金色の夢を、ずっと見てる

2005年11月28日(月) 恋愛遍歴(社会人編・4)

11月16日『恋愛遍歴(高校時代編)』
11月17日『恋愛遍歴(大学時代編)』
11月21日『恋愛遍歴(社会人編)』
11月25日『恋愛遍歴(社会人編・2)』
11月27日『恋愛遍歴(社会人編・3)』
の続きです。よろしければそちらからどうぞ。

※文中の男性は全て仮名です。


直行さんと付き合い出してそろそろ1年になろうかという頃だった。バレンタインのお返しにとホワイトデーのデート。その日にあんまり遅くなると奥さんに怪しまれるから・・・という理由でその日は食事だけだった。

いつもよりちょっといい店の個室でゆっくり食事を楽しみ、クッキーとは別に
「咲良にもらったのがあんまりおいしかったから、一緒に食べようと思って買ってきちゃったよ」
と私があげたGODIVAのチョコレートを買ってきてた直行さん。思わず笑ってしまいながらも一緒にそれを食べ、いつものように送って帰った。

その途中、私の携帯が鳴った。表示は・・・・・以前バイトしてたレンタルショップの女の子だ。運転しながら出ると
「今、バイトのメンバーで飲み会してるんです。良かったら来れませんか?」
と言って、彼女はそこから程近い居酒屋の名前を挙げた。
「いいの?じゃぁ出かけてたけどもう用事終わるから、今から合流するね」
と答えて電話を切る。ホワイトデーのデートなのにこんな早い時間に帰らなきゃいけない寂しさを持て余しかけていた私にとって、ちょうどいい誘いだった。

車から降りる時、直行さんがいつのまにか後部座席に乗せていた小さな紙袋を取り上げて私に差し出した。
「何?」
「開けて見て」
言われるままに開けると・・・・・・小さな正方形の箱。

中には、私が欲しいと言っていた小さな宝石のついた指輪が入っていた。
「いいの!?」
「それ、結構珍しい石なんだね。何軒かお店回って聞いたけど、どの店でも“ネックレスだったらあるんですけど・・・”って言われちゃったよ。やっとそこの店で見つけた時も、俺が“この石の指輪を探してるんですけど”って言ったらショーケースじゃなくてなんか裏から持ってきてくれてさ。“彼女さん、かなり宝石好きで詳しい方なんですね”って言われたよ」
そう言って笑う直行さん。

嬉しくて右手の薬指につけて、そのままバイト仲間の飲み会に参加した。私を含めて参加者は8人。ユウキちゃんにマナミちゃん、アイちゃんにミキさん、男性は山下さんと若宮さん、阿藤くん。近々辞める阿藤くんの送別会と、3月生まれのマユミちゃんと若宮さんの誕生日祝いを兼ねた飲み会で、さらに山下さんと若宮さんがバレンタインのお返しにおごる、という話しだった。

辞めてからもう3ヶ月以上経ってたけど、店にはちょくちょく顔を出してたのでそれほど久しぶりという感じでもない。ただ、私はほとんど昼ばっかりのバイトだったので、夜シフトの男性3人とは個人的に話した事はほとんどなかったような気もする。でも顔なじみである事にかわりはなかった。楽しく盛りあがり、勢いもそのままに二次会はカラオケに行った。


まだ20代前半のユウキちゃんやマナミちゃんにアイちゃんは、目ざとく私の指輪に気付いて大騒ぎした。
「いいな〜!彼氏とデートだったんですか?」
「うん、でも向こうが明日早いから、もう帰ろうとしてたとこだったの」
としれっと答える私。


カラオケで、それぞれに飲物やデザートを好きにオーダーする。私は、メニューでやたらおいしそうだったストロベリーパフェを注文した。運ばれてきたそれはたくさんイチゴが乗ってて本当においしそうだった。パクパク食べてたら、隣にいた山下さんが
「それ、おいしい?」
と私に声をかけた。
「おしいですよー。食べます?」
そう言ってイチゴを差し出す私。それをパクッと食べて、突然山下さんはそのイチゴをくわえたまま私に差し出した。

一瞬ビックリしたが、なんせ山下さんはこの時点でかなり飲んでた。居酒屋でもたくさん話したが、
「普段も気さくな感じだけど、酔うともっと楽しくなる人なんだな〜」
という感じ。ついおもしろくなって、山下さんがくわえてるイチゴにそのまま口を寄せ、半分齧った。


ほんの少し、唇が触れた。


「やだ、そこの2人ナニしてるのー!?」
正面に座ってたアイちゃんが気付いて爆笑しながらこっちを指差す。
「えー?イチゴを食べただけだよねー」
と2人で顔を見合わせて笑う私達。なんだか意味もなく楽しかった。


そうやって盛り上がってるうちに、気が付いたら午前1時を回っていた。翌日ももちろん仕事だ。途中だけど先に帰る事にして、ふと気付いた。

若宮さん、阿藤くん、ミキさん、ユウキちゃんはそれぞれ自分の車だ。マナミちゃんとアイちゃんはユウキちゃんに乗せてもらって来て、帰りも一緒に帰ると言っていた。山下さんは若宮さんの車で来てたらしいけど、若宮さんはまだまだ帰る気配はない。・・・・・・でも山下さん、明日は朝からも仕事だって言ってなかったっけ?

何気なく
「山下さん、今帰るなら一緒に乗せて行きますよ?」
と聞いた。ちょっと遠回りにはなるけど、どうせ同じ方向だ。
「あ、本当?ん〜もうそろそろ帰った方がいいかな〜。じゃぁ頼んでいい?」
結局、私と山下さんだけが先に出る形になった。


助手席に山下さんを乗せて、あれこれとしゃべりながら車を走らせる。バイト中はシフトが違ったのでほとんどしゃべった事もなかったのに、驚くほど話が弾んだ。山下さんが車を置いてるというコンビニに着いて、駐車場の隅で車を停めた。

随分飲んでるらしい山下さんはこころなしか眠そうだ。
「大丈夫ですか?ここから自分で運転して帰るんでしょ?」
でも私が家まで送ってあげても、それだと山下さんが明日ここまで車を取りに来るのが大変だろうし・・・なんて考えながら山下さんの顔を覗き込んだら、それまで眠そうに目を閉じていた山下さんがふいに目を開けた。

まっすぐ、目が合った。

あ、まずい、と思ったが、そのまま目をそらさなかった。

至近距離で見つめ合ったのはほんの数秒だったと思う。山下さんが体を起こし、そのまま静かにキスされた。一度唇を離し、もう一度。

・・・・イヤじゃないなぁ、と思ったのを覚えている。

唇を合わせたまま抱き寄せられそうになり、はたと我に返った。
「ダメです」
「あ、ダメ?」
「ダメですよ。浮気になっちゃうじゃないですか」
さらっと流そうとした私に
「今のは浮気じゃないんかい」
とおかしそうに笑う山下さん。
「今のはセーフなの」
と私も笑ってみせた。

「ダメじゃないですか。彼氏いるって知ってるのに何でそういう事するかなぁ」
と私がふざけて言うと、山下さんは意外に酔いを感じさせない声で
「ん?いや、俺はそういうの関係ないから。気にしないもん」
と答えた。
「気にしない?」
「うん。彼氏がいるとかいないとかはあんまり気になんない。ただ、キスしたいなぁと思ったからしたし、付き合ってみたいなぁと思ったから」
「・・・・・・」
「・・・・・・」

どう解釈したらいいのかちょっと悩む。でもどうせ相手は酔ってるんだ。遠まわしに聞いたってわかるはずがない。ストレートに聞いてしまおう。
「・・・・・・遊び?」
「へ?」
「遊びならそれはそれでいいよ。遊びでHするだけなら今からでもできるじゃない。でも、山下さんが本気で言ってくれてるんなら、私も本気で考えないといけないから」
「・・・・本気だよ?まぁ確かにまともにしゃべったのは今日が初めてだったけど、でも話してて楽しいなぁと思ったし、隣にいて居心地がよかったもん。もっと知りたいなぁと思ったんだよ。だから付き合ってみたいなぁ、って」


思わず真剣に考え込んでしまった。

本気で言ってくれてるのなら・・・それは嬉しい。でも、酔っ払いの言ってる事をそんなに真に受けていいものだろうか?それに、気持ちは確かに嬉しいけど、今の時点で直行さんを好きだという気持ちと山下さんの好意を嬉しく思う気持ちを比べたら・・・・・まだ、直行さんへの気持ちの方が大きい。


でも。










山下さんは、独身だ。














その1点だけが、どうしても気になっていた。




これは、チャンスなんじゃないか?

煮詰まって、持て余し気味になっていた直行さんへの想い。好きだけど、それだけじゃぁどうにもならないとお互いに判っていて、でもどうする事もできない関係。それを精算するチャンスなんじゃないか?今、山下さんのこの好意に便乗してしまえば、それは何の受け皿もなく直行さんと別れてしまうよりは私はラクなんじゃないだろうか。

でも・・・・・・・山下さんが本当に本気で言ってくれてるんだったら、そんな打算で利用してしまってはいけない、とも思う。


考え込んでしまった私を気遣ったのだろうか。
「今すぐ決めなくていいよ」
山下さんが言った。
「え?」
「今ここで決めなくていいよ。考えてくれる余地があるんだったら、これから時々メシ食いに行ったり2人で会ったりして、それで気持ちが動いたらその時考えてくれればいいよ」
「・・・・・うん、じゃぁ考える。・・・・・・ありがとう」

じゃぁね、とカラオケから持ち帰ってきた焼酎の五号瓶を抱えて、山下さんは車を降りた。



家に帰りながら、ずっと考えていた。確かに、今日山下さんと話してて楽しかった。バイトで顔を合わせてた時は、正直言って
「見た目は好みなんだけどちょっと遊び人っぽいな〜」
という印象だったんだけど、話してみたらそうでもなかった。カラオケでほんの少し触れた唇も、決してイヤではなかった。

うん、もし直行さんと出会ってない状況でさっきのように好意を示されたら、きっと私は断らなかった。

もっと山下さんの事を知りたいと思う。付き合ってみたいとも思う。でも、直行さんを好きだと思う気持ちと山下さんへの好意を比べたら・・・それはやっぱり直行さんへのそれの方が重いのだ。今のままでは、山下さんを選ぶ事はできない。




なんだか不思議だった。ほんの数時間前まで私は直行さんと一緒にいて、どうなるのか判らない2人の未来から憂鬱な気持ちで目をそらしながら、それでも確かに好きだという事だけ否定できずにいたのに。いつまでもこのままではいられない事だけは判っている。でも、だからって直行さんに全てを捨ててほしいと望んでいるわけでもない。とっても中途半端な気持ちと状況で、今の事だけ考えようと自分に言い聞かせていたのに。


今の私は、『確かにここにあるけどそれだけ』の直行さんとの関係と、『確かなものなど1つもないけど、何かが変わるかもしれない』山下さんとの未来を天秤にかけようとしている。



もう少し悩もう。せっかく山下さんが時間をくれたんだ。これからもっと山下さんを知ってみてそれから決めてもいいと言ってくれたんだから、その気持ちに甘えよう。そう決めて、その日は眠りについた。


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咲良 [MAIL]

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