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2016年09月23日(金)
高橋徹也 20th ANNIVERSARY『夜に生きるもの 2016』

高橋徹也 20th ANNIVERSARY『夜に生きるもの 2016』@Star Pine's Cafe

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vo/g:高橋徹也、b:鹿島達也、drs:脇山広介、key:sugarbeans、pedal steel:宮下広輔、tp:尾崎あゆみ、tb:上杉優、ts:高井汐人
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いーやー……確認のために音源聴きなおしたいんだけど、ライヴがあまりにも素晴らしかったので上書きする気持ちにまだなれず。上書きつったってそのアルバムの楽曲をやったんでしょうがって話ですけどね。あのアルバムがあったから今回のライヴがあった訳で。しかし『夜に生きるもの 2016』と銘打ったとおり、この夜の音は音源のなかにはない。あのときあの場にしかない。

昨年辺りから高橋さんは「デビュー二十周年に向けていろいろ考えている、ライヴのことも」とことあるごとに話していたが、その内容がアナウンスされたときは少なからず驚いた。二十周年を記念して行なわれるライヴで、デビューアルバムではなく、数字的な区切りがある訳でもない、1997年リリースのセカンドアルバム『夜に生きるもの』からの楽曲を中心にセットを組む?

しかしそれがどういうことなのかは、少し考えれば合点がいく。このアルバムが本人にとってどれだけ重要か(自身も「代表作のひとつ」と言っている)、この作品がどれだけエヴァーグリーンなものかは周知の通り。そこへ可能性が加味される。デビューから二十年を経て、当時より演奏のスキルや表現力に磨きがかかっているという自負はあると思う。自身の新たな感性を発見、獲得することもあっただろう。新しい出会いもあった。ひとつの到達点であるこの作品を今どのように表現出来るか。きっと意義のあるものになるという思いが本人のなかにあったのではないだろうか。機は熟した。

ちなみにこのアルバム、振り返るにつくづくメンツがすごい。個人的には菊地成孔が演奏、ホーンアレンジとかなりドップリ噛んでいるところにも興味と魅力を感じていた。そこへ今回のライヴメンバーが発表になり驚いた。dCprGのメンバー、高井汐人の名がある。えええどういう縁? てことはあれよ、音源では菊地さんが演奏したあれやこれやを高井さんが演奏する訳でしょ、シェー(白目)。この時点で相当盛り上がってまして、自分にしては珍しく予習かってくらい当日迄音源を聴き倒していたのですが、聴けば聴く程25歳でこんな作品をつくった高橋徹也に恐れをなし、寒気が起きること数知れず。納涼。異才には異才が集まってくるのねという言葉だけで片付けていいんだろうかというね……いやもーホントこのアルバムに菊地さん呼んできてくれてありがとー! 誰が呼んできたのかしらね……感謝感謝、スタッフに感謝、キューンに感謝ってなものです。

で、繰り返し「ナイトクラブ」のホーンセクションを聴いていた訳です。いーやー気持ちわるくて気持ちいいわー。真剣に聴いてるとオエーとかなるわ、以前ゴセッキーがUA『la』の菊地さんによるホーンセクションアレンジ聴いてて具合悪くなった(それくらい入り組んでる)話思い出すわ。ひとすじなわではいかないポピュラーミュージック、毒気と妖気のアレンジ。これがライヴで聴けるのか、曲順どうなるのかな、まずはアルバム通りで、それだけだと一時間もないから、あとは何やるんだろ、なんて楽しみにしていた。

……ここ迄前置きですよ。長いわ! いつもか! やっと当日きた! 平日吉祥寺19時開演はハードルが高く、19時10分頃ようやく会場へ辿り着く。なんとまだ開演前ぽい、演奏の音が聴こえない。やったあああとドリンクオーダーもうわのそらで入場したと同時に、あの「ナイトクラブ」のホーンが聴こえてきた。実はこれ、opのSEだったのだが、生音との区別がつかない程舞い上がってしまった。ええっ一曲目「ナイトクラブ」?! ここで一階に降りてたら(SPCは二階が受付)その間観逃す聴き逃す、そーれーはーいやー! と二階で観ることにする。慌てて駆け込みステージに目をやる、メンバーが出て来たところだけどブラスセクションがいない。あれ? あれ? 高井さんは? ここでやっとSEだと気付く。やーこれを出囃子に持ってくるとは……しょっぱなからもってかれた。そしてカウント、一曲目は「真っ赤な車」でした。次第に落ちつき、周囲が見えてくる。おお、一階のフロアスタンディングじゃないの、盛況! SPCでスタンディングって初めて見た。

四曲目迄はアルバムの曲順通り、当然二曲目は「ナイトクラブ」。なんでもホーンを加えてのライヴ演奏は初めてだったとのこと。この、ホーンセクションが加わった編成というのは今回の大きな特質で、「大統領夫人と棺」や「夜明けのフリーウェイ」に新たに施されたホーンアレンジには大きな驚嘆と感嘆があった。これらのアレンジはsugarbeansこと佐藤友亮によるもの。ストリングスライヴのアレンジといい、このひとが高橋さんと出会ったことはとても大きい。菊地さんによる「ナイトクラブ」、佐藤さんによる「大統領夫人と棺」「夜明けのフリーウェイ」。不思議と整合性がある。複雑なリズム、屈折したハーモニー。不穏さを含み、背徳的な快感がある。

こうなると村上良成による「新しい世界」のホーンアレンジが異彩を放ってくるのだが、そもそもこの、ド直球に多幸感溢れる楽曲が『夜に生きるもの』に収められていることこそ高橋徹也というアーティストの真骨頂なのかなとも思う。「女ごころ」「夕食の後」の情景描写、この子はホントに車が好きねえと思わず笑みが漏れる「車」歌の数々、そうしていると死の淵に立っているような男性が現れ、老人が犬をつれ散歩する。自分の知らないところで、同じときを生きている誰かが生活している地球の不思議、それらを上空から俯瞰する視点。生きづらさを抱えているひとのエネルギーが逆噴射を起こした末に発見したような、狂気じみた多幸感とささやかな安らぎ。その詩世界、ストーリーテラーたる歌声。夜を生きるクリーチャーだ。

『夜に生きるもの』からやらなかったのは「いつだってさよなら」のみ。新旧代表曲を織り交ぜライヴは進む。ゴリゴリのポピュラーミュージックにゴリゴリのアレンジを加え、ゴリゴリ手練なプレイヤーが自在に演奏する。あまりの凄まじさに笑いが漏れる。「大統領夫人と棺」〜「夜明けのフリーウェイ」の流れは所謂「ゾーンに入った」状態。これ高橋さんのライヴでしょっちゅう言ってて、ゾーンに入るなんてそうそうないだろと言われそうだが実際入るんだよ……そうとしか言いようがない。そこへ音響の妙(「大統領夫人と棺」のドラムがドンカマみたいな底から響く音になってた、ギターが一本なのにディレイでなく複数聴こえる←ここは佐藤さんがサンプリング鳴らしてたのかな、等)が加わるのだからたまらない。音楽という名の怪物が姿を現したと感じるほどの場面が続く。演奏を繰り返し場数を踏んできた、エンジンのデカいバンドの為せる業だ。鹿島“KID”達也があれだけ暴走出来る(いーやーすごかった。恐ろしい。思わず御大! と心のなかで手を合わせた)のも、プレイヤーが“会話”出来ているからだろう。『The Endless Summer』から参加の宮下さんの功績も大きい。最初からペダルスティールが入っていたかのように、楽曲の肌ざわりを変えている。

そこへ高橋さんの唯一無二の声が乗る。まさに水を得た魚。『夜に生きるもの』というアルバムの地力、高橋さんの地力を思い知る夜になった。

演奏と歌に集中力を注いでいるからか、MCはいつにも増して支離滅裂。ときどき我に返って「急に黙り込んでチューニングはじめると戸惑われる、すみません」みたいなことを言っていたのには笑った。仕様だから承知してますよ! そうなるの判る、と言いたくなる程の入り込みっぷりですもんね……。数曲でジャケットを脱ぎ、汗だくのシャツを指して「これ、『新しい世界』のジャケット撮影をしたときに着ていたシャツなんです」。フロアがどよめいた。マグミなみにものもちいいな! 体型の変わらなさもマグミなみだわねそういえば。すごいなー、み、見習いたい……(拝む)。ちなみにその撮影、「走ったり、ジャンプしたり、いろんなポーズを撮ったんだけど、出来上がったのを見たら顔のアップだった」(フロア爆笑)。アートディレクション/デザインは今でもつきあいが続いている木村豊さん、ここにも歴史。

「新しい世界」のあとにメンバー紹介をしようとして言葉につまる。「こんなときに、」とタオルで顔を覆う。ホーンセクションのメンバーの名前をど忘れしたようにも見えたし(よくある・苦笑)、ハイテンションが緩んで茫然自失になったようにも見えた。そして、感極まっているようにも。フロアが静まり返る。やがて拍手と、「がんばれー」なんて声が飛ぶ。苦笑している。その後復調、和気藹々としたMCへ。宮下さんのことを「新しい風を吹かせてくれた」、脇山さんを「旧新しい風」、佐藤さんを「ぬるい風」と紹介してました(爆笑)。それぞれ高橋さんにとってエポックになったプレイヤー。そして鹿島さん。御大もちょっと感極まってたかな、噛み締めてる感じ。「おめでと、」とひとこと。遠藤さんのことを思い出す。

オーラス、デビュー曲である「My Favourite Girl」。演奏する側も、フロアにいる側もあたたかな空気。ミラーボールの光がまばゆい。終わってしまうさびしい時間、終わりがあるからこその幸福な時間。

メジャーからインディーへと活動の場を移し、思うように動けなかった時期や苦しい時期もあったように窺われるので、そのとき聴き続け支え続けたファン/リスナーの方々からするともう感慨深いなんてもんじゃないだろうなと思い、そうなるとそのひとたちにも感謝してしまう。余談だが某カレー屋さんの店長から周年記念のプレゼントもらったとき「食い支えてくれた皆様のおかげです」ってメッセージが添えてあったんだけどそういうのだいじ! ほんとだいじ! 普段からの支えってだいじ!!! 支えなんて思いはなくて、ただただ高橋さんの音楽に魅せられて、というひとも多いのだろうけど。ホント有難い……なんかもうありがたいばっかり言ってる。

終演後の物販には山田稔明さんの姿が。そばにいたのでその瞬間を見ていたのだが、「やるよ」とおおくぼひでたかさん(だったらしい)に声をかけ、するりとブースに入ってきた。あっというまに接客モード、Tシャツの梱包をときサイズの説明を始める。そして「(おおくぼさんを指して)こちらでも対応してます」と客をフォーク並びにさせる(笑)。迅速! そしてスマート! いやー感心した。「タカテツの記念日なら手伝うよ!」って軽やかさにジーン。山田さんとの出会いも大きかっただろうなあ、高橋さん。

二十周年おめでとうございます。あの場にいることが出来てよかった、あの場であの音を聴けてよかった。有難う、有難う。

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セットリスト(高橋さんのツイートより。12

Opening SE:Night Creatures
01. 真っ赤な車
02. ナイトクラブ
03. 鏡の前に立って自分を眺める時は出来るだけくらい方が都合がいいんだ
04. 人の住む場所
05. 悲しみのテーマ
06. シーラカンス
07. かっこいい車
08. 最高の笑顔
09. 女ごころ
10. 夕食の後
11. 笑わない男
12. 赤いカーテン
13. チャイナ・カフェ
14. 大統領夫人と棺
15. 夜明けのフリーウェイ
16. 夜に生きるもの
encore
17. 新しい世界
18. 犬と老人
19. My Favourite Girl

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・夜明けのフリーウェイに立って|夕暮れ 坂道 島国 惑星地球
ご本人のブログ。セットリストも完全版が載っており、これによるとopのSEには「Night Creatures」というタイトルがついていたようです。ということはSE用に新たにつくったか再構成したか……。ストリングスが入っていたという話も見たので、私が入場直後に聴いた「ナイトクラブ」のホーンはそのあとのもの(所謂出囃子)だったのかな

・高橋徹也 20周年記念ライブ 『夜に生きるもの 2016』 感想まとめ - Togetterまとめ
高橋徹也と言えば! のchinacafeさんによるまとめ。有難い…何度も読み返してしまう。高橋さんのすごいライヴを観ると終演後必ず「ちゃ、ちゃいなかふぇさんちゃいなかふぇさん!」とツイート見に行きます毎回。いやまじで

・monoblog:高橋徹也を観て、わからなくなってきました
もはや盟友、山田さんのブログ

・サックス奏者の気まぐれ写真日記 - 汐んちゅのブログ
高井さんのブログ。これの「楽譜と音源を予習してたら異様なサックスソロの後に管楽器セクションによる妙な3連頭抜きフレーズがあり、もしやと思ったらどうやら菊地さんのようでした。聴いて誰だか判るというのは素敵な事ですね。」に大ウケしたんですが、知らんかったんかい。じゃあ何が縁で……こんなことってあるんですねえ
(20161004追記:・サックス奏者の楽屋談義 - 汐んちゅのブログ
ライヴの翌週更新されてた。高橋さん直筆の曲順表から左利きつながりの菊地さんがらみのエピソードから以前話題になった千住くんの耳栓の話も書いてあり貴重)

・菊地成孔の選ぶ菊地成孔の失われた53枚|46. 高橋徹也「夜に生きるもの」
おまけ、ログ残ってた〜。「この人も異能の天才で、ホーンアレンジもかなりやりましたが、サックスソロも吹いてるしライブもやったし、果てはヴィデオクリップにまで出てしまいました。でも、ホーンアレンジが一番好きかな。ギル・エヴァンス的な、ダークで低音寄りのセクションがはいってます。」