| 2005年11月27日(日) |
恋愛遍歴(社会人編・3) |
11月16日『恋愛遍歴(高校時代編)』 11月17日『恋愛遍歴(大学時代編)』 11月21日『恋愛遍歴(社会人編)』 11月25日『恋愛遍歴(社会人編・2)』
の続きです。よろしければそちらからお先にどうぞ。
※文中の男性は仮名です。
結局2つめの職場も1年ほどで辞め、とりあえず繋ぎに・・・と友達の紹介でアルバイトをした。そのアルバイト先で、直行さんに出会った。
営業さんが持ってる顧客データをエクセルに入力するだけの、単純な作業だった。昼間は営業さんはほとんど出かけてるので、事務所内に私1人。たまに課長や部長クラスの人が残ってるぐらいで、そういう時には途中でジュースをおごってもらえたりした。前の職場での上司との衝突と、最終的にはクビにされたも同然の理不尽な出来事に疲れてた私にはちょうど良い気楽さだった。
ある日の朝、いつものように出勤して仕事に取り掛かった私の所に、1人の男性がやってきた。 「すいません、○○チームの本村と言いますけど」 その頃には、座席表などである程度社員さんの名前を把握してた私は、 「あ、はい、すみません。本村さんの分のデータはまだ取り掛かってないんですが」 と答えた。するとその人は 「あーいいんです。自分がそのお客さん達の所を廻りだすのはもうちょっと先なんで、月末までにやっておいてくれればいいですよ、って言いに来たんです」 と笑ってくれた。
それが、直行さんと交わした初めての会話だ。
それだけの会話の間に、私は彼の左手の薬指に指輪がはまっている事をチェックしていた。 (あ、なんだ既婚者かぁ・・・残念。ちょっと好みだったんだけどな) そんな事を思った数日後、思わぬ機会が訪れる。
夕方、いつもより少し早い時間に本村さんが帰ってきた。帰ってきた人皆にそうするように 「お疲れ様です」 と声をかけ、自分の仕事を続ける。しばらくして、休憩がてらコーヒーを飲もう・・・と部屋の隅にあるコーヒーポットの所へ行った。本村さんの席はすぐ近くだ。他には誰もいない。この状況で何も言わないのは逆に不自然な気がして 「本村さんもコーヒー飲まれますか?」 と聞いた。 「え?・・・・あ、うん。いただきます」
コーヒーを渡す時、机の上に置かれた1冊の本が目に止まった。ほとんど条件反射で 「それ、何の本ですか?」 と質問した。
それは、本村さんが今度受ける予定の昇格試験の課題本だった。それを読んで感想文を提出しなきゃいけないのだそうだ。そんな話を聞きながらぱらぱらと最初の数ページをめくり、 「あ、でもこれ結構おもしろそうですね。感想文書き終わったら貸してもらえませんか?」 「いいけど・・・それだったら、先に読んで内容教えてよ。それを元に感想文書くから(笑)」
どんな話の流れだったのだろう。そして、そこにお互いのどんな思惑が働いたのだろう。
その一瞬で私達の頭の中にはその後の流れが出来上がり、後はそれに沿って会話を続けただけ。つまり、私は本村さんの代わりにその本を読み、それを元に本村さんは感想文を書く。そして本村さんはそのお礼に私に夕飯をおごる。そんな筋書きが、実にスムーズに完成してしまった。
今思えば、お互いの中に『今の状況を今後に繋げたい』という想いがあったのだと思う。
そしてそれは実現し、私は本を読み終え、内容を簡単にまとめて説明して、本村さんは感想文を書き上げ、その翌日、食事に誘われた。
「いいんですか?家でご飯食べなくて」 「いいよ。元々あんまり家で食べないし。・・・好きじゃないんだ、家でメシ食うの。奥さんと仲悪いから」
本村さんはバスで通勤してたので私が車を出した。楽しく話しながら食事をし、少しドライブしようか、と車を走らせる。空港の裏手の、滑走路が見渡せる位置で車を停めた。一定の間隔を置いて車が数台停まっている、いわゆるデートスポットだ。
話をした。
助手席から、手を握られた。そのままにしてた。
「・・・・イヤじゃない?」 「・・・いいですよ」
「本当は、最初からかわいいなと思ってたんだ。・・・・また2人で会ってくれる?」 「・・・・・・・・・・今日はもう帰りましょうか」
その日はそれだけだった。さすがに迷った。確かに、本村さんは好みだ。話してて楽しかったし、心地良い。
でも、既婚者だ。
そして私はその時、村木さんとまだ続いていた。
二股の上に両方不倫かぁ・・・。
それはさすがに人としてどうなんだろうなぁ、と思った。でも、先の見えない、そして肝心な『彼の気持ち』すら確証のない村木さんとの付き合いに、疲れを感じ始めてもいた。
その迷いは、2度目に本村さんと会うまで続いた。
数日後また2人で会い、食事をした。店を出た所で、本村さんが 「運転代わるよ」 と言った。その日は本村さんは飲んでなかったので、私は素直に鍵を渡した。
前回とは別の、夜景の見える場所で車を停められた。たわいもない話の途中でさりげなく手を握られ、ふと話が途切れた時に言われた。 「・・・・今から俺がどこに行っても、黙ってついてきてくれる?」 私は無言でうなずき、走り出した車はそこから程近いラブホテルに入った。
キレイな部屋だった。その近辺のホテル街の中では値段もレベルも上ランクとされる所だった。
いいや。どうせこのバイトも期間限定なんだし、この人ともいつまで続くかわかんない。村木さんは連絡がない限り放っておこう。もう1ヶ月以上連絡も途絶えてるし、このまま自然消滅するならそれでもいい。大体村木さんには奥さんがいるのに、私は村木さん1人に操を立てる義理はない。気になってる人とSEXするチャンスがあるんだから、やっちゃえ。
投げやり・・・というのとも少し違う、でもどこにも真剣さはない。そんな気持ちで私は本村さんとの関係を始めた。2度目のホテルから、2人の時は直行さんと呼ぶようになった。
「好き、とか言っちゃいけないんだよ」 というのが、最初の頃の直行さんの口癖だった。 「言葉にしちゃうと気持ちが深まるから。深みにはまっちゃうと2人ともキツイから」 そうやって私が本気になるのを牽制してたのかもしれないし、自分がのめり込むのを止めようとしてたのかもしれない。いずれにせよ、私達はそれなりにいい関係を続けていた。
直行さんとの関係が始まってから1ヶ月ほど経った頃、久しぶりに村木さんからメールが来た。 「また会える?」 という内容だったので 「ごめん、彼氏ができちゃったから会えないよ」 と返事をした。 「そっかー。良かったね。仲良くね」 というメールを最後に、村木さんとは完全に終わった。あの、桜の下を散歩した夜が最後になった。
直行さんと奥さんが仲が悪いと言うのは本当だったようだ。結婚した当時、実は直行さんには本命の彼女がいた。つまり今の奥さんは浮気相手だったのだ。彼女と結婚するつもりで親に会ったりもしてたのに、なんとそのタイミングで浮気相手が妊娠。仕方なく、責任を取るために結婚したのが今の奥さんであるらしい。
そんないきさつだったから、直行さんいわく 「昼メロみたいな泥沼ぶりだったよ」 だそうだ。本命の彼女が自殺未遂を図ったり、奥さんの父親には殴られ(その頃から考えても15年ほど前の事だ。今のように“出来ちゃった婚”なんて言葉もなく、それ自体が市民権を得てもいなかった頃だ)、散々揉めた挙句の結婚。奥さんは自分が『彼女』だと信じ込んでいたから一連の出来事に呆然とし、結婚後も折に触れては 「どうせ私とは本気で付き合ってなかったんでしょ?」 と嫌味を言うようになった。
正直、直行さんの家庭環境や夫婦関係に興味はなかった。だからって職場の若いバイトに手を出すのが許されるわけでもないし、私達のしてる事が『不倫』と呼ばれるものである事に変わりはない。
付き合いだして2ヵ月後には、例の昇格試験に合格した直行さんが2ヶ月の研修に行く事になった。他県の研修所に泊り込みだ。でも週末は休みだから、自宅に 「課題があるから週末も研修所にいるよ」 と連絡さえすれば直行さんは完全にフリーになる。私が研修所のある所まで行ったり、こっそり帰ってきた直行さんと待ち合わせたりして、週末はほとんど一緒に過ごした。適当なラブホテルに泊まり、いろいろな所に行った。
そう、私達は楽しく付き合っていた。改めて思うとあり得ないほどに、おおっぴらに出歩いていた。研修が終わって直行さんが隣の市の支店に転勤になってからも、普通に休日に会って映画を見に行ったり、平日も仕事の後に週に2回は会っていた。
私は、その頃には期間限定のそのバイトも終わり、家の近くのレンタルショップでバイトを始めていた。時には、私の平日の休みに合わせて直行さんが有給を取り、いつも通り出勤するフリをして家を出てきた直行さんを拾って1日デートしたりもした。
それだけおおっぴらにしてたら、当然知り合いに会った事もある。映画を見に行って大学の友達に会った時は、普通に 「彼氏なの」 と紹介した。自分のバイト先の人達にも、既婚者だという事だけを『バツイチだ』とウソをつき、普通に彼氏がいる事にして話していた。
ただ1人だけ、ファミレスで偶然会った友達にはばれた。たまたまその時、直行さんは仕事の関係でスーツを着てたのだ。(普段は仕事の後でもラフな格好をしている)若く見える人だったけど、スーツを着てるとやはりそれなりに年上に見える。もしかしたら、すれ違った一瞬で彼女は直行さんの左手の指輪を見たのかもしれない。後日改めてあって食事をした時に正直に打ち明けたら、 「ん〜・・・・賛成はしないけど、心のどこかで、咲良ちゃんならうまくやるだろうなって気もするんだよね。家庭を壊すほどのめり込んだりはしないって言うか、周りが見えなくなるほど本気になっちゃう事はないんだろうな、って。・・・・・・とりあえず、反対はしない。反対したからってすぐやめられるものなら最初から始めてないでしょ。ただ、いつまでも続けられるものじゃないって事と、最終的には咲良ちゃんは幸せにはなれないって事だけは忘れないで」 と真剣な目で言われた。うなずく事しか出来なかった。
おそろいの指輪を買ってもらった。一緒に電車に乗って浴衣で花火大会を見に行ったりもした。私がレンタルショップのバイトを辞め、ちゃんとした会社に就職したらさすがにそれまでのように頻繁には会えなくなったけど、それでも週に1回は会った。会えば必ず直行さんは私を抱きたがる。私が仕事の後に直行さんを迎えに行き、コンビニで夕飯を買ってホテルへ直行するようなデートも多かった。それでも楽しかった。
でも、いつからだろう。直行さんの言葉が少しずつ変わり始めたのは。
「好きだよ」 と頻繁に口にするようになった。 「家にいると時々思うんだ。なんで俺こんなとこにいるんだろう。なんで咲良と一緒にいないんだろうって」 と呟くこともあった。家族がいない時に私を家に呼ぼうとする事もあった。一度だけ 「・・・・子供が高校卒業するまで待ってくれって言ったら、待てる?」 と聞かれた事もある。明らかに、彼は自分で決めたルールを守れなくなってきていた。
そしてそれは、徐々に私にも伝染していた。時々想像する。直行さんが奥さんと別れて、子供は2人とも奥さんへ。私は直行さんの新たな妻として彼の実家に挨拶に行く。田舎で2人暮らしていると言う彼の両親は、私を認めてくれるだろうか。妊娠させて、責任を取ると結婚したはずの妻を捨て、若い女を選んだ息子を許すだろうか。妻を捨てさせた私を認めてくれるだろうか。別れても、子供の養育費は払わなければいけないだろう。いつまで?2人とも高校を卒業するまで?大学を卒業するまで?だったら子供が高校を出るまで離婚は待ったほうが良いか。でも私も働けばやっていけるんじゃないか。あぁそれ以前に、奥さんは彼と別れてくれるだろうか。
でも、と思う。私はそれを望んでるのか?
もともと結婚願望なんてなかった。今、私がそれを夢想するのは、単に直行さんを独占する手段としてそれしかないと思っているからだ。では、私は本当に直行さんを独占したいと思っているのか?
徐々に重くなるお互いの想いに疲れて、私は次第に気持ちが冷めていった。楽しいだけで良かったのに。奥さんがいても、気持ちの上で私が1番だと信じられればそれで良かったのに。
だって、私がもしあなたの“奥さん”になったら、その時は私が怯えなきゃいけなくなる。またいつかもっと若い子にこの人を奪われるのではないか。四六時中一緒にいるようになったら、この人にとっての私は今の奥さんと同じように価値をなくしてしまうのではないか。この人が浮気しないと、どうして言い切れる?だって私は身をもってそれを知っているのに。
少しずつ、2人の気持ちの重さが食い違っていく。私を独占したがり、同じように私だけのものになりたがる直行さん。結局は独占できないとわかってる男に独占される自分、それが次第に窮屈になってくる私。
それでも、表面上はそれまで通り仲良く続いていた。クリスマスにはデートをした。誕生日には財布を買ってもらった。バレンタインにはチョコをあげた。そしてホワイトデー。
その日、予想もしない形で、私の運命が大きく変わった。
| 2005年11月25日(金) |
恋愛遍歴(社会人編・2) |
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※文中の男性は仮名です。
最初の職場でいろいろあった結果、私は1年と経たずにそこを辞めて転職した。最初の職場よりも私の希望に近かったし、やたら院長の個人的な雑用を頼まれる事を除けばやり甲斐もあった。私はそれなりに楽しく働いていた。
村木さんと出合ったのは、そこに就職してそう経たない頃だったと思う。
きっかけは友人の一言だった。 「ねぇ咲良ちゃん、コンパしない?」 相手はその友人がその時通っていた病院の職員だった。ちょっと前に車で衝突事故を起こし、むち打ちのリハビリのために通院してた病院で、リハビリ室の職員と仲良くなったのだと言う。メンバーはリハビリ室の先生、いわゆる理学療法士の人と、その助手、そしてその助手さんの友達だという出入りしてる製薬会社の営業マン。
しかしよく聞いてみると、その理学療法士の先生は既婚で、独身なのは後の2人だけ。 「ん〜だからまぁコンパって言うよりおごってもらって楽しく飲もう、みたいな感じなんだけど」 と笑う友人。日頃からそのリハビリ室での楽しかった話などを聞いてた私は、特に出会いに期待するわけではなくただ楽しそうだから、と参加を承諾。もう1人友人を誘って、3対3での飲み会が実現した。その『理学療法士の先生』が村木さんだった。
初めて行った居酒屋だった。村木さんのお気に入りだというこじんまりした店。料理もおいしくて話も楽しくて、本当に楽しい飲み会だった。
その帰り。
車で来てた私は、友人2人を送って帰る予定だった。すると最初に話を持ちかけた友人が言った。 「村木先生も近所だよね?」 聞けば、友人2人の家も近いのだけど、村木さんの家も2人のすぐ近所なのだそうだ。当然、 「じゃぁ一緒に送りましょうか?」 という話になった。おごってもらったし、そのお礼に・・・という軽い感じ。
まず友人を1人おろす。次にもう1人。最後に村木さんが残り、 「じゃぁ俺ナビするから」 と助手席に移動してきた。言われるままに車を走らせる事5分、突然村木さんが言った。 「そのちょっと行った先に道の脇に駐車スペースあるから、そこで1回停まって」 ・・・・なんで?と思いながらも車を停める。 「ちょっと休憩させて・・・久々に飲みすぎちゃった。この状態で帰るのはキツイわ」 と言ってシートを倒す村木さん。確かに相当飲んでる感じだったから 「そのまま帰ったら奥さんに怒られますね」 なんて笑って、そのまま10分ほどたわいない話をしながら時間をつぶした。
「咲良ちゃん・・・」 「はい?」 顔を覗き込んだ。
ひょいっと抱き寄せられ、キスをされた。
そのまま助手席に引き寄せるように抱きしめられ 「今日は咲良ちゃんに会えたから行って良かった」 と言われた。
もちろん、本気になんかしなかった。酔っ払いはすぐ調子のいい事を言うから、と苦笑するような気持ちで 「はいはい」 と言って抱きしめてあげた。
家まで送った。別れ際に 「今度連絡していい?」 と言われた。どうせ覚えちゃいないだろうと思い 「いいですよ」 と答えた。
本当に連絡が来たのは翌日だった。
電話が来れば話す。1週間ほどそんなやり取りが続いただろうか。ある日の夜、電話がかかってきた。 「今日、仕事関係で飲み会なんだ。終わってから会わない?」 「それ、迎えに来てって事ですか?」 と笑う。 「そう、迎えに来て欲しいの(笑)・・・・ついでにデートしようよ」
既婚者だ、という事はもちろん判っていた。でも、好奇心が勝った。
本当は、最初の飲み会で会った時から好みだと思っていたから。
もちろん、自分から誘うつもりはなかった。でも向こうから誘ってきたんだし・・・と考える。1回ぐらい、そういう事があったっていいんじゃない?
出たとこ勝負だ、みたいな気持ちで指定された場所に行く。村木さんの言うままに車を走らせると、やがて住宅街にある小さなホテルに着いた。初めて行く場所だった。 「こんな所にホテルがあったんだ・・・誰と来たの?(笑)」 「専門学校時代にここの前通って通学してたんだよ。まぁ昔の彼女とも来た事あるけど(笑)」
罪悪感、とか後ろめたい、という気持ちは不思議とまったくなかった。そして、そんな自分に少し驚いていた。
部屋もこじんまりしたホテルだった。ゆっくりくつろぐというよりはまさに隠れ家。特におしゃれでもないし、豪華でもない。いつも村木さんがお金を払っていたので、部屋代がいくらぐらいなのかは全然判らなかったが、そう高くはなかっただろう。
初めて関係を持ってしまった翌日、電話をくれた。いつものようにたわいもない話をして、切る時に 「また会える?」 と聞かれた。それが始まりだった。
何度か思った。1回だけで終わってたら、あれは『浮気』と呼ばれるものだったんだろう。でも何度も続いてしまったら・・・・今自分がしてる事は『不倫』なんだ。それでも、不思議と罪悪感はなかった。私、貞操観念がおかしいのかもしれないなぁ、と思った。
会うのはせいぜい月に1回程度だった。多くても2回。ほとんどの場合、村木さんが何かしらの飲み会の帰りに電話をしてきて、迎えに行ってそのままホテルへ行く。テレビを見たりちょっと眠ったりしながら2回SEXをして、村木さんを職場の駐車場まで送る。
なんかていのいい足代わり+SEXのオマケ付き、って感じだなぁと思いつつ、でも村木さんは嫌いじゃなかった。村木さんは、私を抱く時いつも丁寧だった。避妊もキチンとしてくれたし、前戯も手を抜かない。無茶な要求もしないし、たまに眠り込んでしまう時も肩を抱く手が離れることはなく、絶対に背中を向けなかった。
回を重ねれば情も沸く。いつしか私は村木さんからの電話を心待ちにするようになった。でも私から電話をする事は滅多になかった。『それはしちゃいけない』という自分なりのルールのつもり。奪いたいとか独占したいとかそういう気持ちはない。もし奥さんにばれるような事があったら、即土下座して関係は終わりにする。そんな覚悟はしていた。
「咲良ちゃんの誕生日にはどこかでご飯食べようか」 と言われた。嬉しかった。2人で食事なんてできないと思ってたから。
でも、それは結局実現はしなかった。約束なんてなかったかのように、誕生日は通り過ぎて行った。
きっかけを作った友人にも話してなかった。だから彼女は無邪気にリハビリ室での村木さんの様子を話す。自分が持ってた缶コーヒーを取られた事。助手さんと2人して『早く彼氏作れ』といじめられる事。こないだどこかで講演したんだって、という事。
そんな何気ない会話の中で聞いた。
村木さんが家を建てた、と。
「すごいよね、31歳で一戸建てって割りと早いよね?PT(理学療法士の略称)って給料いいもんね〜。子供もついこないだ1歳になったばっかりって言ってたし、奥さん幸せいっぱいだろうね」
産まれたばかりの子供がいることはちゃんと知っていた。でも、改めて聞いたらなんかショックだった。なんで私はショックを受けてるんだろう?と思った。私は、自分で思ってる以上に村木さんにのめりこんでいたみたいだ。
私は、2つ目の職場も1年ぐらいで辞めた。事務長と徹底的にそりが合わず、私を疎ましく思った事務長が院長や専務(院長婦人)にある事ない事吹き込んだせいで居辛くなったのだ。話もまともに聞いてはもらえず、最後には 「解雇扱いにしますから。それなら失業保険がすぐ出るからいいでしょう」 と切り捨てるように宣告された。
仕事を辞めた後、友達の紹介で2ヶ月だけの短期のバイトをした。村木さんとは続いていた。そして春先、どんな流れだったのかは覚えてないが、村木さんと助手さんと助手さんの彼女さんと4人で、助手さんカップルが同棲してる部屋で一緒にご飯を食べる事になった。
彼女さんのおいしい手作り料理をご馳走になり、村木さんと2人でマンションを出た。帰る途中で、川沿いの桜がキレイな場所を通った。 「ちょっと花見していこうか」 と言われ車を停め、公園になってる川原の桜の下を散歩した。ベンチに並んで座り、ぼーっと桜を見上げて 「キレイだねぇ」 と話した。
なんとなく別れがたくてそのままホテルへ行った。
そして、それが最後になった。
| 2005年11月21日(月) |
恋愛遍歴(社会人編) |
『恋愛遍歴』(高校時代編) 『恋愛遍歴』(大学時代編) の続きです。よろしければそちらからどうぞ。
※文中の男性はすべて仮名です。
結局、就職が決まらないまま卒業した私はいわゆるプータローになった。決まりさえすればすぐにでも就職したいという気持ちがあったのであえて長期のバイトは探さず、短期や単発のバイトをいくつもやった。
私が就きたかった仕事は若干特殊で採用枠が狭い上に、その仕事する上で持っていた方が良いとされる資格を私は持っていなかった。どうすればいいのかわからないままとりあえず目先のお金を稼ぐために行っていたバイト先で、谷中さんに出会った。
友達の親戚がやっている食料品店。週に1回土曜日だけの出勤で1日1万円。朝は早かったし仕事も立ちっぱなしできつかったけど『自分の生活費で親に迷惑はかけない』という条件で就職浪人を親に認めてもらっていた私には、その金額は魅力だったのだ。
谷中さんはその店には珍しく20代だった。見た目もどちらかというと小柄で華奢な感じで、食料品店のおじさんと言うよりは飲食店のウェイターなんかが似合いそうなタイプ。最初からなんとなく気になってはいたがバイト中にプライベートな会話をするような余裕はなく、谷中さんが勤め始めてから1ヶ月近く、挨拶程度にしか言葉を交わした事はなかった。
仕入先から店に向かう車の中で初めてまともにしゃべった。仕事きついよね〜なんて話しから、極めて自然に 「彼氏いるの?」 なんて聞かれる。いませんよ、谷中さんは?と聞いたら 「一応いるけど・・・・なんかもう自然消滅っぽい状態」 そこからどんな流れで話しが進んだのかは覚えていない。いつのまにか“コンパしようよ”という事になり、そこで携帯の番号を交換した。
その日の夜だっただろうか。それとも次の週末の夜だっただろうか。土曜日の夜だった。たまたま私はその時街にいた。友達と遊んでたのか何かの飲み会だったのか覚えていない。谷中さんから電話がかかってきた。 「街にいるんだけど、ヒマだったら出てこない?」 「え、私も街にいるよ。じゃぁ今から行くよ。どこ?」 場所を聞いて、馴染みの店だというスナックで合流した。常連仲間だというカップル1組が一緒だった。お店のママさんの 「谷中君がここに女の子呼んだの初めてねぇ」 という言葉にちょっと嬉しくなった。
しばらくそこで飲んで、じゃぁ帰ろうか・・・と歩き出した。話しが楽しくて、もうちょっとしゃべろうよ、とちょっと裏道に入った小さな公園の中に座った。肩が触れるほど近くに座って、小さな声でおしゃべりをする。しばらく話しが途切れた時に、さらりとキスされた。
ビックリした。
でも拒まなかった。
もう1度キスをした。
「・・・・・付き合おうか」 「・・・・・でも彼女いるんでしょ?」 「もう何ヶ月もちゃんと会ってないよ。っていうか俺の中ではもう終わってるし」 「・・・・・本当?」 「うん」 「・・・・・・・・・・じゃぁいいよ」
その日はそれだけだった。私が自転車を置いてた所まで送ってくれて、別れ際に私が 「ねぇ、でもやっぱり気になるから、ちゃんと彼女と別れて?付き合うならそれからにしたい」 と言ったら 「本当に俺はもう終わってるつもりなんだけどな」 と苦笑しながらも 「わかったよ。次会うまでにはちゃんとしとく」 と言ってくれた。4月の下旬だった。
最初の内は楽しかった。大学の仲間で飲み会をした後に迎えに来てくれたりする『彼氏』は今までで初めてだったから。でも、思えば付き合い始めてすぐのGWが始まる頃にはもうおかしいなと思う点が出てきていたのだ。
「連休中は会えるかわかんないんだ」 と言われた。初めてホテルに行った帰りの別れ際だった。連休になったら一緒にドライブに行きたい、お泊まりデートもできるかな?なんて1人で思い描いていた私は 「なんで?」 と聞いた。 「今の店、辞めようかと思ってて。正直あの仕事を毎日はきついし、同じ仕事でももっと楽な条件の店はあると思うんだ。次の店のアタリをつけてから社長には言いたいから、連休中は就職先探しに使いたいから」 店がキツイのはよくわかる。私は週1だからいいけど、確かにあの勤務条件で毎日はキツイだろう。でもだからって連休全部つぶれるわけじゃないんだったら、1日ぐらい私と会うために空けてくれたっていいんじゃない?・・・・と思いながらも、でも社会人なんだからそんなもんなのかもしれない、と自分に言い聞かせながら 「わかった。じゃぁ時間が取れそうだったら電話して?」 と言うのが精一杯だった。
でも結局、GW中は一度も会えなかった。電話もなかった。『電話して』と言った手前、私からはかけられないと意地になってる間に連休は終わってしまった。
連休が終わって数日後、友達と福岡にコンサートに行った。福岡にいる友達とライブの後食事の約束をしてたのだけどそれが急にダメになり、私達は予定外に早いJRで熊本に帰る事になった。その帰り道、谷中さんから電話がきた。 「急にヒマが出来たから・・・会うかなと思って」 電話がきた事に安心して泣きそうになった。
付き合い出して10日と経たないうちに寝てしまった事が、実は私の中でひっかかっていたのだ。谷中さんは、私にとって健太郎君以外で初めて寝た男の人だった。付き合ってすぐに体を許してしまった事で軽いと思われたのかもしれない、それとも1回やれたらもう飽きられたのかもしれない・・・なんて1人でぐるぐる考え込んでいた。そんな時にふいにかかってきた電話。私は今福岡にいること、でも今からJRで帰るから1時間半もあれば熊本に着く事、それからでいいなら会いたいと伝え、JRが着く時間に駅まで迎えに来てくれる事になった。
一緒にいた友達も、駅まで彼氏が迎えに来ていた。私も知ってる彼氏だった。 「咲良に彼氏って久々じゃない!?今度ゆっくり紹介してよ」 とニヤリと笑う彼女に笑顔で手を振り、1週間ぶりの谷中さんの車に乗った。
すでにそれなりに遅い時間だった。 「泊まりでいい?」 と聞かれ、ちょっと戸惑った。泊まるのは構わない。福岡の友達と食事してくる事は親にも伝えてあったから、話が弾んで遅くなったから泊めてもらったと言えばいいやと、言い訳はもう考えてあった。ただ・・・・・ 「大丈夫だけど・・・・・・・・」 「ん?」 「えーとね・・・・・・・生理なの・・・」 なんてタイミングが悪いんだろう。1週間ぶりに電話をくれたのに。もしこれで 「じゃぁいいや。帰ろう」 なんて言われたら立ち直れない。バカバカしいまでの決死の覚悟で打ち明けた私に、谷中さんはアッサリと 「ん〜・・・俺は気にしないけど?」 と言った。
・・・・え?生理でも平気って事?それともHナシで泊まるのでもいいよって事?どっちなのかはわからないけど、機嫌を損ねたわけではないらしい。 「あ・・・じゃぁいいよ」 となんだか拍子抜けな気持ちで答え、そのまま車は1軒のホテルに入った。
ちょっと不思議な部屋だった。入った時の感じは間違いなくラブホテルだったんだけど、部屋に入ったらシングルベッドが2つあったのだ。
え、ベッドが2つ?ラブホなのに?
不思議に思いながらも、シャワーを浴びて、結局SEXした。でもなぜか、谷中さんは途中でやめた。 「やっぱやめとこう」 「え?なんで?・・・・ごめん、やっぱり気持ち悪い?」 「いや、そうじゃないけど・・・なんか体に悪そうだよ。無理してしなくてもいいじゃん」
言葉だけ見れば優しさのようにも思える。でも、実際に言われた私はとてもそうは感じなかった。『体に悪い』というのが、私の体にとってではなく彼の体にとって悪いと言うような響きで私の耳には届いた。
やっぱり付き合って2度目のHが生理中ってのはマズかったかな・・・断った方が良かったのかな・・・・
バカな事を考えて逡巡してる間に、谷中さんはさっさと隣のベッドに移ってしまった。 「一緒に寝ないの?」 「隣に人がいると眠れないんだ」 さらっとそう言って隣のベッドに潜り込む。 「おやすみ」 それだけだった。
眠れなかった。『隣に人がいると眠れない』・・・・・だからこのホテルなの?ここならHした後でも別々のベッドで眠れるから?今までにも何度も来てるホテルなの?今までの彼女とも来たの?
結局私は聞けてない。自然消滅状態だったという彼女とその後ちゃんと別れたのかどうか。
ほとんど眠れないまま朝になり、午前から用があるという谷中さんと8時前に別れて、私は1人で放り出された。家に帰るには早すぎて、駅にあるドーナツショップで朝食がてら時間を潰した。
なんだかとても惨めな気持ちだった。
それからも、何度か会った。ドライブもしたし、食事にも行った。でも会うのは全て夜だった。休みが不規則で、そのたまの休みも新しい就職先探しに使ってしまうという谷中さん。たまには昼間に会いたいと言う私。電話も、何時ならかけていいのかわからない。かかってくるのを待つだけ。
・・・・・・・この人、本当に私の事好きなんだろうか?
不安にかられてどんどん鬱屈していく。ほんの小さな『好かれてるよね』と思える出来事のカケラにすがるようにして自分をなだめる。そんな日々が2週間ほども続いたある日、決定的な事が起こった。
その日も夜会っていた。レイトショーの映画を見に行って、ドライブをした。港の近くで車を停めて、しばらくぎこちないお喋りが続く。やがて話しが途切れた時、運転席から手を伸ばされた。
・・・・え?ここで?
そりゃ確かに暗くて外からは見えないけど、少し離れた所には他に車も停まってるし、釣りをしてる人だっているのに?
緊張で体をこわばらせながらも、ここで拒んだら本当に嫌われてしまうかも・・・という恐怖で断れない。初めてのカーセックスだった。なのに、谷中さんはその最中にとんでもない事を言ったのだ。
「今働いてないから厳しいんだよね・・・・5千円でいいから貸してくれない?」
下世話な話で申し訳ないが、それは、前戯や後戯の途中ではなかった。まさに『最中』。耳を疑った。それはSEXをしながら言う事?
結論から言うと、貸さなかった。ちょうど財布の中に1万円札と千円札しかなくて“5千円”という金額を出せなかったというのもあるし、本能的に 「ここで貸しちゃったらダメだ!」 と危機感が働いたというのもある。ここで貸しちゃったら、もうそのまま私達のパワーバランスが決まってしまう。マイペースという言葉を隠れ蓑にするただの身勝手な男。嫌われたくなくて言いなりになってしまう私。そんなのは違う!
別れ際、かなり気まずい空気の中、それでも私は言ってみた。 「本当に私の事好きで付き合ってる?」 「・・・・・・」 「私、全然好かれてるって実感ないよ。谷中さんの気持ちがわからないよ」 「・・・・でも、俺はいつも本当にこんな感じだよ。今までの彼女にもそうだったし・・・・だから続かないのかもしれないけど。咲良ちゃんは大丈夫かと思ったんだけどな」 「・・・・・・ちゃんと好きだって言ってもらった事ないよね」 「・・・・・・・・・」 「・・・・・・帰るね」 沈黙に耐えられなくて、逃げるように車を降りた。
数日後、電話で話した。先に切り出したのは谷中さんだった。 「もう会うのやめようか」 「・・・・なんで?」 「なんでってなんで?」 「・・・・・・・」 「もう疲れたよ。会いたい会いたいっていっつも言うし」 「何それ!?だっていつ会えるかわからないっていつも言うじゃない。だったら会いたいと思ったら言わないとしょうがないでしょ!?会いたくなっても、谷中さんから電話がくるまでただおとなしく待ってなきゃいけないの?私から会いたいって言うだけでもいけないの!?」 「・・・・もういいよ!」 ウンザリしたような声が最後だった。そして電話は切れた。
呆然とした。これで終り?こんなもんで終り?もういいよ、って言ってやりたいのは私の方だ。私の事を好きじゃないんならもういいよ。あんたみたいな男いらない。そう言ってやりたいのは私の方だ。なんで私が振られなきゃいけない?
電話の前で座りこんだまま、動けなかった。付き合い出して1ヶ月も経っていなかった。
半月ほども引きずっただろうか。でもやがて、いつまでもふっきれない自分がイヤになり、悔しいから絶対忘れてやる!なんて妙にムキになった。1ヶ月ほどの間に2人の男の子と寝た。でも別にヤケになってたわけではなくて、ただ単にそうなってもいいなぁと思っていた人と偶然立て続けにそうなる機会があったというだけの事だ。
1人は、大学の同期の子だった。もう1人は2コ下の男の子。
大学の同期だった彼とは、その後も何度かそうなる機会があった。2コ下の彼とはその1回きりだった。そうやってなんとなく2人の人とSEXをして、思ったのだ。
SEXする事も付き合う事も、そんなに深刻な事じゃないんだ。
チャンスさえあれば付き合ってるわけじゃない人とSEXする事は意外と簡単で、したから付き合わなきゃいけないわけでもないし、そこから何も始まらなくてもいいんだ。自分が後悔さえしなければ。
その考え方は、意外にも私をラクにした。もちろん、SEXはちゃんと好きな人とするのが一番いい。付き合う事も、ちゃんと好きな人と付き合うのが一番いい。でも別に恋愛感情で真剣な『好き』という想いがそこになくても、『付き合ってる』という前提がなくても、自分がその関係で傷つかなければそういうのもアリなんだ。そう思うと、なんだか呼吸がラクになったような気がした。
ちなみにこの件には後日談がある。
最悪なあの別れから4ヶ月ほどたったある日の夜。突然谷中さんから電話がかかってきた。
「久しぶり」 「うん久しぶり。どうしたの?」 努めて軽く返事をする。どうしたの?何か用?用もないのに電話してくるような仲じゃないよね?言外にそんな思いをにじませながら。 「いや、元気かな〜と思って」 「元気だよ。どうしたの急に」 「うん・・・・また会わない?」 「は?なんで?」 「ん、いや・・・今度はちゃんと昼間に遊んであげるからさ」
・・・・・・・・・・・・・わけわかんない。私は別に昼間会えない事だけが不満で別れたわけじゃないんだけど。
なんか変な感じだった。でもよくわからないけど、谷中さんが私に会いたがってる。私が会いたいと言っても鬱陶しそうにしてたあの男が、今になって私に会いたいと言う。その事実はほんの少し私に優越感を抱かせた。
おおかた、今は特定の彼女がいなくてつまらないんだろう。私ならヨリを戻せるとでも思ったのだろうか?それならそれでいい。気付かないフリをしてしらっとした態度で会って、とっくに吹っ切れて元気にやってる私の姿を見せてやろう。
そんな意地の悪い気持ちで、 「じゃぁ都合のいい時電話して?大丈夫だったら会えるし」 と答えた。その数日後、本当に電話がかかってきて、私のバイト(これは例の食料品店とはまた違う店)が終わった後に会う事になった。
夕方だった。私はバイトの後でお腹が空いてたのに、車に乗って 「ご飯でも行く?」 と聞いた私に 「ん〜でも俺ついさっきカップ麺食べたばっかりであんまり腹減ってないんだよね」 と相変わらず身勝手な答えをよこし、谷中さんは車を出した。
元気そうだね、今何してるの?なんて適当な会話を交わしながら車はどんどん郊外へ向かう。1時間ちょっと走って、市内からはずいぶん離れた山の中腹の道沿いで車は停まった。夜景がキレイな場所だった。
正直、隣にいる男の事なんてもうどうでも良かった。久しぶりに会って話しても別に楽しくもない。会ったらやっぱりいい感じ・・・なんて欠片も思わない。むしろ、なんであの頃私はこの人にあんなに執着したんだろう?とすら思える。今から一緒に食事をしても特に楽しい事もないだろう。キレイな夜景を見て満足して、おごってくれるのなら付き合ってあげるからさっさと食べに行こうよ。そんな気分だった。
すっ、と隣から手が伸びてきた。え?と思う間もなくキスされそうになってとっさに止めた。構わずに抱き寄せられ、胸に手を伸ばされた。
「え、ちょっと待って。なんで?」 「なんでって・・・何が?」 「なんでそういう事するの?」 「ダメなの?」 「当たり前じゃん」 「なんで?」
・・・・この人、本気で言ってるのか?
理解しがたい彼の言葉に半ば呆れていたら 「・・・でもいいじゃん」 とか言いながらまた手を伸ばそうとする。さすがに切れた。
「やめてよ。やめないんだったら私ここで降りる」 そう言って本当に車のドアに手をかけた。ガチャリ、と開く音がして、ようやく彼は慌てて手を止めた。
「・・・・なんか、前より堅くなったね」 「は?なんで?だってもう付き合ってないじゃん。私達、もう別れたよね?」 別に付き合ってなくてもSEXなんてできるけど。私はもうそれを知ってるけど。でも少なくともいまさらこの人としたいとは思わない。 「・・・・そういう事なんだ」 “そういう事”って何?あぁそういえば、この人とは付き合いだす前にキスをしたんだっけ。だから?たったそれだけの事で、別れた男とでも簡単に寝ると思われたんだろうか?それともまさかとは思うけど、この人の中ではちょっと長いケンカをしてただけで、別れたつもりはなかったとか言うのか?
憮然としたまま 「帰ろうよ。送って」 とだけ言った。谷中さんは黙って車を出した。
結局そのままどこにも寄らずに最初に待ち合わせた場所に戻った。まだ何か言いたげな谷中さんの顔を見ずにするっと車を降りた。 「それじゃ」 「あ・・・うん、じゃぁ、また」 歯切れの悪い男に、わざとらしいぐらいの余裕の笑顔で 「じゃ」 とだけ言ってさっさと車を離れる。・・・・またね、なんて口が裂けても言うもんか。
基本的に、自分が付き合った人を悪く言うのは苦手だ。1度は好きだった人をけなすという事は、その人を好きだった自分の事も貶めるようでイヤなのだ。
でもこの谷中さんという人に関してだけは、いまだに 「つまんない男に引っかかっちゃたな〜」 と本気で思う。今こうして思い返してみると、自分が本当に彼を好きだったのかどうかも怪しい。ただ単に、久しぶりに『彼氏』が出来たから浮かれて自分を見失ってたんじゃないだろうか。(そう、腹の立つことに、健太郎君以来の『彼氏』がこの男だったのだ)
これからしばらくして、大学を卒業して1年が経とうとしていた早春、とある職場に私は就職する。希望の職種ではなかったけど、大学で学んだ事を活かせると思って決めた仕事だった。でもいろいろあった末、1年を待たずにそこを退職。大学の就職課の紹介で同じような職種の違う職場に転職。
次の出会いはそこにあった。
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