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2023年05月20日(土)
『虹む街の果て』

『虹む街の果て』@KAAT神奈川芸術劇場 中スタジオ


そういえば『皆に伝えよ!ソイレントグリーンは人肉だと』には木内みどりさんが出演してらしたわねえ、緑繋がり……なんてどうでもいいことを思い出しつつ観てしまったのだった。

いや、どうでもいいということでもないのだ。『皆に伝えよ!ソイレントグリーンは人肉だと』はベニサン・ピットで上演されたのだが、『虹む街』および『虹む街の果て』のセットは過去ベニサンで上演された『血の婚礼』を彷彿するセットだった。雨が降り続くコインランドリーというシチュエーションも同じだ。

webに当時の画像が見つからないので、2011年上演版の記事を。世界観は同じ。
・大規模修繕劇団「血の婚礼」フォトコール@にしすがも創造舎体育館特設劇場┃おけぴネット

『血の婚礼』上演記録はこちら。1986・1993・1999・2011年の4演中、1986・1999年の2演がベニサンで上演された。
・血の婚礼┃清水邦夫著作リスト

染色工場をリノベした劇場。ペニノやタニノクロウ演出作品とベニサンは相性いいだろうなあとずっと思っていた。実現しなかったそれを観られたようで嬉しかった思いは、一昨年の『虹む街』から続いていること。

以降連想ゲームのようになっていくが、『皆に伝えよ!ソイレントグリーンは人肉だと』のインスピレーションとなったSF映画『ソイレント・グリーン』が、今作のモチーフのひとつだというのはあながち勘違いでもないかもしれない。未来で廃墟で緑でという視覚情報に引っ張られてるかな、私の思い込みかなあとぼんやり考えてはみたものの、舞台(上演前後に撮影してくださいと開放されていた)の片隅と、配布された撮影時の注意書きにはこんなマークが提示されていたのだ。



ここ迄くると、『ソイレント・グリーン』が世界観の下敷きになっているのは間違いないように思う。後述の「ごあいさつ」から察するに、『ソイレント・グリーン』をたたき台にトライアンドエラーが繰り返され、結果こうなったのかなあなんて思った。

前置きが長くなった。今作は2021年に上演された『虹む街』のリメイク作品だ。作・演出のタニノクロウを筆頭に、美術稲田美智子、照明大石真一郎、音響佐藤こうじと馴染みのスタッフも続投、“街の人たち”もほぼ続投。大きく変わったのは、物語を展開させる演者を置かず、“その後”の街の風景をスケッチするような作品になっていたことだ。台詞劇としての要素は少なく、共通言語は音楽で表現される。パーカッショニストである渡辺庸介が劇伴と歌の伴奏を担う。

その後といっても10年20年という近未来ではない。もっとずっと先の風景だ。セットは同じだが、それはカビだか植物だかの緑に侵食されている。そこに『ソイレント・グリーン』の世界が紛れ込んでくる。彼らが食べている、グリーンのゼリーは何か? それは何で出来ているのか? ともあれ、彼らは生きていて、異なる民族、異なる人種、そして恐らく異星の生命体と共生している。ロボットやマシーンといった人工物にも生命があるように描かれる。何せロボットのなかや自動販売機の“中”には人間がいるのだ。リアルで“中の人”。

『虹む街』でサロンだったコインランドリーは廃墟になっている。しかしサロンとしての機能は残っている。洗濯機も動く、占いゲーム、ホットスナックの販売機も生きている。中華料理店はその建物だけが残り、いぬを飼いたがっていた女児はいない。「いぬがかいたい、いぬがかいたい」という声が聴こえてくるが、その声の主は素性も行方も不明で、現れたいぬはロボットだ。このロボットの造形がまたなんというか哀れを誘う姿で、かわいいやらせつないやら。

雨の番人は代替わりしている。先代は死んでしまったのだろうか? それをいったら、再会出来たと思っていた登場人物は皆代替わりしているじゃないか。果たして彼らは人類なのだろうか? 明らかに姿形が違う者も登場していたが、それらとの境目はどこにあるのだろう?

雨は降り続いている。人類が滅びたあともきっとゴキブリは生き延びる、これ真理。

くらしの風景には歌がある。皆が幸せそうに唄ったのはMadonnaの「Material Girl」とThe Specials(!!!)の「A Message to You, Rudy」。なんでや。マドンナはともかく。アメリカとイングランドの歌謡曲ともいえるこの2曲を、登場人物たちは母語ではない(恐らく第二、第三言語の)英語で唄う。出演者にはアメリカあるいはイギリス国籍のひとはいなかった(恐らく……恐らく)と思われる。以前欧米以外──アジアやアフリカ──で、Nikeやadidasといったスポーツブランドと同じくらいバンドTシャツが着られている、レッチリのTシャツなんてどこの国に行っても見る(バッタもんだがというオチがつく)、という話を聞いたことがあるが、ことほど左様に英米のポピュラーミュージック、そして英語という言語の影響力は巨大なものだ。しかしこれは、長い先の未来も変わらないだろうか? 言語や文化が入れ替わるか、人類が滅びるか、どちらが先だろう。なんてことも考えた。

終演後「『Material Girl』はパブ勤めの人物がカラオケの定番にしていた、という裏設定があるのかもね」なんて話したが、興味深かったのは、英語で唄われた両曲のうち「A Message to You, Rudy」にだけ英語と日本語の字幕がついたことだ。「未来のことを考えよう」というメッセージは、何げに強く優しく心に沁みた。

ごあいさつに始まりごあいさつに終わる。馬さんがメモを片手に一列に並んだ演者を紹介していく。同じ台詞が中国語で繰り返される。「上演は大変困難なことでした」「演出家が何をやりたいかわからず苦労したこともありました(ここ笑うとこ)」「でも、皆の笑顔に助けられました」。舞台上のモニターに映った日本語字幕は、最初も最後も同じものが流れたように思う。しかし馬さんは、始まりは「謝謝」といい、終わりは「再見」といった。「未来のことを考えよう」。遠い先の未来、いつかまた会えるといいな。




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・『虹む街』┃KAAT 神奈川芸術劇場
・『虹む街の果て』┃KAAT 神奈川芸術劇場
スタッフ・キャスト情報はこちらで。馬さんのお店行ってみたい〜


おまけ。GWにベニサン・ピット跡地を見てきたのでした。このお店ずっとあるのよ〜ベニサンに通いつめていた頃アイスやお菓子買ったりしたよ。再開発でマンションが続々建てられている森下、このお店と公園は健在で嬉しかったな。ちょっと先の未来の光景を想像した