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2015年08月22日(土)
『100万回生きたねこ』

『100万回生きたねこ』@東京芸術劇場 プレイハウス

佐野洋子の名作絵本が原作。初演は未見です。ねこは成河、白いねこは深田恭子。ミュージカルと銘打っていますが、歌だけを前面に押し出さず、身体表現とその身体を彩る美術による総合芸術と言う印象が強かったです。つまるところ、それこそが舞台であり演劇。身体が雄弁に詠う分、言葉は短く簡潔になる。その言葉の扱いが美しい。特に友部正人の歌詞が素晴らしい。

一幕は100万回生きたねこの6つのエピソード、二幕は白いねこと出会ったねこの100万1回目のねこ生。一幕は長く、二幕は短い。100万回のねこ生と1回のねこ生なので差を感じるのはあたりまえといえばあたりまえですが、その体感だけではない儚さが二幕目にはあります。好きなひととの時間はあっと言う間にすぎる。懸命に生きた時間はあっと言う間にすぎる。そのあまりのスピードに胸を打たれるのです。ねこと白いねこが結ばれてからの言葉はどんどん短くなり、単語のやりとりになっていく。そして最後は言葉にもならない叫びになる。

言葉遊びがふんだんに盛り込まれたホンに、さまざまなアイディアがつまった美術。規模の大小はありますが、ひとが沢山関われば関わるほど散漫になりがち(特に言葉を扱うパートに至っては)な印象がある総合芸術が非常によくまとまっており、その編集の巧みさ、カンパニーが同じ方向を向いていることに正直驚いた。大前提でもあるこれ、プロデュース公演では決して多くはないのです。演出・振付・美術を手掛けたインバル・ピントとアブシャロム・ポラックのコミュニケート力と、それをしっかり伝えたであろう通訳と、意図を汲んだ演者たちにただただ敬意を抱く。勿論文化の違いを含む誤訳、誤読もあろうが、その誤読をもポジティヴなものへと変換していける骨太さは原作に由来する。実現はとても難しい、手が届かないような普遍な理想。だからこそ読者はこの作品に惹かれ、その実現を追い続ける。

個人的なところでは、ねこと白いねこのしりとりに窪田晴男の「しりとりをする恋人たち」を思い出して悶絶しましたよね…ピチカートVのヴァージョンが有名ですが、もともとはラジオ番組『GIRL GIRL GIRL』で作られたもので、これがすんばらしい! 音源等廃盤になっていますがどこかで探して聴いてください…と言う程にいい曲よー。