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2020年10月08日(木)
『デソレーション・センター』

『デソレーション・センター』@シネマート新宿


アンダーグラウンドシーンのドキュメンタリーフェス『UNDERDOCS』。観たいの沢山あったんだけどなんやかんやで最終日のみの参加になってしまった……これだけは外せんとねじ込みました。シアターNなき今、ここらへんの作品を一手に引き受けてる感のシネマートさん有難い。


警察の差別的な取り締まりが厳しく、活動の場が狭められていた80年代半ばのLAハードコアシーン。スチュワート・スウィージーは、警察の目が届かない場所でイヴェント“デソレーション・センター”(以下DC)を開催することを思いつく。詳細など書かれていないちいさな広告に賛同し、約160人がチケット代を振り込んでくる。行き先を明かされぬまま活版印刷のチケットを手にし、遠足よろしくスクールバスに分乗した彼らが着いたのは、カリフォルニアのだだっぴろい砂漠。

道中SAで「奇天烈な連中がやってきた!」と締め出しを喰らったり(ゴリゴリのパンクファッションの子らが片田舎に集団でやってきたら驚かれますわな)、機材が故障したり。さまざまなハプニングは見舞われつつも、“伝説”に立ち会った人々は楽しげに、そして誇らしげに当時を振り返る。アインシュテュルツェンデ・ノイバウテンのライヴは圧倒的。映像でこれなんだもの、現地にいたひとたちはさぞや……参加者が証言するように、宗教的なカタルシスに満ちた儀式のようでした。この体験を手紙に書き、疎遠だった母親と和解したってひとがいたというのが象徴的です。

で、そのノイバウテンのブリクサ・バーゲルトがマーク・ポーリン(Survival Research Laboratories=SRL)のパフォーマンスを観て「欧州は火薬とかの制約厳しいんだ。アメリカはいいねえ」といってたけど、いや、あれはアメリカの規制も破ってたと思うぞ……(笑)。そもそも火薬どころか場所使用の届出もしてないし。土地が広大なアメリカならではという感じもします。ほんっとに周囲に何もなかったもの、騒音がーとか通報もされなかったのでしょう。爆破、粉砕、廃材使用のメタルパーカッション。手加減せずに音が鳴らせる! 演奏者は生傷だらけ! 大きな事故がなくて本当によかったですね(微笑)。

しかしやっぱりどこからか情報は漏れる。来場者が捨てていった大量の酒瓶が証拠になった、というのもあーいかにも、という感じですね。証言にもあるようにドラッグ問題もあった。最終的にはスチュワートに罰金の知らせが届き、ミニットメンのフロントマン、D・ブーンの事故死が追い打ちをかける。それきりDCが開催されることはありませんでした。場がないなら自分でつくる、理不尽な弾圧には抵抗する。商業的になる前に身をひく。パンクスピリットに根差したDCは、そうして伝説になったのでした。

それにしてもライヴシーンはどれも現実ばなれしてて格好よかった。2ndつくった直後のソニックユースが圧巻(キムのコメントも聴きたかった!)。ミートパペッツとレッドクロスは、音源に接してはいたものの映像で観るのは初めて。これがまあ最高だった。わーライヴだとこんなに凄まじいのかよ! ミニットメンが地元サンペドロで行った港湾ライヴは美しい夜景、幻想的でもあった。実情は船酔いしたひとも多かったようですが(笑)。

ジェーンズ・アディクション以前のペリー・ファレルを観られたのも貴重だった(今も昔も麗しいことで)。そもそもはスチュワートのルームメイトだった彼、DCの立ち上がりを傍で見ていたんですね。これがあったからロラパルーザも生まれた。コーチェラも、バーニングマンも。規模拡大とともにチケット代も上がり続けているコーチェラは、コロナ禍によりこの春から延期を繰り返している。巨大フェスはこれからどうなっていくのだろう。いや、そもそもスタンディングのライヴやモッシュが出来る日が来るのだろうか? そんなことを思いつつも、自己責任と個人主義の違いについて考える。

それにしても、この時代くらいになると結構映像が残っているものですね。35年を経て日の目を見た、とはいうものの80年代って意外と近いなと思ってしまった(笑)。やー観られてよかったな、日本公開されてよかったなあ。

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・ソニック・ユース、ノイバウテン……巨大フェスの原型『デソレーション・センター』┃BARKS
痒いところに手が届くBARKSの作品紹介。出演者とかその時代のシーンとか、しっかり把握した上で書かれている印象

・インタヴューを受けているマイク・ワットの車にちっちゃなマスコットがいっぱいぶら下がってて、そのなかにやっぱりリラックマがいたのでニッコリしました

・【世紀末マシーン・サーカス!! Vol.1】SRL日本公演「まさか」の実現┃ASCII.jp
・【世紀末マシーン・サーカス!! Vol.2】ロボットたちの殺戮と果てしない性交┃ASCII.jp
・【世紀末マシーン・サーカス!! Vol.3】暴力の静かな幕切れ┃ASCII.jp
・【世紀末マシーン・サーカス!! Vol.4】135Mbpsの高速回線で映像を配信。ロボットの遠隔制御も┃ASCII.jp
SRL何で知ったんだっけなー、テッチーかなー、確か来日もしたよなーと探してみたらレポートがあった(アスキーの記事ってとこがまた!)。画像がちいさい、「135Mbpsの高速回線」、時代を感じる。ていうか記事残してくれてて有難うアスキー!
しかしこの公演、まさに『デソレーション・センター』のよう。「野外の特設会場で行なわれること」、「観覧は無料だがメーン会場の入場制限は3000人で事前予約は一切とらないこと」、それらがファンの連絡網でみるみる拡がっていくこと、「他に誰が観にくるんだ?」なんて現地に行ったらすげーひとだったこと(笑)……。いやはや、アンダーグラウンドシーンが可視化され、「こんなに仲間(数奇者ともいう)がいたんだ!」と嬉しくなると同時に怖くもなる瞬間って楽しいですねえ。
しかしこれ1999年か、比較的最近(?)だな。テッチーって90年代にはもう廃刊になってたよなあ。webなんて影も形もない時代、宮崎の片田舎に住んでて三上晴子や東京グランギニョルを知ることが出来たのはテッチーのおかげです


・ツイート拝借。『UNDERDOCS』最終日ってことでビールのサービスや抽選会もありました。「ビール呑み放題です、呑めない方はさゆあります」って聴こえてきて「さゆ」? 聴き間違いかな、と寄ってったらホントに白湯でウケた。
『アングスト』のディスプレイ(123)といい、コロナで客足が遠のいている時期も工夫に満ちた楽しい企画や場づくりを続けているシネマートさんには頭が下がります。韓国映画ともどもこれからもお世話になります!