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2026年02月22日(日)
「演劇は何を『翻訳』するのか? 市原佐都子+チューリヒ市立劇場『バッコスの信女一ホルスタインの雌』を例に」

「演劇は何を『翻訳』するのか? 市原佐都子+チューリヒ市立劇場『バッコスの信女一ホルスタインの雌』を例に」@ゲーテ・インスティトゥート日本 

シアターコモンズ’26、オープニングフォーラム「演劇は何を『翻訳』するのか? 市原佐都子+チューリヒ市立劇場『バッコスの信女一ホルスタインの雌』を例に」。現地キャスト・スタッフによるドイツ語上演の上映、市原さんと劇場のチーフドラマトゥルクであるハンナ・シューマンさんによるトーク。現地の観客がドカンドカンウケてたのにまず驚いた

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— kai (@flower-lens.bsky.social) Feb 22, 2026 at 21:12

ハンナ・シューマンさん→ハンナ・シューネマンさんです、失礼しました! 4時間の長丁場でしたがもっと聞きたい〜、Q&Aの時間ももうちょっとあれば! と思う程。めちゃめちゃ充実した内容で面白かったです。

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登壇者|
市原佐都子(劇作家・演出家・小説家)
ハンナ・シューネマン(チューリヒ市立劇場チーフドラマトゥルク)
司会|相馬千秋
通訳|山田カイル
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13:00–17:00
イントロトーク|13:00–13:30
上映|13:30–15:45
ポストトーク|16:00–17:00
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クレジットなかったので追加しといた、専門用語や演劇制作独特の背景を踏まえた発言も瞬時に的確に通訳された山田カイルさんの仕事ぶりも素晴らしかったです。相馬さんが「通訳のカイルさんにも壇上にいてもらいますね。今回は『翻訳』がテーマですから!」と仰ってた。ちなみに山田さん、『パワーチキン』のとき受け取ったチラシ(『A CALL TO BEAR ARMS』)を見て気になるなあ……と思った抗原劇場の主宰の方だった。そうそう、会場にはサエボーグさんもいらしてましたよ。

『バッコスの信女一ホルスタインの雌』、私は2020年のKAAT版を観ました。コロナ禍下だったため当初は通常のキャパ半分のチケットが発売され、換気のため途中休憩を入れると発表されていた。その後規制緩和となり全席販売、劇場の換気機能を検証した上で休憩なしの通し上演になった。そんな状況だったので、初演(2019年のあいちトリエンナーレ)とどこか変わったところはあるのか、追加/短縮されたところはあるのかずっと気になっている。制限がない状態での再演もいつか実現してほしいな。

その後作品は海を渡り、スイスで上演されることになる。市原さんが現地に滞在し演出を手掛けた現地キャスト・スタッフによるドイツ語上演。もともと書かれた言語ではない上演、台本の変更はあったのだろうか。日本とは違う演劇制作のルールなどはあったのだろうか。その初演の映像を観ることが出来ました。上演前に「ネタバレにならない範囲でいうと、一箇所だけ追加したシーンがあります」と市原さん。以下おぼえがき。

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・映像は固定カメラ。シーンによっては少し寄ったりもするけど演者にクローズアップしたりはしないもの。全編全景が見えていました
・日本語上演を観ていた者がドイツ語上演を日本語字幕で観る、というレイヤーの多さは、作品の印象を変えるということはなかった(戯曲の力!)。しかしなんというか、ドイツ語が元来力強い発音のせいか、全体的に「登場人物皆つえー!」という印象に
・なんというか、「のらりくらり」がないというか
・なんとなーくこういう人生になったんです、という感じがないというか。流されず、常に自分で選んできた人生というか
・体型とか骨格も、明らかにエイジアンとは違うので見た目も強そうに見える。衣裳もそうした体型に合わせる訳で、ホルスタインの柄をプロテクターぽく腰に装着しているだけでスタイリッシュに見える
・つくづく演劇は肉体を通したものなのだなあと思う
・コロスの面々もひとりひとりの背景(生活)を感じさせる凸凹な感じ。それぞれの人生を想像してしまう

・「すき焼き」はともかく「焼肉」も「しゃぶしゃぶ」もそのままで通じるんだなあと感心する
・「畳」も普通に通じるのでしょう、変更していませんでしたね
・飢えて畳のい草を食べるという壮絶な描写、これしかないという感じではあるものの、他の国だと何を食べるだろうと思ったりもしていた
・翻訳でいえば「え(ろ)ほん」のニュアンスは流石に伝えられないか、普通にエロ本になってた。ここ、初見時うまい! すげーキラーワード! と感動したんですよね(笑)
・しかし逆に、ドイツ語でダブルミーニングな単語とか使っていた箇所もあるのかもしれないなあ。その辺りどうだったんだろう

・楽曲も一から作り直してあった。これも“翻訳”なのだなあ
・出版された日本語戯曲には楽曲スコアも掲載されていたので、楽曲はそのまま使うのかと思っていた
・ミュージカルと違ってライセンス制ではないのだな
・額田大志さんによる日本語版の楽曲が大好きだったので最初「あ、違うんや……」と思ったけど、いやいやドイツ語版もすごく格好よかったです!
・劇伴箇所は弦楽器を使ったアレンジのものになっていました。これも格好よかった

・「追加したシーン」は、終盤舞台上でキャストが「犬が殺されるなんて」「こんな結末は嫌だ」「別の方法はないのか」とディスカッションするところ。これについては後述

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上映後のトークで印象に残ったところをおぼえがき。記憶で起こしているのでそのままではありません。話が前後した箇所はまとめています。カッコ内の斜体は私の感想。

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市原:これだけはいっておきたいのですが、日本語通訳として劇場付の方とは別に、現地在住の、当時学生で私の作品を卒論テーマに選んでくれた方がついてくれました。制作現場以外でも一緒にいて色々話を聞いてもらって、メンタル面でも頼りにしていました。彼女の貢献はとても大きかったです。今は他の劇場に就職してしまったのでもう一緒に仕事が出来なくて残念です
何度も「伝わっていないな、受け入れられてないなと感じるときがあった」と仰ってました。たいへんだったのだなあ……

相馬:海外で上演したい、という話が出たとき、あちらの方にまずいわれたのは「上演時間が長すぎるんじゃないか」ということでした。でも実際にやってみたらそんなことはなかったですよね?
シューネマン:その話を聞いて思ったのは、「長い」といったひとは「(日本語上演で)ドイツ語字幕を見乍ら観劇する」ことが体感的に長いと思ったのではないでしょうか。実際台本をドイツ語に翻訳して上演すると、全然長いとは感じませんでしたね
今回の上映は「(ドイツ語上演で)日本語字幕を見乍ら観劇する」だった訳ですが、集中力は切れなかったし衝撃も面白さも変わらなかった。でも確かに字幕を追い乍らの2時間15分は体力的に疲れましたね。映画の字幕とも違う感覚でした

市原:どこの国の物語、と限定はしていません。どんな国にもいろんな国の要素が入っているものなので、無国籍というかごちゃ混ぜというか、敢えてここは日本だ、と限定しなくてもいいように書いたものです。窓から見える山も富士山のようだったり、マッターホルンのようだったり、どちらにも見えるようにしています

市原:しかしペットショップやスーパーマーケットが夜遅く迄開いているというのは日本独特のものだとも感じました。あとこちら(欧州)は犬権が強い。犬がとてもだいじにされていて、犬税というか、犬を飼うときに税金を払わなければいけなかったりする。その辺は最後のやりとりに反映されています。追加したディスカッションのシーンは、俳優に会う前に書きました(どよめき)。なので実際に演じる側から「結末を変更しろ」といった提案があった訳ではありません
「スーパーが早く閉まるので肉が買えなかった」という台詞が追加されていましたね。コンビニでエロ本が売られているとかペットショップで動物を買うというのも日本独特のものかも。現地の観客にはどう受け取られたのかな

シューネマン:タイトルは『バッコスの信女』をとって『ホルスタインの雌』だけにしました。ギリシャ神話のアダプトという側面もある作品ですが、我々は「佐都子さんの作品」を上演する、ということを全面に出したかったので。また、ホルスタインはドイツ原産の牛なので、このタイトルで良いと思いました。翻訳は、「台本を翻訳する」だけではありません

相馬:ここで、出演者からの動画メッセージが佐都子さんに届いています
出演者たちが市原さんとのクリエイションがいかに刺激的だったかを語り、最後に「あなたの犬より」「あなたの牛より」「あなたの(なんていったか失念。主婦だったかな)より」といって笑顔で手を振りました。ふいうちで「あなたの犬」っていわれるといろんな意味でギョッとするな(笑)
市原:そんな……本当に孤独を感じていたので、こういって頂けると……
シューネマン:俳優たちからは「佐都子さんは次いつ来るんだ、また佐都子さんと作品をつくりたい」とせっつかれているんですよ
市原さんちょっと涙ぐんでたかも

市原:(オーディションについて)メインの俳優たちは劇団に所属(就職)しているひとたちなので、こちらが選ぶということはなかったです。コロスは日本で上演したときと同様にオーディションで選んだんですけど、日本では「ママさんコーラス」がイメージだったんですね。でもスイスには「ママさんコーラス」というものが存在せず、歌が巧いひとばかり来た(笑)。改めて違うタイプの歌い手を探すことにしました
シューネマン:コロスという意味では揃っていた方が良いのでしょうが、皆バラバラで、それぞれの人生が見えるひとを選ぶことにしました

■Q&A
質問:欧州ではヴィーガンのひとも多いと思いますが、肉食を扱う今作に対しての反応はどうだったのでしょうか?
シューネマン:若いひとにはヴィーガンが増えていますが、依然として肉を食べるひとは多いです。ですから拒否反応のようなものはあまり感じませんでした
スイスといえば乳製品、ドイツといえばソーセージだものね

相馬:本当はチューリヒ市立劇場を招聘出来たらいいんですけどね! 円安の影響は大きく無理です。今現地に行っても観られるのですか?
シューネマン:レパートリーに入っていますよ
相馬:興味を持たれた方は是非観に行ってください!

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円滑なコミュニケーションのためには、通訳者は会話の外部に留まる必要がある。そのためには逆説的に、発された言葉を全て自分のものとして、一人称で話さなければいけない。「彼は何それと言っています」とは、優秀な通訳者は、通常口にしない。
(中略)
つまり、私でない誰かの言葉を一人称で語る通訳者は、俳優なのである。

通訳に関する山田さんのエッセイ。いいタイミングで読めた!