで、「武豊にエスコートされての、106戦目での奇跡の初勝利」を期待していたような気がします。そういう「信じられないような奇跡」をごくたまにでも、見せてくれるのが競馬の魅力なのです。
 そして、そういう「奇跡が見られるのではないか?」というワクワクするような気持ちを一瞬でも感じられるのも、競馬の素晴らしいところなわけで。今日は1日、このレースの結果が気になって仕方がありませんでした。
 …たとえ、夢が破れて現実を思い知らされることになったとしても。

 ハルウララの馬券を買った人たちは、たぶん「夢」を買ったのです。外れることを半分は承知の上で。

 しかしながら、ハルウララは、高知競馬にとっては「延命策」ではあっても、根治療法ではありません。ブームが去れば、また競馬場には閑古鳥が鳴くでしょう。ハルウララ自身は、競技用の乗馬に転向する予定で、命を奪われることはないにしても。
 たぶん、日本にはこんなにたくさん、競馬場は要らないのでしょう。
 でも、生まれてしまった以上、生き延びるためには、やれるだけのことをやるしかない。そこには、働く人もいれば、馬たちもいるのですから。
 ハルウララをきっかけに、地方競馬にも興味を持つ人が少しでも増えてくれればいいのですが…
 
 競馬というのは残酷です。
 でも、だからこそみんな、その生命の一瞬の輝きに惹きつけられるのかな、とも思うのです。
 
 まあ、ハルウララの「商品価値」からすれば、「武豊が乗っても勝てない」ほうが、結果的にはいいんじゃないでしょうか。「ひとつ勝ったら、ただの弱い馬」になってしまうかもしれないし。
武豊騎手は、ヘタクソ呼ばわりされてちょっとかわいそうですけど。

 個人的には、もう引退させてあげたい気もしますが、今の高知競馬の現状では、なかなか難しいでしょうね。
 もう、彼女が背負わされているのは「1勝への夢」だけじゃなくなっているからなあ…
 今となっては、身近な関係者だって「走らせたくて走らせているんじゃない」のかもしれません。