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2017年03月08日(水)
『雪女』

『雪女』@ヒューマントラストシネマ有楽町 スクリーン2

小泉八雲原作の『雪女』を杉野希妃監督が映画化。特派記者として来日したラフカディオ・ハーンは、英語教師として赴任した松江で雪女伝説を知ったそうだ。映画は、杉野監督の出身地である広島各地で撮られている。隣接する県であり乍ら、温暖な広島と豪雪の島根(特にここ数年の雪害はよく知られている)の印象は全く逆だ。その特徴が表れていたように思う。そして広島という土地の特異性が魅力として感じられた。

日照時間が年間で300〜400時間も違うという山陰と山陽。瀬戸内海側は晴天が多く、くらしやすいと聞く。しかし中国山地の雪は厳しく、盆地は寒暖の差が激しい。広島は少し移動しただけでガラリと印象が変わる土地だ。雪女と巳之吉は雪深い山で出会う。やがて雪女は山をおり、ユキとなって川を渡り巳之吉とくらす。巳之吉は山を離れ、街に出て働きはじめる。ユキはときどき山へ向かう。

所謂「雪国」ではないこの土地に雪女が留まるのはたいへんだっただろう、しかし彼女は十数年そこでくらした。それは何故か…と思いを巡らせずにはいられない、ロケ地広島の不思議な魅力。慣れない土地では具合悪くなるよね、そりゃ熱も出るわ。あっでもばあばが熱は出てないっていってたか。いやーでも体調崩すよね。いや、体調といっていいのか…ヒレが脚になった人魚姫みたいなもので、拒否反応か……なんていろいろ考えるのも楽しかった。

雪女伝説は諸説あれど、日本では馴染み深いもので大概のひとは展開を知っている。それを映画ではアレンジしているわけだが、謎も多い。説明も少ない。ひとりめのこどもはどうなったかは明言されない。不審な死を遂げたひとびとへの追及も断片としてのみ示される。彼らを手にかけたのはユキとその娘であることは間違いないと想像はつくが、それがたとえば人間の精気に飢えた結果なのか、秘密を知った者を消すためか、生来持ち合わせている力のコントロールが出来なかったのかといった「正解」を示さない。そもそもユキたちが不幸の源流だったかも藪の中だ。そう信じる栄作は巳之吉をなじり、漠然とした不安を感じていたハルは息子夫婦の間で戸惑う。そしてユキが誰かをうっすらと知っている巳之吉は苦しみ、ばあばはそんな彼をおおきな愛情で包みこむ。反面、ユキとその娘に、ひとの命を奪うことへの逡巡や苦悩が顕われる場面はない。これら平易な感情表現は、ユキが葛藤の表情を見せる最後の場面で効いてくる。

出典が特定出来ず、曖昧な口伝で知られていく怪異譚にはいろいろな解釈が生まれる。巳之吉の父もよくわからない死に方をした、という台詞もある。彼も雪女に命を奪われたのか、あるいは巳之吉の母であるハルが雪女という可能性も? では巳之吉がひいている血とは……? なんて飛躍した見方も可能だ。イキウメの作品群を思い出したりもした。世界は理屈では解決出来ない不可解なことであふれている。なんとも惹きつけられる作品でした。語弊があるかもしれないが、個人的にはこういった隙間のある作品が好みなのだ。言葉だけでは足りない、情景、物音だけでも足りない。でもそれらが一緒になると、そこから感じられるものがある。

そもそも青木崇高目当てで観に行ったんですが、いーやーよかった。モフモフ。パンフに二ノ宮知子がイラストコメントを寄せており、青木さんのことを「きこり、マタギの天才…」て書いてたのにウケた。確かに。モフモフ。『雨にゆれる女』につづき陰を抱え、水の女と交わる火の男でもありました。山をおりた巳之吉が就職したのは「電気をつくる」会社なのだ。ユキの身体が溶けてしまうのではないだろうかと思わせる、体温の高いエロティシズムを宿す風貌もよかったです。モフモフ。おおっと思ったのは、終盤の涙。告白のまえにぽろっと一粒、心の揺れが具現化したかのよう。捉えたカメラにも感謝したくなる瞬間でした。

巳之吉とユキの娘役、山口まゆがほんとに人間離れして見える瞬間があって驚いた。2000年生まれということは、15〜16歳くらいのときに撮影されたものなんだけど、あの達観した微笑みはなんなんだ……すごいな。雪女を自ら演じた杉野監督はじめ、ハルの宮崎美子、ばあばの水野久美と、さまざまな年代の女性がそれぞれ魅力的に撮られていました。

そうそう、タイトルロゴも好きでした。素敵なデザイン。

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・映画『雪女』Snow Woman オフィシャルサイト

・“規格”のない映画人・杉野希妃、青木崇高と作り上げた「雪女」は「目に見えないものの代弁者」- 映画.com
・軽やかにボーダーを越える人。杉野希妃の新作『雪女』|T JAPAN: The New York Times Style Magazine

・TIFFでの予告

・公開前の予告


違いが興味深かったので並べておく