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2017年03月30日(木)
『不信〜彼女が嘘をつく理由』

『不信〜彼女が嘘をつく理由』@東京芸術劇場 シアターイースト

『死の舞踏』に続き対面式の客席。舞台はマンションのリビング。ミラーコピーされたような、左右が逆ということ以外は全く同じ間取りの部屋に、庭を挟み向かい合って住んでいる夫婦が登場人物だ。物語は各々のリビングで進行する。場面転換毎に椅子がスライドし、今どちらのリビングにいるかがわかる。

二組の夫婦−四人の登場人物は、全員嘘をつく。しかしタイトルには「彼女が嘘をつく理由」という副題がつく。この辺り、三谷幸喜作品に通底するモヤモヤどころでもある。妻の「病」をとりつくろうために、夫は嘘をつく。妻の無邪気な「鬼」をごまかそうと、夫は嘘をつく。サブタイトルとは裏腹に、女性たちの嘘は不可解なものとして映る。この「わかりあえなさ」を嫌悪ととることも出来るが、ある種そういうものだと諦めもすれば、関係は続けられる。

生活を守るため、犯罪を暴くため、平穏に暮らすため。登場人物たちは少しずつ一線を越えていく。あれっ、それっていいの? といったことから、完全にアウトなもの迄。理由付けをし乍ら、言い訳をし乍ら。その均衡はちょっとしたことで崩壊する。壊すのは夫。というか、壊れるのが夫。そう仕向けるのは妻。つまり、妻次第で夫婦関係は続けることが出来る、という仕組み。いつ迄続くかな? 観察をしているような気分になる。コメディでもあり、サスペンスでもある。人間をとことん観察して、おかしみとこわさも炙り出す。それこそ作家自身が人間不信になりそうだ、と思い、それを描き表現するからこそ、作家は生きていけるのかもしれないと思う。

戸田恵子の声の巧みさ、蜻蛉のよう。第一声から不穏な気持ちをかきたてられる。やがて起こるであろうことを予感させる。優香も同様、声で聴かせる。本心を探らせまいとするふたりの息詰まる攻防がハイライト。このとき自分の席からは優香の表情が見えなかった。反対側に座っていた観客は見ることが出来た。ちょっと羨ましい。栗原英雄はいちばん気の毒にも見える役柄を素直に演じ、だからこそ悲劇性が増す。段田安則は何故モテる? 敢えて役名ではなく本人の名前で書くが(笑)、物語を通してその謎を探るのも楽しい。あ〜モテるわ〜。

コメディパートは、台詞を発するタイミングがちょっと違うと笑えない。ブラック過ぎる面もあるからかもしれない。その辺りは流石の段田さんと戸田さんでした。優香さんは役柄のせいか、どんなに笑える台詞を発してもうそら寒いというか怖い感じがした。笑顔ももはや怖い。その無垢な笑みが怖い。カーテンコールでの姿を見てホッとした。声も通るし、仕草も綺麗だし、また舞台で観たいな。