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2015年07月11日(土)
NEWシネマ歌舞伎『三人吉三』

NEWシネマ歌舞伎『三人吉三』@新宿ピカデリー シアター7

串田さんが「記録映画ではなく記憶映画」と言い切るだけあってイメージ過多な編集、舞台を観られなかった者としてはメラメラするところもありましたが〜クローズアップで観られて鳥肌の表情の数々、そして闇!

編集がどうにも厳しい。動画と静止画(明緒によるスチール写真)の塩梅がどうにも微妙なのですね。芝居の流れがズタズタになっている。演者の呼吸に添っていないとも言える。黒子にカメラマンを紛れ込ませる等、観客席からでは絶対に目に出来ない角度からのショットは興味深いが、それを使い過ぎの感もある。音の編集も「あっここ切ったな」と言うのが丸わかり(音響がいいので尚更)で、それが短いシーンのなかで何度もある。こんなことなら映像編集後、台詞だけアフレコにしてもよかったのではないだろうか……とさえ思ったが、そうなると実際に観客を入れての上演にカメラを入れた意味がなくなってしまう。難しいところです。大詰めの長い無音場面も、場面を活かすと言うより「これやってみたかったんだ」的な無邪気さを感じた。ちなみにお昼をまたいでの上映時間だったので、この場面はあちこちから静寂を切り裂くお腹の音が響き渡っておりました(…)。

しかし動画のショットはどれも素晴らしかった。光と影、ここぞと言うときの演者の表情を捉えるカメラはそれはもう臨場感溢れるもの。伝吉の独白を聴いてしまったときや十三郎とおとせの訴えを聴いているときの和尚吉三の表情、お坊吉三とお嬢吉三が交わす一瞬の視線等、これらのクローズアップを目に焼き付けられたことは至福だった。命のやりとりをするときの彼らの顔、忘れられない。話には聞いていたが撮影のひとりが山本英夫。そして前述の闇、これはホントにすごかった。どんなに目をこらしても闇の奥が見えない、そこから見え隠れする伝吉の腕、脚、部分だけぬらりと這い出してくるような身体。江戸の暗さ、裏街道に生きてきた人物の暗さ、殺人の予感を感じさせるに充分。

あと木ノ下歌舞伎を観ていたおかげでバッサリ切られたところを脳内保管出来ましたわ……まあ各場を抜粋して上演するのは歌舞伎の常ですし、庚申丸と百両がどう巡るか、どこに落ち着くかは上演形態によって脚色があるものですが、ストーリーの骨子を了解出来ていたのは助かった。有難う木ノ下歌舞伎〜! 今回の座組と演出は、江戸弁がとても心地よかった。百両=しゃくりょう、拾う=しろうってね。

そして新悟くんの立役ようやっと観られた…嬉しい……。やーキリッとした誠実な十三郎役、何も知らないまま死んでいくのがもーせつない! と言えば件の「十三郎とおとせの訴えを聴いているときの和尚吉三」、演じた勘九郎さんの表情はホント素晴らしかったんですが、十三郎がずーーーーーっと話しているのにずーーーーーっと勘九郎さんのアップだったので、ちょ、ちょっとだけでもいいから新悟くんも映して…と思いました……。

そうそう、ヨタロウさんの声込みのエンドテーマをあの音響で聴けたのがかなりおいしいかった。あれ聴くためだけにメトロファンは行ってもいいかもよと思いましたよ!