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2018年11月14日(水)
『ボヘミアン・ラプソディ』

『ボヘミアン・ラプソディ』@新宿ピカデリー シアター2

うおおおおおい、ライブヴエイドどころか最初っからずっと泣いてた…泣きつかれた……。本編の最初ではなく、20世紀フォックスのあのファンファーレのとこからもう泣いてた(ネタバレになるので後述)。しかもさエンドロールの最後にかかる曲でモーリス・ベジャールのこと迄思い出してまた泣いた。へとへと。そういえば、フレディ・マーキュリーもベジャールも11月に亡くなったのだった。


そんでYouTube観ますよね。そうそう、最初のイントロのミスタッチ。フレディが贈るキス。ペプシの紙コップ。ステージ前のカメラマンピット、イントレに座って観ている二人組……あっ、ちょっと違う、と思ったのはフレディの腹まわり(笑)。ちょっとよ、ちょっと! そして、実際の中継映像は殆どがフレディのみを捉えていることに気付く。つまり、他の三人──ブライアン・メイ、ジョン・ディーコン、ロジャー・テイラー──の表情は、「映画」のものだということ。こうだったと思う三人と、こうあってほしいと願うファンの思いが掬いとられていたのだ。これは素晴らしい「再現」、とまた泣いて、翌朝まぶたパンパン。メガネとったのび太みたいになってた。


そんでこれも観ちゃう。1992年。アクセル〜。

ライヴエイド中継を観ている世代です。憶えているのはデヴィッド・ボウイとクイーン、それとフィル・コリンズのステージ。そして日本の中継スタジオ。フジテレビの逸見アナウンサーと南こうせつが進行だったよねー。Wikipediaによると中継は一部だったそう。となるとクイーンとボウイがタイミングよく中継されたこと、それを観ることが出来たのって運がよかったというか……寝てしまって観ていないところもあったもの。

ついでにいうと、クイーンが活躍した70〜80年代の日本は、比較的洋楽がくらしと身近だったように思う。娯楽やメディアの選択肢、それらへアクセスする方法が今より少なかった分、「みんなが知ってる歌」というものが多かった。こども向けテレビ番組やCMで洋楽のヒット曲が多数起用されていたし、なんたってこのライヴエイドが地上波で十数時間中継されていた。おかげで宮崎の片田舎に住んでいた中学生もこのイヴェントを観ることが出来た。もひとつついでに、クイーン、エアロスミスとともに「ハードロック御三家」と呼ばれていたKISSの「メンバーのすっぴんを見たひとは死ぬ」なんて噂が小学校に迄流れて(本当です。繰り返すが宮崎の片田舎によ!)恐れられていた時代ですわ。これのおかげで今でもちょっと怖いもんな、KISS。

前置きが長いよ! QueenのLIVE AIDが見事に再現されている、というのが観に行く決め手でした。クイーンの誕生、崩壊、再生という伝記ものではあるけれど、その終焉迄は描かれていない。そういう意味ではバンドの青春時代を切りとったものだといえます。史実とは違うところも多い。『タクシー運転手』でのあれこれを思い出しました。こちらの場合は運転手の人物像が多少戯画化されており、映画公開後に彼の家族が「父は高級ホテル所属の運転手で英語が堪能だった。ひとの仕事を奪ったりするようなことは決してなかった」とコメントを出していた。『ボヘミアン〜』の場合、フレディのパーソナルマネジャーだったポールの描写がかなり辛辣。これもメンバーやファンが「こうあってほしい」と思った結果なのかもしれないが。よりドラマティックに、よりエモーショナルに。鑑賞後に原典を探して作品世界とその歴史をより深く知るもよし、フィクションのファンタジーを大切にして、事実に目を向けなくてもよし。映画館を出たあとは、あなた次第。映画の業みたいなものも感じたのでした。

しかしこうした釈然としない気持ちは、ラスト20分のライヴエイド再現で消し飛ばされてしまう。それ程あのシーンは素晴らしい。高揚、興奮、狂気と歓喜。当時を知っているひとも、知らないひとも、映像を通じてあの場を体験出来る。音楽の力、映像の力。再現に献身する演者も素晴らしかった。てかさグウィリム・リー(ブライアン役)の似っぷりすごくなかった?! なんかもーわけがわからなくなって、映画のあとクイーンの映像観てて、このブライアン(本人)誰かに似てるなー、あ、ブライアン(映画の)だったー。とか思う有様であった。逆だ。ブライアンの! あの! 聡明さと思慮深さが滲み出てる感じというかさ……。他の三人も同様。見てくれだけではなく、その人物の性格が映し出されているようだった。

観客の年齢層は高めではあるけど、若いひとも結構いて、一緒に泣いたり笑ったり。ライヴエイドのシーンはもうちょっとあんた大丈夫? と自分でもひく程涙がとまらないし、油断すると嗚咽が出そうな程だったし、でも周りも揃って泣いてるしではたから見ればかなり異様な光景だったでしょう。音楽の、映画の力よの〜。余韻のなかあちこちからグズグズ聴こえる状態で退場していたら、後ろにいた若い女の子が「なんなのあのポールってやつ?! ムカつく!」と憤っていて、周囲のひと(私も)が思わずふふっと笑っていた。こういうのも映画館での楽しさですね。ほろり。

あちこちに感じられた作り手の「思い」──「願い」と言い換えてもいい──から伝わってきたのは赦し。ひとはやりなおせる、壊れた関係が修復することもある。そして時間は流れるという浮世の習い。ロバート・メイプルソープ、キース・へリング、ジョルジュ・ドン、ルドルフ・ヌレエフ……治療法がなく恐れられていたAIDSという病は、多くの才能を奪っていった。感染経路から多くの偏見や差別が生まれた。時間はそれらを和らげた(なくしたとはまだいえない。いえるときが来るといい)。発症を抑える抗HIV薬も開発されている。多くの聴衆を魅了し乍ら、常にボヘミアンだったフレディは生涯を通じて闘い続けた。ときにぶつかり乍らも彼に寄り添ったひとびと──実際の家族、バンドメンバー、ソウルメイトとなった友人たち──は、その死後も彼を愛し続ける。クイーンが生んだ数々の名曲は、世代を越えて愛され続ける。

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・フレディが愛したねこたちも多数登場。皆とてもかわいい! のでねこ好きも観るといい〜!

・【ネタバレなし】映画『ボヘミアン・ラプソディ』を100倍楽しむためのトリビア・エピソードまとめ┃togetter
延々読んじゃう。集合知の楽しさよ〜

(20181123追記)
・映画『ボヘミアン・ラプソディ』から振り返る、まじさん(@mazy_3)氏による当時のAIDSに対する風潮の記憶┃togetter
もうひとつ、よいまとめがあったので。当時を知らない若いひとたちに知ってほしいことでもある。『フィラデルフィア』はトム・ハンクスの演技も素晴らしいし、おすすめです。
ちなみにこのまとめでは触れられていませんが、注射針の使いまわしにより多くのヘロイン使用者も感染しました。それもあってアンソニー・キーディスとかは定期的に検診を受けていた。日本でもACによる啓発CMが頻繁に流れていました

・コラム:映画翻訳の現場から 第47回「流浪の自由人の狂詩曲」
今作の字幕を手掛けた風間綾平さんによる解説。そういえば字幕監修は増田勇一さんでしたね

・Queenハイレゾ配信記念インタビュー 『ミュージック・ライフ』元編集長 東郷かおる子さんが語る、Queenとの出会いと編集者人生┃mora
はやくからクイーンに注目し、取材してきた東郷さんが語るバンドと日本との蜜月

・『ボヘミアン・ラプソディ』 オリジナル・サウンドトラック┃UNIVERSAL MUSIC JAPAN
ファンファーレの話。従来のオーケストラのよるものではなく、ロックヴァージョンだったんですよ! 知らないで行ったからふいうちにも程が! で、帰宅後調べたら演奏はブライアン・メイとロジャー・テイラー、録りおろし! だったという……また泣く。というわけで初リリースの音源も収録、クイーンの新譜といってもいい? サントラですよ。よよよ〜