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2017年10月14日(土)
『関数ドミノ』

『関数ドミノ』@本多劇場

「『イキウメ』門外不出だった代表作のひとつを、初のプロデュース公演で」。イキウメ版は2014年に観ています。前川さんのツイートによると、今回の上演は「2009年版をベースに、2014年版のいいところを移植した」ものだそう。演出は寺十吾。

やーやっぱ演出でかわるわー。前川さんは「やや希望残る」「重い話ではない」と言っていたけれど、イキウメによる上演(2014年版)の方が笑えるシーンが多かったという不思議。乾いた笑いと恐怖、世界の不条理を受け入れるしかないというやさしい諦観。自分は前川さんの書くものが好きだと思っていたけれど、演出も相当好きなんだわとようやく自覚した。そしてイキウメの役者陣の特性を改めて実感。怒りを悲しみに、静かに転換してみせる。

とはいうものの、寺十さんの演出には気づかされることが多かった。人間の嫉妬、羨望、満たされない思いというものは他者がいるからこそ生まれるもの。しかし、他者の存在なしにひとは生きていけない。そのしんどさに焦点をあてる。信じるということの美点ではなく、グロテスクな面を見る。若さ、という要素も大きな位置を占める。若者が見る夢と明るい(筈の)未来が、他のひとの心の闇を呼び起こすこともある。誰かのせいにすることは決してイージーではないが、そうすることで安息を得られるということでもない。そのやりきれなさを描く。

それを体現する瀬戸康史が見事。彼が演じる人物が、何故ああいう考えをもつに至ったかの説明は、劇中一切ない。演じる側はそれを考え、表現しなければならない。好青年の顔がどんどん歪んでいく(ように見える)。同じ前川作品『遠野物語・奇ッ怪 其ノ参』でもしんどい役を演じていたが、いい役者さんです。勝村政信、千葉雅子の年長組が、その若者に向きあう。戸惑い、怒りを抑制の演技でみせる。勝村さんは随所にコミカルな演技も織り込んで、緊迫した舞台と客席間のよい緩衝材になっていた。保険の調査員と精神科医は、社会に欠かせない存在を象徴している。そこにちいさな希望を見る。

何故か上田現ののこした楽曲のことを思い出したりもしていた。「だましてもいいぜ ずっと待ってる」。諦観とは、信じることをやめることではない。