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2019年11月03日(日)
『終わりのない』

世田谷パブリックシアター+エッチビイ『終わりのない』@世田谷パブリックシアター

古代ギリシアの長編叙事詩『オデュッセイア』を原典に……といっても手掛けるのは前川知大とイキウメン。神々が傍にいる世界として描かれたそれは、宇宙に及びます。出会う神々は宇宙生物。望郷の念は星単位。スケールが大きいと、一周まわってSFになるのだな。そんな領域へ踏み入ろうとする人間は愚かか、果敢か。ひとりの青年の冒険には、無限の可能性が拡がっている。それを受け入れることは未来への讃歌か、滅びゆく種族の絶望か。青年は数々の苦難に遭い乍らも成長する。過去に犯した罪は消えない。それでも時間はとまらない。

幕開けの画ヅラが素晴らしかったなー(美術:土岐研一、照明:佐藤啓)。水中が宇宙空間になる。水底と宇宙が繋がる暗闇。窒息の恐怖。ダイバーの父親と物理学者の母親は、ひきこもり気味の息子を心配することと同列で、人類の未来についても頭を悩ませている。それが出来るのは自分しかいない、という自負をもって。

原典からの発想とはいえ、同級生を妊娠〜流産させる(その後の対応も酷い)という設定にひいてしまったので序盤から主人公に対する印象が最悪になる。おまえホントクズだな〜、という出発点なので、その後彼がいろいろ試練を受けても、おうおうがんばれ、くらい突き放して観ることに。とはいえ、まあその試練がスケールデカいわけです。ひとひとりが到底背負いきれるものではない。人類はもう地球には住めない。他の星の移住には選定がある。その選定基準は? 選ばれなかったひとたちのことを、おまえ(=主人公)はどう感じているのか、おまえには何が出来るのか。彼の慟哭は、嘆きと奮起に満ちている。山田裕貴の熱量に圧倒される。

彼がこれからどう生きていくか、それによって出現する世界はどう変わるか。では彼女の未来は? 結果、やはり主人公に対してはおうおうがんばれ、と思うばかりなのでした。なんとも奇妙な作品になったな。ものごとをひいて見れば見る程ドライになるもので、それがときに残酷に映る場合もある。種と個を天秤にかけることは難しいな。AIですら迷いが生じたじゃないか。そうして迷ってぶつかって前進していくしかないのだろう。前川作品はそこから目をそらさない。

“端末”浜田信也は黒々とした瞳があまりにもPepperくん(Softbankの。てかPepperくんいうたらこの子しか連想しないもんね、もう。普通にくん付けで呼んじゃうし。考えてみればすごいな)に似ており、適役すぎた(笑)。そして森下創はヨーダに以下同文。浮世離れという意味では仲村トオルも。前川作品の理路整然台詞を乗りこなす、たよりになる役者さんです。村岡希美は岩本幸子退団後からイキウメ関連作に参加するようになった記憶があるが、あの声と語りが重宝されているのかなと思う。女優の声は前川作品にとってとてもだいじな要素に思えます。今回も、物理学者であり母親である人物を説得力のある演技で見せてくれました。