なんだかみんな忙しそうだ。 アルスターの人達から、色んな食料とか物資の差し入れがあったらしい。城に運ぶの、俺も手伝った方がいいのかな。でも俺非力だし。魔道書より重いもの持ったことない箱入りマージだし。 どうせ足手まといになるなら、他のこと手伝った方がいいかな。でも何すればいいんだろ。誰に聞けばいいのかもよくわからない。 ティニーはどうしてるかな。さすがに荷物運びの集団の中にはいなさそうだ。そりゃそうだ、ティニーみたいに華奢でか弱くて可愛い子があんな重たい荷物持ったりしたら、きっと壊れちゃう。 アルスターの市民は浮かれてる。普通よその土地から来た反乱軍が城を制圧したりしたらもう少し怒ったって良さそうなもんだが、みんな笑ってる。それだけブルームの奴がひどいことしてたんだろう。うん、やな奴だ、あいつは絶対許さない。 あいつが俺から母上とティニーを奪っていった。 解放軍が俺にティニーを返してくれた。 だから俺は解放軍に感謝しなきゃいけない。感謝だけじゃなくて、なんて言うかこう、もっとなんか役に立たなきゃいけないはずだ。 でも荷物運びは重いよな。戦場で役に立てるほど、すごい魔道士って訳でもないし。 や、別に、俺が弱いっていうじゃないんだよ? でもほら、魔法使いって、そんな前線に出て大活躍するような職種じゃないでしょ。後方支援っていうかさ。ね。 …まあいいや。それよりどうしよう。なんか居場所がなくて落ち着かない感じ。 どうしたらいいんだろう。忙しく働いてる人に話しかけるのも悪いし。誰かに聞けばいいのかな。 …あ、そうだ、あの人だ! 思いついた。あの何でも知ってる、いらないことまで教えてくれる、絶対どっかに盗聴器でも仕掛けてるに違いないあの人だ。あの人ならきっと、俺がどうすればいいか教えてくれる。 よし、街に行こう。そう決めて、俺は走り出した。「廊下を走るな」ってレヴィン様に怒られたけど、気にしない。一応ティニーの部屋に寄って、今日は一緒に出掛けられないことを謝る。 ティニーはきょとんとした後、笑って「にいさま、いってらっしゃい」と言ってくれた。 うん、俺の妹は今日も可愛い。 俺は上機嫌で、晴れたアルスターの空の下に飛び出した。
「お主のその気持ちを伝えるのが大事じゃろう十勝二敗じゃ」 「………」 占いじいさんの、マニュアル通りの営業から抜け切れないセリフが静かに響く。 …なんだそれ。 「なんだよそれ! そんなの答えになってないじゃん!」 「そもそも『俺はみんなのために何をすればいいですか』なんぞというのは占いではないわい!」 「大体何その十勝二敗って! 十勝はともかく二敗って!」 「おお…お主が覚えておらんのも無理はない。その記録というものはの、神のご決断による『りせっと』という奇跡で、なかったことに…げふんげふん」 「ええっ? 何それ!」 「そこから先は企業秘密じゃ!」 …なんだそれ、何が何だかさっぱりわからない。 それにしてもそんなにはっきり数字で表すことないじゃないか! さっきあれだけ力説した俺の苦労をどうしてくれるんだ。ああ、きっと今ので六割の人が俺のこと弱いと思った。四割の人は聞き流してくれた。ああ、いやでも、きっとティニーだったら、優しく俺のこと慰めてくれるんだ…。 ――じゃなくて。 ああもうまったく、役に立たないじじいだなあ。 「ちぇー。せっかくわざわざ来たのになあ」 「お主の父親は…」 「聞きたくないよ」 「お主はオイフェが気になっておるようじゃ」 「なんでだよ!!」 …ダメだ、帰ろう。 占い屋を出て広場に抜けた。なんていうかすごい時間をムダにした気分。じいさんなら何か素晴らしい指針とか授けてくれるかと思ったんだけどなあ。結局、戦績と親と恋のこと以外はさっぱりわからないらしい。占いってもうちょっとこう、そんな事実とか現状とかじゃなくて、未来の予言とかをしてくれるもんじゃないんだろうか? たとえば明日は晴れます、とか。 今夜のおかずはトンカツです、とか。 …あ、それいいなあ。 いやいや。違う違う。 「おや兄ちゃん、悩みごとかい。ちょっと見てきなよ」 「…へ?」 頭がトンカツに支配されるのを必死で追い払ってたら、露店のおっさんが話しかけてきた。 ほけーっと見てると、にっかり笑う。 つい呼び寄せられて、俺は台の上に並べられた小さな布袋を見た。 「…何、これ?」 「この地方に古くから伝わるお守りさ。これひとつで、家内安全・学業成就・交通安全・商売繁盛ときたもんだ!」 「へえー。すっごいなあ」 「なんと、特製ストラップと専用ポーチがついて100ゴールド!」 「安い!」 「しかも代引手数料無料!」 「おっとくぅ!」 「更に更に、今なら一つ買ったらもう一つプレゼント!」 「うっわあ、それは買わなきゃ! お申し込みの電話番号は?」 「……いや、それはココで買いなよ。露店なんだからよ」 …いきなり冷静になるなよおっさん。 じゃあ代引手数料は何だったっつーの。 「…まあいいや。ご利益ありそうだから、買ってみよー」 「まいどっ!」 「えっと、もう一つプレゼントでもらえるから、二個目はティニーに…」 「おっ、いいねいいね、彼女にプレゼント!」 「え?…や、ティニーは彼女じゃなくって…」 ……あ。 そうか。彼女じゃないけど、フィーにもあげたいな。だってフィーはいつも一人で空の上なんだから、危ないこともたくさんあるだろうし。交通安全ってきっと空の旅にもきくはずだ。 でも困ったな。そうしたら俺の分がなくなっちゃうし。あ、もう一つ買えばいいのか。でもそうするとまた一個ついてきちゃう。 …誰か他の人にもあげようか。オイフェさんとか? あ、いや、決してさっきの占い屋の話は関係ないよ? 今たまたま頭にヒゲが浮かんじゃっただけで、日頃から気になってるとかそういう話は一切ないよ? でもオイフェさんにあげたらセリス様にもあげないと悪いよね。そうしたら、もう一個ついて来たのはラクチェにでも? ああでもそしたら双子のスカサハにもあげないとすねちゃうかも? …えーとえーと、えーと……。 「……」 「? おい兄ちゃん、どうしたんだよ」 「…えーと……そしたらそしたら、マーニャにも…」 「? 何ぶつぶつ言ってんだ。買うんだろ?」 「…えーと……あの」 指折り数えて、俺はおっさんに向き直った。 「このお守り、あるだけ全部下さい」 「へ? ぜ、全部?」 「うん、全部。持てるかなあ」 「それより兄ちゃん、金払えんのかい?」 「…月賦でもいい?」 「分割手数料は無料じゃないぜ」 「え、マジ?」 うわ、それは誤算だ。 とりあえず俺は財布をほとんど空にして代金を払って(闘技場で稼いで来ないと……でも次の相手ソードファイターなんだよなあ)、両手いっぱいのお守りを手に入れた。なんだかこんなにたくさんあるとありがたみがないような気がしないでもないけど、きっと気のせいだろう。だって由緒あるこの地伝統のお守りなんだから。 ティニーにあげよう。フィーにあげよう。オイフェさんにもセリス様にも、ラクチェにもスカサハにもみんなにあげよう。 みんなで持ってればきっとすごいご利益がある。きっときっと、解放軍を守ってくれるに違いないんだ。 俺は非力だけど大した役には立たないかも知れないけど、解放軍のみんなに何かしたかったんだ。『その気持ちが大事』ってじいさんも言ってた。余計な事も言ってたけど。 よし、城に帰ってみんなにこれを渡そう。 ちゃんと一人一人に、『これ、俺の気持ち』って言って手渡すんだ。 ……みんな、どんな顔してくれるかな? きっと喜んでくれるよね。…きっと。
追伸。 ――後でお守りを手渡した時、ぽろっとこぼした戦績に「にいさま、よわい…」とティニーから痛恨の一撃をもらったのは、なかったことにして欲しいです、神様。
【ここよりあとがき】 ――先日知人が作った同人誌の内容をパクりました(堂々)。大丈夫、私達の合言葉は「違います! パクリじゃなくてインスパイアです!」だ。きっと彼は海より広い寛大な心で許してくれるに違いない!
……あの、一応、本人からクレームが付いたら消すつもりでいます。
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