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2015年06月21日(日)
木ノ下歌舞伎『三人吉三』

木ノ下歌舞伎『三人吉三』@東京芸術劇場 シアターウエスト

いやー面白かった! 機材トラブルで20分開演が遅れましたが本編のグイグイくることといったら、あっと言う間の5時間10分。それにしても杉原邦生演出は空を高く飛ぶ鳥の目を持っている。

通しを観るのは勿論初めて。『地獄正月斎日の場』なんてまあ…こんなんあったんかい……とその演出ともどもポカーンとなったものですが(笑)そこ迄キッチリと通しを上演した最後の最後に改変があったのに驚いた。鈴木勝秀演出の『BENT』を観たときくらい驚いた。木ノ下裕一・杉原両氏がアフタートークでその改変についての解釈を話されたそうですが、うわーそれ聴きたかった! 木ノ下歌舞伎は今の時代に歌舞伎を上演する意味を徹底的に検証するチームなので、絶対に気分で改変したってことはない筈なのだ。ああ知りたいよー。

しかしこの改変、個人的には好きなものでした。本編通して鳴り響くヘリコプターのプロペラの爆音。最後のあの場面、その音に自分は秋葉原通り魔事件を思い出した。ヘリコプターによる上空からの映像。犯人を追うカメラ。これを地上から、三人の吉三とともに感じることが出来たのだ。その「(演出によって喚起される想像上の)映像」は、とてつもなく今で、現実的なものだった。「こんな世の中」は、いつでも今であって、そこではひょんなことから道を踏み外してしまう人物が昏い道をとぼとぼと歩いている。そして彼らに手を差し伸べる、情を持つひとたちがいる。物語が書かれたのは江戸が東京へと変わる頃。そんな昔にも、こんな今にもこんな若者たちはいて、こんな大人たちがいた。三人の吉三がソウルメイトを得る他所で、この物語は文里の再生の物語でもある。

生きのいい役者たちを存分に堪能出来ると言う意味でも至福の5時間でした。知らず知らずのうちに破滅へと向かう若者は三人の吉三たちだけではない。伝吉娘おとせを演じた滝沢めぐみの屈託のない笑顔は、その行く末を知っている観客には眩しく映る。因果応報の連鎖を断つべく苦渋の決断をする土左衛門伝吉と、丁子屋の花魁たちを見守る主人長兵衛を演じた武谷公雄。よき父に映るが娘を夜鷹で稼がせ、優しげな旦那に見え乍ら花魁たちを仕切るその二面性、匂わせる過去、その懺悔。釘付け。地蔵役すら素晴らしかった(笑)。花魁吉野を演じた大寺亜矢子の声と気っ風のよさ、何故そこ迄…? と言う疑問すら昇華する文蔵女房おしづ、藤井咲有里の包容力。あの姿と声で縦横無尽な活躍を見せ、観客との橋をも担った森田真和も印象的。

それにしてもこの作品、因果が巡りに巡っても〜つらいにも程がありますよね。因果酔いする。延々あ〜あの百両今このひとが持ってんだけどな〜そこに庚申丸あるんだけどな〜気付けー気付けー(あたりまえだが)気付かなーいせつなーいって言う。だもんだから「庚申丸じゃん!」て場面はもう客席が爆発したかのようなウケ方でしたわ(笑)ウケたと言えば、『地獄の場』で『あすなろ白書』のパロディがあったんですが、それはあんまり反応なかった。世代か…? ちなみにチャイコフスキー『弦楽セレナーデ』が爆音でかかるのは諒さんのツイートによると「IWGP(ドラマ)へのオマージュ」とのこと。そっちか! まあねえ、わたくし未だに芸劇行くときSADSのあの歌が脳内でかかりますよね…個人的には歌舞伎→だんまりときて『弦楽セレナーデ』と言うと蜷川ハムレットを連想していた。

『弦楽セレナーデ』と言いバッハの『無伴奏チェロ組曲』といい、音がいい上爆音で聴けるこのカタルシス。同時にパンク、日本語によるラップ(EDO、DOG、GODとライムな美術にも唸った!)とまさにミクスチャー。トーキョー(エド)トライブとも言える三人吉三、近々日本語ラップミュージカル『TOKYO TRIBE』を鑑賞予定の身としては非常にタイムリーでもありました。た、楽しい……。