空虚。
しずく。



 兄弟。

自分の中の存在が、揺らぐ。
逃げ込んでしまいたくなる。
それでも、生きたいと願う。
同じことを、何度も繰り返して。
同じ言葉で、打ち消し続けた。

身体が、自分ではないようだった。
内側から、何かが上がってくるように感じた。
突っ立って、手を伸ばすと、微かな声だけが漏れた。
そのまま倒れこんで、首を絞めた。
貼り付けたかのように動かなかった。
頭に血が昇る。キン、と音が響く。
息が出来なくて、苦しい。でも。
「生きたい」
そう、願った。

…だから私は、生きたいのだと思えた。
でも、すぐにそれは打ち消されてしまった。

布団に突っ伏して、否定の言葉を吐き続けた。
自分の意志も、正解も、わからなかったけれど、
ただひたすらに、「違う」それだけを言い続けた。


今は、落ち着いている。
でも、眠る時、起きた時、
動いている時、仕事をこなしている時、
…独りに戻った時。

そのすべてに、これがついてまわる。
今までなら、何も考えずに打ち込めるものがあったのに。

終わってしまいたい。でも、生きたい。
選ぶ事も、許されない。ただ、この不安定な間を彷徨う、それだけしか。
出来ない。

「逢いたいよ…」

何かが変わる。そんな期待を抱きながら。
あなたを傷付ける事を、気付かれる事を恐れている。

もう…見るのは、嫌だ…

2005年11月28日(月)



 波。

「うるさい」
小さく、小さく呟いた。

独りで、いる時ならいくらだって付き合ってやる。
私の中から生まれた、これに。
でも、絶え間なく見え続けるそれは、
場所も、状況も、選んでくれなかった。

目をあければ、あの人がいる。
目を閉じても、あの人がいる。
口から血が溢れ出す。手がそれを抑える。
味などしない。誰も、何も傷つけていない。
なのに、喉の奥から、身体から、血が吹き出す。
手が動く。握りしめる。振り払っても、また、動く。
首を掴む、爪を立てる。食い込んで、線が走る。
痛みが、私を覚醒させてくれる。この中にあっても。
まだ狂っていない。大丈夫だと、言い続ける事が出来る。

捨ててしまえば…何度もそれを考える。
笑顔も、幸せも、この先も、あの人も。すべて。

笑いたい。一緒に笑いたい。
生きたい。この先がどんなに辛くても、一緒に生きたい。

そう思う事すら、朧に、何も、浮かべられずに。
でも、必死で。

背中が見える。苦悶の表情が見える。
驚いた顔をして、そしてあなたが消える。

ナイフを持っている。
首を、締めている。
階段から、突き落としている。

「嫌だ」

頭を抱えて、喚き散らしながら、
なんとか、これを逃そうと、無様に、のた打ち回って。
それでも、消えない。これが、消えない。

つらいも、くるしいも、思っていないのに。
涙も、でないのに。

「嫌だ」

何度も、呟く声までが、遠い。

2005年11月27日(日)



 葛藤。

階段の下に、死体があった。
血の海に沈む、あの人だった。
無意識に一歩を踏み出す。咄嗟に手摺を掴む。
喧騒が、一瞬途切れた。

背中が見える。情事の後だ。
眠っているのだろうか。あの人は動かない。
「どっちだ」
私はそんな事を思う。
ナイフを振りあげる。
ああ、まだ「死んでない」
これから、「殺すのか」

目をあける。線路に血が落ちている。
手を握り締める。唇を噛み締める。

「何もない。何も見ちゃいない」
言い聞かせて閉じた目は、すぐに赤く染まった。


どうすれば、見ずにすむ。
どこにも逃げ場がない。笑顔が、見たい。
一緒に、笑いたい。
なのに、手だけが動く。

怖い。

2005年11月26日(土)



 管理者の夢。

何も覚えていないのに、
覚醒した瞬間そう、思った。

ひどく嫌な夢だったような、気がする。

眠る前とほとんど変わらない姿勢を起こして、ため息をついた。
最近毎朝ずっと、こんな目覚めをしている。

眠るのがとても苦痛なのは、久しぶりかもしれない。

もう時間。いかないと。
…さて、今日は何を見るだろうな…

2005年11月25日(金)



 無窮。

決して自分を見失わない自信があるから、
こうして酒を呷る事が出来るのだろうと、思う。
始めはただ不味かっただけの煙草も、
いつしか精神安定剤の役目を果たすようになって、
こうして傷つけていくのだろうな、と自嘲した。

目に見えぬ傷ならば、いくらつけても誰にも何も言われない。
あの人に気付かれぬよう、どれぐらいで治るか、を計算して、
カッターを滑らせる行為に、後ろめたさを感じる必要もない。

この肉の塊を切った所で、僅かな痛みと、血が流れるだけで、
他に何の意味もありはしないのに、何故作られた意味で、責められる必要があるのだろう。

痛みを自分で処理する事を覚えてから、何も出せなくなった。
なか、にはいろんなものがつまっているのだろうけれど、
それを表現する術はないから、ただ沈めていくだけでいい。
そしてそれに限界はない。小さな不快感だけを押さえつければ、何も苦しくない。

限界はこない。私は生きられる。
そう、何度も言い聞かせていく。

…そのうち、この幻覚も見えなくなるのだろう。
これが最後の警鐘だとしても、私にはそれを止める術がないのだから。

2005年11月22日(火)



 なか。

自分の中が淀んでいくのがよくわかる。
周りの人間が、あの人が、気にいらない。
わざと冷めた目をつくって、世界を斜に見る。
思い上がりだろうと、理解している。だから、いいんだ。
そんな理屈をこねて、これ以上何も思わぬように、外を見る。

外だろうが、中だろうがお構いなしだ。
手が動く、声が漏れそうになる。たたらを踏んで、堪える。
視界が染まる。口内に血の味が満ちる。
ふらふらと、誘われるように死にたがる。
この身を差し出せば、どれ程気持ちのよい事だろう。
死にたくなどないのに、その刹那にだけ、屈してしまいそうだ。

全てが、嫌になる。誰でもいいから、殺したくなる。
肉に刃を突き立てる感触を思い出しながら、幻覚を見る。
疲れる事も出来ない。あくまで正常なまま、ありえないものを見る。

それはひどく気持ち悪いと思うが、生唾を飲み込むことで耐える。

耐えてばかりだ、不条理だ。何故、こんな事を思わねばならない。
そもそも、何故私は人を傷つけたがるんだ。殺したがるんだ。

考えたくとも、その頭が残されていない。
繰り返し、繰り返し。何度も、手を変え、品を変えて。

私の中に逃げたいけれど、それだけは許せないと踏みとどまる。
耐える以外に、何が出来る。解放するには、私が死ぬか、誰かを殺すかしかないのに。

ぶつぶつと、座り込んで呟き続ける。
誰にも気付かれないよう、一人になった時だけ。
後は全部虚構で、構わない。

…もう誰にも、関わりたくない。
理解される事も、面倒くさい。
何も知らないままの方が、このままを続けられる。

だから、助けを求める声は殺す。どこにも救いはないから。
私以外に私を助けられる人間はいなかった。また、傷口を抉られるのは嫌だ。
もう、動けなくなるわけにはいかない。

大したことじゃない。耐えられる、壊れるまでは耐えられる。


今更何弱音を吐いてるんだと、思うけれど。
…ここにだけは真実を記す事を許される気がする。
誰も私を知らない、ここにだけ、自分を吐き出させて欲しい。
そうすれば、僅かの間、私は自分でいる事が出来る。

いつまで隠せるだろうな。いつまで、続けられるだろうな。
昔は怖いと思えたのに、もう、薄れてしまった。
それを望んだのだから、仕方ないけれど。

生きる。だから、それでいいよね…

2005年11月18日(金)



 よかった。

辛い時に呼べる名もなければ、
すがる為に差し出す手もない。
けれど、それをよかったと感じる自分がいる。

私がここに書く事は、私しか知らないこと。
忘れてしまう自分のための、痛みの記憶。
当然、あの人にもそれがある事はわかっている。
理解してくれる人を求める事も当然で、
それを得られた事は幸せなのだと思う。
だから、私はそれを喜ぶべきなのだ。

でも胸に渦巻いているのは違う感情。
答えはわかっているけれど、気づいてはいけない。

私は私を理解して、抑える。それだけでいい。
人に理解されようとか、救われようと求める事など出来ない。

弱さをさらけ出すのが怖いからじゃなくて、
自分が、「何か」をするのが怖いからだ。

この歳になって。いや、不穏な空気は感じていたけれど。
認識せざるを得なくなって、やっと向き合えた。

私は人を愛せない。
絶対に殺したくなる。
殺さなければ、愛せない。

相手を失って、やっと私は平穏を取り戻す。
この人を愛したまま、自分の中の時を止められる。

それが「本当」の私の幸せ。

でも、それは出来ない。そこまで頭は弱くない。


あなたと文字だけの会話をしながら、
意に反した言葉を打ちながら、
ずっと、意識だけは違う方向を向いている。

私はどこにも片鱗を見せない。
気付かれるとも思っていない。
あなたの前でも、私は変わらない。
これからも、ずっと、私は私のままだ。
自分の中にずっと「望み」を閉じ込めたまま、
私は、自分を生きていける。

それでいい。

2005年11月13日(日)



 それは何の前触れもなく。

…最近思っていなかったのに。
ふとしたことで、すぐに、こう、なる。

考えすぎだと納得させたい。
でも、自分の身に起こっているから、考える。
馬鹿だ馬鹿だと思うのに、どこかでその恐怖が消えない。

自分ならいい。でも、あの人にそれが降りかかるのは耐えられない。
…抑えられる自信が、今はない。

何故、こんなに不安定なんだ。
どこまでも、いつまでも、影だけを引きずり続けて。
表面に出なくても、ずっとそれだけは残って。

いつしか、痛みも、なくなって。
到底現実にならない肉の塊な身体を引きずって、
生きる為に、この先の為に、働いて。何も、考えずに。

いつ終わってもいいと諦めた顔を隠して、
絶対に終われないんだと先を見据えて、
そのどちらもが共存していることが、つらい。

どうして、この形に落ち着いたんだろう。
…忘れてしまった、失くしてしまった自分を恨む。

でも、時は待っちゃくれない。座り込んでなんか、いられない。

今は全部切り離してでも、…動いて、いかなければ。

2005年11月07日(月)
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