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2019年11月24日(日)
スーパー歌舞伎II『新版 オグリ』

スーパー歌舞伎II『新版 オグリ』@新橋演舞場


小栗判官と遊行上人を、市川猿之助と中村隼人が交替で演じます。10月に猿之助版を観ました。このときハロウィンの扮装だった寿猿さんのカメ婆、今日はクリスマスの衣装になってた(微笑)。

昭和の『當世流小栗判官』、平成の『オグリ 小栗判官』ときて令和に『新版 オグリ』。脚本もアップデートされているとは思うが、「道具」にされるのはいやだと家を出る照手姫や、母親からの苛烈な虐待から逃れたあとも負の連鎖にとりこまれる六郎等、その根幹は変わっていない筈。現代を映す鏡のようだが、彼等が行き着く先の光に救われる思い。新版の脚本は横内謙介。

興味深かったのは閻魔大王。ホント閻魔様いいひと〜(ひとじゃないけど)、人間ができてる〜(人間じゃないけど)。世を憂い、世のためひとのため、地獄に何が出来るかを考えている。そして旧態依然の地獄を自ら破壊する。非の打ち所がなさそうに見えるオグリのひととなりを瞬時に見抜き、現世に戻すことでその欠落に気付かせる。小栗党の所行には矛盾があります。現に照手姫の実家はとりつぶしだし、自業自得というにはちとつらい。閻魔様はオグリに、自分の道を行く者が自分ひとりで生きているわけではないということを教えてくれる。

そんな閻魔大王を演じたのは浅野和之おじいちゃん。一周まわってジャガーさんに見えるお素敵な扮装でしたが(笑)心優しくちょっと抜けてる閻魔様、なんて魅力的! この愛され上手! 世相をチクリと刺したり梅原猛先生の教えを説いたり盒桐里髻廈盒兇ん」と呼んだり(笑)自由だったな〜。この日は笑三郎さん演じる閻魔夫人を「さちこ!」と呼んでいたしどこからどこ迄がアドリブだったんだろうか。事前発表されていなかった役もこまごまやってるし。閻魔様の仮の姿ともとれるけどこれ、稽古場でやってみたら面白いから採用! って増えた役もあるんじゃないか……こどもの役迄やるもんだから「やべっ、大人が来た!」なんていう台詞が大ウケです。どこに出てきても場面が面白くなるし、しかし要所は逃さず場面をキリリと締める。猿之助さんの信頼が窺えます。

地獄巡りと餓鬼阿弥蘇生譚をこうも面白くエンタメとして見せられるのだと瞠目しきりです。しかし思えば地獄ってテーマパークみたいだもんね…温泉もあるし……。『神と共に』(「第一章:罪と罰」「第二章:因と縁」)といい、今年は思いやりに溢れる志の高い閻魔様をふたりも観て地獄に対する考えを改めたりもしましたわ。そこで思い出すのは前述、六郎の名台詞。地獄は他者に決められ与えられるものではない、ひとは皆胸のうちに自分だけの地獄を抱えている。その地獄がテーマパークって最高じゃん! 胸がすく思いでした。

そして歌舞伎初出演、洋さんですよ。猿之助さんと同じ事務所に移籍したことがきっかけかもしれませんが、いやあ、歌舞伎で洋さんが観られるとは長生きするもんです。いろんな意味でこんなの初めて! な洋さんが観られて楽しかった。一幕では照手姫の兄・家継、二幕では地獄の鬼頭長官。過剰な演技を堪能しました。絵に描いたような悪者です。ガーッハッハッハ、アーッハッハッハって笑うんだもん…そこに火サスみたいな音楽が被るんですよ。こっちも笑うわ。二幕の血の池地獄の場ではなんと本水使いのシーンにも登場、歌舞伎のひとらと一緒に大立ち回りです。ジャンプして水に飛び込んだり水しぶきを上げて大きな段差を駆け上がったり、アクション激しくて結構ドキドキした。いや〜しかしご本人もブログに書いていたが歌舞伎は超コスチュームプレイ、それを洋さんで観られたのは嬉しかったわ…鬼頭長官の扮装ちょー格好いいのよ……。カーテンコールで衣裳の長い袖を握って両手を振る姿には我が目を疑いましたよね。段取り的に皆と合わせねばならなかったのだろうが。ここ、流石に慣れてない感じでぎこちないことこのうえなく観ててニヤニヤしましたよね。

なんか周辺情報ばかり書いてますが、猿之助、隼人の両オグリ素晴らしかったですよ。口跡、所作では猿之助さん、光り輝くような美! は隼人さん。宙乗りではどちらも白馬にのって三階席に向かってくるのでもう目が潰れる思いでした。むっちゃ近かった。しかもオグリの方は意気のよさを表現するためか馬をガッタガタ揺らすもんだから悲鳴があがってました。あの高さで、怖いよ! ようやる!

そしておそらく大抜擢だったと思うんだけど、坂東新悟の照手姫が素晴らしく感無量でした。声のよさを活かした快活な女性描写に定評のあるひとですが、今回は姫役。しかしその人物像というのが、前述したように家を飛び出し数々の試練に遭い乍らも強くひたむきに、そして明るく生き抜く強い女性。身長の高さも人物の大きさとして映ります。誰もが(まあ婆たちには嫉妬の対象になっていたが……狭い村に渦巻く噂ホント怖い)彼女に魅了される。終盤オグリと再会する場面では、その声をつかわずとも観客の心をわしづかみにする。夫が生き返り目の前に現れたことを信じられない思い、じわじわと迫る歓喜、そして涙。ひとことも発さないこの数十秒を、その間と所作で三階席迄伝えてくれました。

猿之助さんと杉原邦生の演出もチャレンジングで目を見張ること多し。カラフルな蛍光色を多用した照明や「OGURI」ロゴの使い方、ヒップホップクルーのような小栗六人衆(チェーンのネックレス、フーディー、金髪で、六郎に至ってはキャップを被っている。これが格好いい!)辺りは杉原さんのカラーでしょうか。天井にあんだけ電飾仕込んでんの、歌舞伎では初めて観た。KISSメイクの盗賊にDA PUMPのような群舞と、華やかなヴィジュアルでした。

それにしても四代目の座長ぶりよ……。涼しい顔して若手に活躍の場を用意し、新しい要素をどんどんとりいれる。それが歌舞伎の伝統とぶつかることもあるだろうけど、リスクは座長である自分で負う訳です。あ、これって閻魔様だね! おあとがよろしいようで。

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・スーパーリストバンドの宣伝がすごかったですね…客席でもロビーでも、開演前にも幕間にも、音声でも映像でも。あれ、まわるんだよ……「歓喜の価格、せんえんだ〜」(笑)。オグリと照手姫によるCM映像は猿之助さんと隼人さんの2ver.あったので、新悟くんは二度撮ったんだなと思うとまた微笑ましい