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ひとりごと。
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2006年06月30日(金)
突然フィンアイ劇場(12/17の続き)

「参りました。流石はアイラ様ですね」
 少年は、そんな風に言ってみせた。
 その瞳は木の葉の合間から覗く空と同じ色をしている。
「是非ご褒美を戴きたかったのですが」
 『残念』と表した顔が本気なのか、わからない。
 フィンは両手を払い、汚れた衣服を軽く叩いて、乱れた髪を整えた。
 改めて、アイラを見上げる。
「私の負けですから、何か罰を受けなければなりませんね」
「――…」
 そう言う顔は言葉と裏腹、どこか楽しげでもあった。
 初めのうち何度か構ってやったせいか、フィンは割合物怖じせずにアイラに寄って来る。他のほとんどの兵士達に遠巻きにされているのは自覚しているから、アイラにとっては例外的な存在でもある。
 もっともそれは、誰に対しても懐こく親切な(お節介な、と置き換えたくなる事もあるが)エスリンの影響も多分にあるのだろうが。
「…私が勝ったら、という約束はしていないな」
 アイラは苦笑した。
 生真面目な少年だと思う。まだ年若い騎士見習いだというのに、己の立場を思うのか周囲への気遣いや目の配り方には卒がない。
 一度「王女」と呼ぶのを咎めたら、それから二度と口にはしなくなった。
 その声に「アイラ様」と呼ばれるのは、不思議と悪くない。
「…しかし、それでは不公平ですから」
 フィンは、真顔で言い募った。
 子供なりに自負するものもあるのだろう。確かに遊びの範疇とはいえ危うく負かされそうになるとは思っていなかったので、アイラは内心驚いてもいた。
 次第に本気になっていたのは否めない。
「…そう気にするな」
 アイラはそう言ったが、フィンは諦めそうにもなかった。
「それはいけません。勝負と仰ったのはアイラ様です」
「まあ、しかし…」
「遊びと言えども勝負は勝負。私から『ご褒美』を差し上げられるものでもありませんが、代わりに何かご命令を」
「……」
 まっすぐに向けられるその視線に、アイラは弱い。
 「人の目を見て話せない人間は心が弱い」と父に教わった。確かに人と対面するのが苦手な自分は、どれだけ剣技を磨こうとも弱い人間なのだろう。
 フィンは怯む事なく前を見る。決して我が強い訳でもないのだが、その目には時折射るような力を感じる。
 見透かされそうに思える。
 自分の弱さや、無力さまでもが。
「…しかし、突然そう言われてもな…」
 今もつい、アイラはその視線から逃れてしまっている。
 フィンは気付かぬ様子で、にっこりと笑った。
「…そうですね。突然ではお困りでしょうから」
「ああ…」
「でしたら、何かご必要な時にいつでもお声掛け下さい。私に出来る事であれば何なりと」
 すっと、従者の仕草で頭を下げる。
 深い青の髪。
 海の青。
「……」
 知らず、見惚れてしまっていた。
 その色はアイラに懐かしい景色を思い出させる。
 故郷の海の色。
「…では、私はこれで」
 そう言って背を返すフィンを離すのが、少し惜しい気もした。
 遠くなる。
「――…」
 見送る自分にはたと気付き、アイラは苦笑した。
 どうにも調子が狂う。
 用もなく側に来たかと思えば、あっさりと去って行く。それは邪魔にされぬようにとの彼なりの気廻しなのだろうが、そうして残された空虚の行き場に戸惑いもする。
 アイラは昔から人と接するのが得意ではなかった。
 それがフィンと過ごすのは不快でないのだから、おかしなものだ。
(…それともあれは人ではないのかな)
 言ってみて、また一人軽く笑う。
 自然と笑える。その瞳の前では、何故か。
 何故だろう。



2006年06月29日(木)
地名

仕事で「姶良郡」という住所に出会った時に未だにぴくりとしてしまう自分が愛しい。
「杉並区天沼」は割とスルー出来るようになりました。

余談だが烈火の炎にハマっていた頃は曜日の名前を略すのにも余計な事を考えていた。オタクの日常は無駄な妄想で大半が構成されているのだとつくづく思う。



2006年06月26日(月)
そんな新宿の夜

何だか必要以上に細い人と必要以上に重い人と必要以上に長い人と四人で会いました。標準体型はどこにあるのだろう。

ちなみに重い人の体重を聞いたら細い人と私の二人分を合わせてもまだ20キロ以上足りない事が判明。
長い人の身長を聞いたら想定(と言うより記憶)よりも大分高くて最近何度か日記に出た検証にはむしろ不適格だった事も判明。

そーいえば「ぶきっちょさんのモノサシ」という少女漫画で、男性恐怖症のヒロインが30センチ定規を常時携帯している設定だったような気がするのですが定かでない上何の脈絡もない話題なのでした。



2006年06月25日(日)
休日

親の奢りで食べたお寿司が美味しかったです。


2006年06月24日(土)
続・検証結果

6/8・9の日記をご覧になった方へ追伸。

どうやら、ぎりぎり届くのではないかという結論になりました。
持つべきものは長身の知人。



2006年06月22日(木)
何を突然

私「敬意の伴っていない(ただし愛は見え隠れする)敬語を使用する目下の人物」って大好きなのですよ。
やる気のない部下とか。協調性のない後輩とか。
「〜〜っすよね」とかいう、形骸化と称するもおこがましいくらい崩れつつも辛うじて「ですます」の名残を残した、敬語ともつかない丁寧語に萌えます。逆に言葉遣いだけは完璧な敬語を駆使しつつその実ちっとも敬っちゃいないというような無礼者にも惹かれます。

それだけ。



2006年06月16日(金)
いい気分

とあるサイトで「近所のデニーズが24時間になりますように」という一行日記を見ました。…そうか、全国のデニーズが漏れなく深夜営業している訳ではないんだよね。

セブンイレブンは当初の営業時間からその名が付いているというのは有名な話でありつつ若い知人に通用しなかったネタですが、たまに寂れた地域でそれよりも短い営業時間のコンビニを見掛けると切ない。



2006年06月15日(木)
突然オリジナル劇場?

「なあ」
「はい?」
「今日は木曜日だよな?」
「木曜日ですねえ」
「そうだよな、オレ間違えてないよな?」
「はい、我が部の活動日ですね」
「…なんで誰も来ない?」
「俺がいますけど」
「だから、なんでオレとお前しかいない?」
「いつもの事でしょ」
「お前なあ、どうせ来るなら他の奴ら引っ張って来るぐらい…」
「部長こそ、副部長同じクラスでしょ。なんで連れて来ないんですか」
「いや、その、あいつは元々…」
「そんなだから部員も揃わないんですよ。大体うちの部員ってほとんど強引に籍だけ置かせたような奴らばっかりだし」
「うるさいな!」
「そんなんじゃまた生徒会から文句言われるでしょ。いい加減諦めたらどうですか」
「お前に言われる筋合いはない!」
「ったく、仕方のない人だな」
「…お前な。先輩にどういう口利いてんだ」
「…えーと……『仕方のないお方ですな』?」
「そういう事言ってんじゃねえ!」
「ああほら、そこどいて下さい部長。邪魔」
「だからお前は先輩を何だと……何やってんの、お前?」
「何って準備ですよ」
「へ?…やんの?」
「当たり前でしょう。今日木曜日ですよ」
「いやでも、二人しかいないし」
「二人で部活やっちゃいけないって決まりあるんですか」
「いやないけど」
「じゃあ」
「……」
「やらないんですか?」
「……」
「……」
「…やるか」
「やりますか」
「よし、やろう」
「やっちゃいましょう」
「よっしゃ来い!」
「……。ったく、世話の焼ける…」
「あー? 何か言ったかー?」
「いえ、何でもー。部長、今日は他所から苦情来ないようにして下さいよー」
「うるっさいな!」



…何となく思い付いて書いてみた。
何だこれ。



2006年06月14日(水)
君に捧げるラブソング

常にその人の事を考えているとか、ずっと一緒にいたいとか思う訳ではなく。
むしろずっと一緒にいる事を考えたら勘弁して下さいと頭を下げたくなったり。
けれどふとした瞬間に、「ああもう私は本当にこの人が好きだ〜!!」と強烈に思い知ったり。
そんな人が浮気相手には最適なんじゃないかと思ったりする。

そんな訳で。
私が勝手に浮気相手と呼んでいて、リアル恋愛よりも私に「切なさ」を提供してくれる、勿論実際には至ってクリーンな(しかし見方によってはダークな)関係のあなたへ。



2006年06月13日(火)
考察

うっかり、プレイした事もないゲームの二次創作サイト(男女カップリングもの)にハマってしまい、先週から寝不足です。
大概器用だなお前も。

ところで思ったのですが。
それら恋愛ものの小説を読み進む際、女の嫉妬を「可愛い」と思い男の嫉妬を「切ない」と思う自分がいる。
どうにもこうにも、私は男の方に感情移入して読んでいるらしいです。
というか、男が女に対して「他の誰にも渡したくない」等と独占欲をぐるぐるどろどろ身の内に抱えている時の私の胸の痛みっぷりといったらどうだ。胸が痛くて眠れないなどという体験を自分のリアル恋愛で一度でもした事があるか、いやない(反語)。多分ない。男の視点で女を「可愛い」と描く文章には激しく共感出来るのに、女の視点で男を描く描写にいまいち身が入らないのは何故だ。いや、多分、男の方だって相当私好みのキャラに描かれているはずなんですが。

どの程度好みかというと自分で書いたフィンアイ小説のフィンくらい。
更に言えば「私の理想の浮気相手」ぐらいです(わかりづらい)。



2006年06月10日(土)
久し振りに文章を書きました

ルビを付けられない前提で
「抱く」と書いて「いだく」と読ませたかったり
「解く」と書いて「ほどく」と読ませたかったり
「誘う」と書いて「いざなう」と読ませたかったり
「埋める」と書いて「うずめる」と読ませたかったり
…する場合にはどうすればいいのかと考えていました。
開き直って平仮名で書いてしまうか、意図する通りに読んでもらえないのは覚悟の上でそのまま流してしまうか。

ちなみに、
「瞬間」と書いて「とき」と読ませたかったり
「人間」と書いて「ひと」と読ませたかったり
「希望」と書いて「のぞみ」と読ませたかったり
「運命」と書いて「さだめ」と読ませたかったり
…する場合には諦めて、平仮名で書くか他の言い回しを当たるか素直にそうと読める漢字を当てるかしています。
まあコレ、エスカレートすると暴走族のスプレーペイントとか昨今の子供達の名前みたいになったりするから(笑)。

……あんまりルビがなければ読めないような当て方はしたくないんだけどなあ。



2006年06月09日(金)
検証結果

昨日のスカユリ小説を読んでしまった方へ伝言。

……すみません、あの、届かないと思います。



2006年06月08日(木)
突然スカユリ劇場(ゲロ甘)

 幼い頃は指折り数えて待ち侘びた日。
 大人になれば自分でも忘れる程度のものになっても、忘れられるのはまた別の話で。
「スカサハ!」
 そんな事を考えるともなしに考えていると、澄んだ声が自分の名を呼んだ。
 走って追って来る息遣いに足を止め、スカサハはゆっくりとその声の主を振り返る。
「…ユリア。そんなに急がなくても大丈夫だよ」
「…だって…。スカサハは足が速いんだもの」
「ごめん。…平気?」
 小さく肩を上下させるユリアを気遣って覗き込むと、にっこりと笑って「ええ」と答えた。
 可愛いな、と思う。ユリアはその目鼻立ちからして人の目を引くだけのものはあるのだが、こうして見せる笑顔は更に輝きを放たんばかりに愛らしい。
 けれどそれがスカサハの前以外ではほとんど晒される事のない表情であるのも知っている。他の兵士達による彼女の凡その印象は、「いつもどこか寂しげで、滅多に感情を表に出す事のない少女」というものだ。
 スカサハがユリアを思い描く時には、その像は間違いなく無防備に向けられた笑顔になる。
「…ねえ、スカサハ」
 そう、甘えるように見上げるこの顔に。
 …好かれて、いるのだろう。慣れない生活のためか不安そうにしていたユリアにとって、恐らく自分は「最初に気遣う声をかけてくれた相手」だったのだ。
 雛鳥が初めて見たものに付いて歩くようなものだ。そういえば氷に閉ざされたかのような表情が溶け始めたのは、何かの菓子を持って行った時だった気がする。
(…餌付けか)
 とにかく、少しずつ少しずつ、ユリアは素直な感情を解いて行ったのだ。
 まさかそれが自分に対してだけだとは気付かなかったが。
「スカサハ、見て」
 その事実に放置出来ない責任感を感じながらも、スカサハは今の幸福を手放せないでいる。
 静かな湖面のような薄紫の瞳が、自分の前でだけ優しく、輝く。
「あのね、これ、パティにもらったのよ」
 自分の髪に触りながら、ユリアは少しはにかんで上目遣いになった。
 ユリアの頭にはいつもは見ない紅いリボンが飾られている。戦場でこんな目立つ装飾は格好の的となるが、城の中でなら構わないだろう。
 艶やかな銀の髪に深紅の布地が映える。ユリアの話す「拾い物だって言ってたけど」という言葉はあの盗賊娘の言語変換で表すところの盗品ではないかと想像はつくが、それをユリアに言っても仕方がないしその証拠もない。
 盗み自体は咎められる行為だとしても本人は至って明るく憎めない少女で、誰にでも屈託なく話しかけられる性格はユリアに働く影響として有難い存在でもある。
「…可愛いよ」
 明らかに感想を待つ顔をされたので、スカサハはそう言ってユリアの頭を撫でてやった。
 さらさらの髪が揺れる下で、ユリアが嬉しそうに指先を動かす。
「本当? よかった」
「…これをオレに見せに来てくれたの?」
「ええ。あのね、それでね」
 ふい、と顔が上げられた。
 …少し、笑顔が曇った気がする。
「あのね、…ごめんなさい、私、知らなかったの。今日がスカサハの誕生日だなんて」
「え?…ああ、そんな事、誰から?」
「シャナン様から伺ったわ、ラクチェの誕生日だからって……じゃあ、スカサハもでしょう?」
 もちろん、余程特殊な状況でもない限り双子の生誕の日付は重なるはずだ。
 もっとも、そんな事も簡単に失念出来る人間はいくらでもいるらしいが。
「ああ、まあそうなんだけど……どうせシャナン様はいつもラクチェの事しか覚えてないよ、そういう人だよ、と言うよりあれは意識的に忘れてるよ」
「そんな、だって…。一緒にお祝いすればいいじゃない?」
「いや、割とセリス様達もそんな感じだったよ。なんで片方だけ忘れる事が出来るのか不思議だけどね」
 毎年きちんと覚えていてくれているのはエーディンぐらいだったか。シャナンやセリスが忘れてくれるのは半ば意図的なものを感じたが、さすがに無邪気なラナにまで「そうか、スカサハもだったわよね、ごめん!」と言われた時には脱力した。
 何も祝って欲しい訳ではないのだが。
「だめよ、ちゃんとお祝いしなくちゃ」
 真面目に言い募るユリアに、スカサハは笑った。
「…うん、でも今年はユリアに覚えてもらったから、十分だよ」
「十分じゃないわ。…私ったら今日まで知らなかったから、何も用意出来てなくて…」
「おめでとうって言ってくれればいいよ」
「違うの、ちゃんとプレゼントをあげたいの。でも私、あげられるものがなくて…」
 そう言って俯く。確かに従軍する兵士達の中で、そんな余計な荷物を持って動いているものはいないだろう。
 本当に、その気持ちだけで十分なのだが。
「…だからね、パティがこれをくれたのよ」
 もう一度、顔を上げた。
 一瞬唇を結んで、髪のリボンに手を当てる。
 いや、待て…と口の中で呟き、スカサハは『だから』の言葉の続く方向を考えた。
「私がスカサハにプレゼントするものがないって言ったら、相談に乗ってくれて」
 あの盗賊娘の事だ。良くも悪くも、言動に一貫して突飛さが付き纏うのは折り紙付きで。
 ユリアが説明するパティの台詞は、悲しいかな鮮明に本人の声と口調で想像する事が出来た。
『そぉんなの簡単、簡単! 元手もかからずにすぐ用意出来て、しかもスカサハ大喜び間違いなし!ってプレゼントがあるわよぉ』
「…あのね、だからね」
「……ユリア。わかった、ちょっとストップ」
 片方の手を頭にやり、スカサハは待ったをかける。
 けれどユリアはすんなりと、続きの言葉を口にした。
「だから、『私がプレゼント』なの」
「……。やっぱり…」
 痛いと思うと本当に頭痛がある気がする。
 パティの言いそうな事だ。女の子同士のお喋りのトーンが上がって、「女の武器」だの「身体が財産」だのと穏便でない台詞を聞かされてしまった事がある。
 もちろんパティのそんな話も口だけなのはとうに知っているが、真に受ける人間もいるのはそれこそ彼女もわかっているだろうに。
 何でも鵜呑みにしてしまうような世間知らずの少女にあれこれと吹き込むのがそんなに楽しいのか。
(……)
 …楽しいのだろうな、と思う。
 人の言葉を疑う事を知らず、何を言われても「そうなの?」と大きな目を瞬かせるユリアをからかうのは、正直を言えば自分も、…楽しい。
 だがしかし。
「…いや、あのさ、ユリア。パティの言う事は話半分で聞いておいた方が」
「え? だめ? だめだった?」
「…あの、うん……まあ、意味はわかってないんだろうけど」
「?」
 きょとんと見上げる瞳。
 …理解しているはずがない。
 記憶を失っているせいか、その後のシレジアでの暮らし方のせいなのか、ユリアは本当に世間の色々な事に疎い。それは本人も自覚するところで、人から指摘されてはしょんぼりと沈んでしまう事も多いのだけれど。
 現に今、薄紫の湖は輝きも仕舞い込んだまま、微かな風にも負けてしまいそうに、揺れて。
「…やっぱり、嬉しくない…?」
 そんな風に呟くものだから、スカサハは慌てて激しい勢いで手を横に振った。
「いや、あの、もちろん、その気持ちはすごく嬉しいよ?」
「…いらない?」
「いや、要るとか要らないじゃなくて…ええと」
「……」
 頼むからそんな顔で見詰めないで欲しい。
 どうしてくれる、とお節介な盗賊の顔が頭を掠める。それはもしかしたら彼女なりの、非常に行き過ぎた親切心であったのかも知れないのだが。
 …確実に行き過ぎている、としか言いようがない。
「ユリア、あの……とりあえず」
 咳払い一つ。
 スカサハはユリアの肩に手を置き、そこにかかる銀の髪に触れた。
「一つだけ約束して欲しいんだけど」
「? なあに?」
「この『プレゼント』、他の人の時にはやっちゃ駄目だよ。…特に男相手には」
「どうして?」
 零れそうに丸く見開かれた瞳に溜息も一つ。
 …その程度の認識だ、そんな事はわかっている。
 そうスカサハは心中呟いたのだが、ユリアの返答はその思いを斜めに横断した。
「だって私は一人しかいないもの。スカサハにあげちゃったらもうないから、他の人にはあげられないわ」
「……」
 何と返せば良かったというのか。
 スカサハは頭で立てた次の台詞を一度見失い、開きかけた口を閉じた。その顔に心配そうに眉を寄せ、ユリアは恐る恐る尋ねる。
「…ねえ、だめ? 『プレゼント』、いらない?」
「いや、……あの」
「だって私、他に何もないんだもの…」
「――…」
 泣き出しそうな声。
 勘弁して欲しい。
「……だめ?」
「――ごめん、わかった、嬉しいよ」
 降参。
 心の中で白旗を上げて、とうとうスカサハはそう言った。
 畳み掛けるような台詞に一瞬びくりとしたユリアは、けれどすぐに瞳を輝かせる。
「…本当?」
「はい、有難く『プレゼント』、戴きます」
「…よかった!」
「うん…ありがとう、ユリア」
 複雑ではあるけれど。
(…まあ)
 それでユリアが満足するのなら。
 笑っていてくれるのであれば、それでいい。
 多分。
「…じゃあ、一つ、お願いしてもいいかな」
「え? なあに?」
 さらさらと指の間から零れる銀色の髪。
 それを軽く遊びながら、スカサハは覗き込んだ。
「おめでとうって、言ってくれる?」
 恐らく今日、他の人間から聞かせてもらえる可能性は低いからと添えて。
「ええ」
 ユリアはにっこりと微笑んだ。
 長い睫毛、透き通るような白い肌。ユリアはそうして笑っていると、天使のようだと本気で思う。
 笑顔でいて欲しい。
 出来れば、これからもずっと。
「…あ。じゃあね、スカサハ」
 ふと、思い付いたようにユリアが言った。
 手をかざして、スカサハの目を覆う仕草をする。
「ねえ、目を閉じて」
「? ついでにお祈りしてくれる?」
「お祈りじゃなくて、…おまじない」
「?」
 言われるがままに、スカサハは瞼を下ろした。
 確認するようにその上をユリアの指が撫でる。細い指先は何度か往復して、そのまま頬から首の方へと伝った。
 ユリアの囁くような言葉が、耳に滑り込んで来る。
「スカサハ。お誕生日、おめでとう」
 ユリアの声は硝子の鳴るようだといつも思う。
 澄んで、風に溶けそうに透明な声。
 優しい響き。
「…大好きよ、スカサハ」
(…え?)
 続く言葉が「おめでとう」よりも近い位置から聞こえたので、危うくスカサハは指示に反して目を開けるところだった。
 スカサハの胸の辺りに触れたユリアの手が、少しだけ体重をかけて離れる。
 …小柄なユリアでは、そうして背伸びをしなければ『その位置』まで届かないはずだ。
「はい。おまじない、終わり」
 その声に視界を開放すると、ユリアは一層輝きを増した笑みを見せた。
 柔らかな感触。
「…あの、ユリア……今」
 何をした?
 そう聞く台詞が、紫鏡の湖に奪われる。
 微かに甘い香り。
「あの、おまじないって…何?」
「内緒なの。内緒にしないと効かないの」
「……はあ」
 嬉しそうに答えるユリアの薄桃色の唇。
 恐らくはそれもパティからの入れ知恵であろうか。女の子達はどうにも、占いやらおまじないやらの類が好きだ。
 …後で問い詰めてみれば、わかるのだろうが。
「あ…の」
「あっ、私、ラクチェにもおめでとうって言わなくちゃ! 行って来る!」
 けれどユリアはすっかり満足した様子の後、我に還ったようにそう言って身を翻した。
 銀髪が踊る。
「ユリア…」
「…え?」
 思わず呼んだ名に、律儀に振り返った。
 真っ白な天使。
「なあに、スカサハ?」
「…あ、いや……ありがとう」
 間の抜けたタイミングだとは思ったが。
 その声にまた嬉しそうに笑い、ユリアは駆けて行った。小走り程度とは言え、そういえばユリアが走るところを見せるなど稀な事だ。
 軽い足音が遠ざかる。
(…おまじない?)
 仄かな熱を点した口元で呟いてみる。
 それが効を成せば、ユリアはもっと喜んでくれるのかという思いも過ぎりながら。



…何となく、そのうち「突然○○劇場」シリーズはまとめてサイトのどこかに残そうかなーと思っております。
発掘作業が難航しそうだが(いつ何を書いたかなんてもちろんちっとも覚えちゃいない)。



2006年06月07日(水)
その筋の方よろしく

ところで「眼鏡をかけていればめがねっ娘という訳ではない」と思っているのは私だけですか。

いや、じゃあめがねっ娘とはどういうものか定義しろと言われても困るけど(私にも食指というものがありさすがに思い入れの浅いジャンルまで語れるほど熱くない)なんかね、そう、「いやそれはめがねっ娘じゃなく単に眼鏡をかけている娘だ」と思う瞬間があるのですよ。きっと私の中に何か厳然たる掟があるに違いない。
しかしネットで検索するにとにかく眼鏡をかけてさえいればめがねっ娘(最悪娘である必要すらないらしい)という向きも多かったです。うーむ。恐らく深い世界なのだろうが今そこまで深みにハマる気もないしなあ。

というか一般的にめがねの部分が平仮名なのか片仮名なのか漢字なのかもわからなかったです。どれが正しいのだ(いや別にどれが正しい訳ではないのだよ)。



2006年06月06日(火)
半パラ

小学生と触れ合いたければ運動会を見に行くが良し、との某所からの弁。
ここで二つ私が語らねばならない事実は、学生時代からずっと「世間様の休日には働いている」という生活をしていたため(たまに取れる土日休みはもちろんオタクなイベントに費やされていた)当然のごとく休日に当てて開催されるそれらの催事には出掛けようもなかったという事と、しかし次に予定している新しい仕事は世間様の休日にきっちり休ませてくれるという事だ。
ちなみに仕事始めは来週月曜まで延びました。

ところで私が同人畑にどっぷりだった頃ひょんな事から出会った「本物のショタコン男性が企画運営する投稿・依頼原稿制同人誌」は割と笑えないネタも満載の素敵誌でしたが、その中で見た「本業:塾講師の筆者が夏休みに生徒達をプールに連れて行ってやるという保護者的名目で実は更衣室でふざけて海パンのずり下ろしっこをしている彼らに内心ウハウハで興奮している様をレポートしたエッセイ」は当時の私には嫌な衝撃でした。最近の、警察官の犯罪とか友達のお母さんによる幼児殺害とかの事件を見るにつけ皆さんが感じているであろう「もう一体誰を信じていいのかわからないね…」という脱力感にも似た思いを、私はかれこれ10年近くも前に体験していた訳です。別に体験したくもなかったが。
いえ、運動会に行け云々の発言者である知人が現在塾の講師を生業としている男性である事とは全く無関係の話題ですとも(笑)。



2006年06月05日(月)
漫画日本昔話

声優二人でこなしていてその片方が市原悦子だと始めて知った時はそれなりに衝撃だった。

ところでエンディングの「にんげんっていいな」という歌の歌詞はどれだけメジャーなのでしょうか。
ちなみに抜粋すると、
いいないいな にんげんっていいな
おいしいごはんに ぽかぽかおふろ
あったかいふとんで ねむるんだろうな
てな感じなのですが、
「それって『ごはんにする? お風呂にする? それともあ・た・し?』って事?」
「いや違うと思う」
そんな夕食時の心温まる会話でした。

そしてその後ネットで調べたら私の記憶が間違っていた事が判明。
(正しくは一番が「おいしいおやつに ほかほかごはん こどものかえりを まってるだろな」二番が「みんなでなかよく ポチャポチャおふろ あったかいふとんで ねむるんだろな」でした)



2006年06月03日(土)
うらない

知人が帰りの電車賃がないと言うので1000円貸して帰ったら、新聞の星占いで「親しい仲でも金銭の貸し借りはタブー」の記述が。
…何かアンラッキーらしいので返して下さい(笑)。

世の女性には熱心な向きも多いようですが、私は「一応興味はあるが見てもすぐに内容を忘れる」派です。そもそも星座や血液型で位置付けされる性格判断などが主観的にあまり当たっていると思えないのでいまいち信憑性がないのです。
占い系で言えば本人の確認する限りでは動物占いが一番当たっていると思います。
「物事を快か不快かで判断する」「楽しい事が大好き」「ぼーっとする時間がないと生きていけない」そんなコアラです。



2006年06月02日(金)
彼女いない歴「生まれてこの方」

何だかとあるメールによると私は163名の女性会員の条件に適っているらしいですが、これお返事したらその方達を紹介して頂けたりするのでしょうか。
その中に「目が大きくて色白で黒髪ストレートの可愛い系お嬢様(身長低め希望)」はいるのでしょうか。
そういう事言ってるからお前はいつまで経っても彼女募集中期間から抜けられないのだと突っ込まれるでしょうか。
万が一今日始めてこのサイトを見に来たという方がいらした場合うっかり普通に「うわここの管理人は典型的なモテないオタク男性なのだな」とか思われてお帰ししてしまったりするのでしょうか。
あんまり外れていません(多分)。

某ブログで「彼女を作るためには食べ方が重要(大人の出会いの場所は食事のシーンが多いため第一印象を左右する要因であるというのが理屈らしい)」というネタを拾って来ました。
……美しい食べ方を身に付けたら私にも彼女が出来ますか(人それを理論の不可逆性と呼ぶ)。