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2014年08月16日(土)
『君となら』

『君となら』@PARCO劇場

観るのは1995年の初演以来。あたりまえと言えばあたりまえだが、時代設定を変えないまま上演している。これが二十年弱のことであっても「ああ、(ちょっと)昔の話だ」と感じることにちょっと驚く。暑さをしのぐには扇風機で充分。ポケベルが鳴り、電話を返す。電話を借りた代金として十円払う。「いや、ポケベル」と言う台詞がある迄、一瞬「ん、この一連の作業って何だっけ?」と戸惑う。

ケニーが口にする「震災」を、いつの震災? と一瞬考えてしまう。初演は阪神淡路大震災があった年だが、このときはあまりにも時期が近かったせいか、作品中の台詞とは繋がらなかった。そして今回この台詞が東日本大震災と(自分のなかで)繋がったと言うことは、自分は東日本大震災を過去のことだと感じはじめていると言うことだ。これはいかん、事実過去のことだとしても、忘れてはいかん、と思ったりもする。

思えば二十年ってちょっとじゃないわ、結構な年数だ。当時は現代劇だった作品を、今回は「昔の話」として、失われた日本の夏の風景を懐かしむように観たことに驚き、そして再演をこうして観るようになるくらい、自分も歳をとったのだなあと思う。いやいや、これが案外悪くないのだ。そして昔の話でも、娘の彼氏と初対面する親のあたふたっぷりや、歳の離れた彼氏についてごまかし続ける娘の姑息さは、やっぱり今でも変わらずに笑えるものなのだ。面白さのキモは変わらない。時を経ての再演って面白いなあ、と改めて思う。そしてホンの堅牢さに感心する。

三谷さんが連載エッセイで書いた効果もあるかも知れないが、草刈さんが「草刈正雄」と言う台詞を言うのを観客がワクワクして待っている感じもした。実際それが口にされたときには、弾けるような笑いとともに、どよめきと拍手が起こった。あと次女の「お父さんはもう帰って!」と言う台詞にも同様の「待機」を感じ、その台詞になったときにはドカンとした笑いが起こった。これねー、ウチでもことあるごとに言ってるもん「お父さんはもう帰って!」(笑)。二十年ずっと笑えるキラーラインです。

初演の出演者は、既にふたりが故人だ。佐藤慶さんと伊藤俊人さん。舞台の上の彼らを思い出す。しかし小林勝也さんよかったなあ、鯱張ったケニー。若ぶるケニー、人生の機微に富んだ台詞のあとにちっちゃな嘘がバレるケニー。かわいい! 前回観たのが『ビッグ・フェラー』のあの役だったから尚更そのギャップにビビる。竹内さんとイモトさんのコンビネーションの良さも見事。長野さんはあれ、初演も出てなかったっけ、当て書きなんじゃないの? と思う程のハマりよう。木津さんは登場場面からしてもうおかしい、愛嬌ある和田くん。長谷川さんもエセ二枚目振りが板についてたなあ(笑)。二日前に観た『炎立つ』に出ていた益岡さんが初演のゲニーだったなあなんて思い出してニッコリ。どちらも二枚目だけど、どっか抜けててひとがよい。

そして草刈さん! 草刈さん! 他に演じるひとがイメージ出来ないくらい、角野さんのお父さん役は素晴らしかったし今思い出しても腹筋がブルブルするんですが、草刈さんが演じることでこうなったか! と感慨しきり。思えば草刈さんて、理容院に張ってある髪型見本のモデルのような典型的ハンサムですやん…あんなハンサム理容師、いたら素敵やん……。本編ずーっとパジャマだったけど(このひとのパジャマ姿を見られるってのがそもそも貴重)、白衣着てる姿がくっきりイメージ出来るわ〜。ニヒルでものぐさなハンサム。ああまごうことなきハンサム。そして面白い草刈さんと言えば『ズンドコベロンチョ』って名作があったわ。彼がコメディでこれだけ光るのは当然のことなのであった。十分ちょっとの作品なので気になる方はどうぞ↓。

・世にも奇妙な物語 #078 『ズンドコベロンチョ』


あと面白かったことと言えば、流しそうめんの装置がすっごい豪華になってて天井を突き抜ける規模のものだったこと。長谷川さんが「天井はどうなってるのかなあ!」と言って場内大ウケ。考えてみれば、初演の演出は山田和也さんでしたね。今回は三谷さんご本人が手掛けておりました。

懐かしい夏の光景、となると自転車キンクリートの『蠅取り紙』も観たくなる。再演の機会があるといいな。