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2021年07月18日(日)
中野成樹+フランケンズ『Part of it all』

中野成樹+フランケンズ『Part of it all』@えこてん 廃墟スタジオ、屋上スタジオ



お初のナカフラ。観たい観たいと思いつつ機会を逃しているうちに、ナカフラのメンバーにも環境の変化が訪れていました。出産、育児で演劇に関わる時間がなかなかとれない。でも、公演はやりたい。では、どうする? 「戯曲の上演に、私たちの日常生活をかぶせる」「『大好きな演劇を一生続けられる方法』に出会えるかもしれない」プラン(パンフレットより)による、東京では五年ぶり(!)の復活公演です。一日限り、二回公演の初回(11時開演)を観ました。

えこてん、初めて行きました。江古田駅前の古〜いファッションビル(し、昭和!)の階段を上る(エレベーターはない)。主に撮影スタジオとして使われているスペースで、コンクリート打ちっぱなしの四階が「廃墟スタジオ」、五階が「屋上スタジオ」。味わい深いロケーションに早くもワクワク。つくづくこういうシチュエーションに弱い。今ではサイトスペシフィックアートという名前がついていますが、連れまわし演劇と呼んでいます。

受付を済ませ、並べられているパイプ椅子に着席。フロアには『動物園物語』ではおなじみ、ベンチが一脚置かれています。中野さんと、ドラマトゥルク長島確さんのアフタートークならぬビフォートークで幕開け。『動物園物語』の紹介、全編上演しない理由、誤意訳について、ナカフラの現状など。この時点で「ピーターが三人になる」といわれ期待が膨らみまくります。

さて、はじまりはじまり。まずは原作パートから。「動物園に行って来たんです。動物園へ行ったんですよ、動物園。あのね、動物園へ行って来たんだ!」。聴き馴染みのある冒頭から、どの辺りだったかな……お互いの名前を知るところ迄は行かなかった、年収の話をするところはやった。早川書房から出ている戯曲でいうと、十頁弱というところか。公演が決まったときの速報では「原作の冒頭わずか3〜4ページのみ上演!」でしたが、稽古を重ねるうちにもっと進めることが出来たそうです。ちなみに早川の鳴海四郎の訳とはちょっと違いました。

続いては、公園で談笑している会社の同僚らしき三人に氷結のロング缶を手にした男が話しかけてくるという誤意訳パート。「ジェリーと犬の物語」も登場します。「真っ黒な怪獣みたいな」犬はトイプーに、ハンバーグはハリボーに。ピーター側が複数になることで、ジェリーは「なんか変なひとが来たよ」という目に晒されることになる。「スマホで撮影」「ネットに書いちゃお」「電通」といったキーワードから、現代人はどこでダメージを喰らうか、何を恐怖しているかが見えてくる。公園は、街は、目に見えないピーターという“社会人”で溢れている。

屋上へ移動、誤意訳をもうひとつ。青い青い空の下(天気も味方しましたね!)パラソル出して、しゃぼん玉吹いて、ビニールプールで水遊び。ピーターたちとその子どもたちが過ごす、平和な夏の休日。そんなところへやはり氷結のロング缶を持ったジェリーがやってきたら? 父ピーターはジェリーの話を聞くテイで彼を取り囲み、子どもから遠ざける。母ピーターはさりげなく子どもの目にジェリーが入らないよう誘導する。大人たちは明確にジェリーを危険人物と見なし、子どもたちを守る態勢に入っている。そんな一触即発の緊張感のなか語られる「ジェリーと犬の物語」。

子どもたちにどういう演出が施されていたかは判らない。「普通に遊んでていいよ」だったのか、ジェリーを演じる役者(田中佑弥)には近づかないでね、だったのか。彼らは極めて自然だった。観客に近づいていった子もいたし(近づかれた観客とその周囲のひとたちが、笑顔でその子に手を振ったりする光景が微笑ましい)、お父さんから離れない子もいた。ジェリーの邪魔をする子はひとりもいなかった。しかし、ピーターたちは子どもの安全のため、ジェリーを排除しようとする。スマホに撮影して証拠を残し、(おそらく)通報するためひとりがその場から離れる。「ジェリーと犬の物語」は真剣な聴き手を失い、「はいはいはい」「うんうん」「そうねー」といった感じで受け流される。彼は何を伝えようとしているんだ? という疑問はそこにない。

この辺りから、演者たちは「ジェリーと犬の物語」をやりきれるんだろうか? と手に汗握り始める。ピーターたちの妨害に遭いながらも、ジェリーの台詞はちゃんと進行していたからだ。トイプーにあげるハリボーを日々買いに通うため、そのコンビニの店員たちからハリボーというあだ名をつけられている、という情報も加わり、トイプーの飼い主の描写もきちんと語られる。

かくして「ジェリーと犬の物語」はヨロヨロしつつも前進し、「いいたいことは全部いった!」というジェリーが宣言する。「(この状況で)よくやりきった!」というカタルシス、子どもがその場にいることで『動物園物語』の味わいがこうも変わってくるのだなあ……という驚きが残る。

ジェリーは自分の話を聞いてくれるひとりのピーターを探さなければならないが、屋上を横切る「青い服」のピーターにジェリーは気づかない。ジェリーの目には見えない、死者としてのピーターはあらゆる場所にいるのだ。しかし子どもには、その青い服のピーターが見えている。大人になって得るものと失うもの。ひとが一対一で向き合うことが難しい現代社会。そんなことをむむむと考え込む観客の頭上には、どこ迄も青い空が拡がっているのでした。知っている(観たことのある)役者は田中さんだけでしたが、一癖も二癖もあるキャラクター揃いで目も頭も忙しかったです。終わってみれば全部合わせて70分。この上演時間でこんなに濃密な演劇体験が出来るとは。

2004年に書き下ろした「ホームライフ」を第1幕、「動物園物語(ピーター&ジェリー)」を第2幕とした『At Home At The Zoo』で「ひとつの作品」と宣言したオールビーだけど、これを観たらどう思うかな? 観てもらいたかったじゃん? なんて思いました。この日観た誤意訳(特に屋上での)は「ホームライフ」と繋がっていると感じたからです。上演前のトークによると、『At Home At The Zoo』は、日本ではシアタートラムで一度上演があっただけじゃないかとのこと。堤真一、小泉今日子、大森南朋が出演したシス・カンパニーの公演のことだと思いますが、そうかー、これ以来やってないのか。オールビーはその後『動物園物語』の単独上演は認めない等と発言し2016年に亡くなりましたが、そういう意味でも『Part of it all』は『At Home At The Zoo』を上演したことになるのでは? と思いました。終演後に屋上から見た青空と江古田の風景含め、今年の夏の思い出がひとつ。

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真夏の屋外を含む上演につき雨天決行、荒天中止と事前にお知らせ。傘は差せないよな、帽子を持っていかなくちゃ。ポカリも持っていこう。最近はいきなり雨降ったりもするし、合羽もいるかな? とこまごま準備して行きましたが(フェス仕様・笑)結果的にどれも使うことがありませんでした。

飲料水だけでなく冷えピタ、冷シート、塩タブレットも用意されており、屋上へ出るときは服にかけても染みが残らない冷感スプレーを「かけたいひとは来てくださーい」とかけてくれる。屋上では立ち見だと思っていたら、「これから椅子を移動させますのでお待ちくださーい」と廃墟スタジオから運んだ椅子をテントの下にセッティング。これがまたスピーディー。受付時にもらったポストカード仕様のチケットにはデジタルパンフレットにリンクさたQRコードがついていました(その後メールでもURLが送られてきた)。素晴らしいホスピタリティ、有難うございました!

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・ナカフラ、2年半ぶりの公演「Part of it all」オールビー「動物園物語」を“誤意訳”で再解釈┃ステージナタリー
・ナカフラ「Part of it all」青空のもと開幕、中野成樹「原作の魅力に通じる仕上がりに」┃ステージナタリー

・『Part of it all』中野成樹・野島真理インタビュー┃NakaFra
「その時に長島(確)が『全生活を芸術創作に捧げるか、一切関わらないかの白か黒しかないというのは違うと思っていて、その間にある可能性を掘っていかないとおもしろくない』って言ってくれたから、じゃあそこを掘ってみようと思えたんですよね。」
「当初の目論見は、子どもが凄い邪魔しまくって全然先に進まないっところにおもしろさを求めたんだけれど、進めちゃった……というね。」
「『あなたの住んでいる世界の現状はこんな姿です』と見せつける演劇を僕は目指し続けたいんです。」

・余談だが『動物園物語』といえば『ウエアハウス』(鈴木勝秀が長年続けている『動物園物語』から派生した構成もの)をずっと観てきたこともあって、「あれ? ピーターんちってカメ飼ってたんじゃなかったっけ?」なんて思ってしまった(笑)


パーラー江古田でサンドウィッチ買って帰宅。いやー暑かった!